(※二次創作)(大好きな君に)
――大好きなキミに。
突然こんな手紙を書くことを許してほしい。僕は、初めて会った時から、キミのことが好きだったんだ。牧場主として右も左も判らない僕は、少しでも何かアドバイスが得られないかと藁にもすがる思いで、キミの図書館に行った。それまでろくに本屋にすら行ったことのなかった僕は、当然、本の山の前で立ち尽くすしかなかったんだけど、キミはそんな僕に優しく手を差し伸べてくれた。初対面なのに、親切にしてくれた。その日から、僕は、時間があれば図書館に通うようになったんだ。
キミは僕に本当によくしてくれた。仕事に関係ないジャンルの面白い本も、いっぱい教えてくれた。キミだけが書いている秘密の物語も、こっそり読ませてくれた。僕はそのひとつひとつが、本当に嬉しかったんだ。
だから、僕は、キミのことが――。
「お、そろそろいい感じかな」
牧場主ピートは顔をあげた。手には、昨夜一晩かけて書き上げた懇親のラブレターがある。そんなピートの鼻腔を、何とも言えない香ばしい匂いがくすぐった。空は晴れ、風は少ない。絶好のチャンスだった。
「…………」
ラブレターを、くしゃくしゃと丸める。これは届くことのない手紙だ。マリーはもちろん、他の誰にも読ませるつもりはない。ぱちぱちと、火の爆ぜる音がする。ピートはそのまま、目の前の焚火にラブレターを放り込んだ。
マリーが、鍛冶師見習いのグレイと結婚したのは、つい昨日の話だ。
ピートはマリーのことが好きだったけれど、告白一つできないままに、彼女は別の男を選んだ。確かに、毎週木曜日、鍛冶屋が休みの日は、グレイを図書館でよく見かけた。今更気付いたって後の祭りだけども。
「お、焼けてる焼けてる」
焚火の中には、アルミホイルに包んだサツマイモが幾つか入っている。一つ取り出してかぶりつけば、素朴な自然の甘みが広がった。
(※二次創作)(ひなまつり)
「今日から3月か……」
地主さんから貰ったカレンダーは、この村での年間行事が書かれた優れモノで、これのお蔭で僕はつつじが咲く正確なタイミングや、正しい年末年始の過ごし方、それぞれの時期を楽しむ食べ物について知ることが出来ていた。ある程度家の手入れも終わり、困っている村のあれこれも解決した今、正直、僕は時間を持て余していた。よって、そのカレンダーを毎日朝起きて見るのが一つの楽しみになっていたわけだ。
「桃の節句……あ」
僕はあることを思い出して、ごそごそと押し入れの隅を探った。
「あったあった、ひな壇!」
以前、村の優しい女性から、いつものお礼にと譲り受けたものだ。子供さんたちも外に出て、渡しても家が狭いから困ると言われるしと僕に白羽の矢が立った。僕は、貰えるものなら何でもありがたく受け取るタイプなのだ。
女の子のお祭りをするのは、男の僕には似合わない気もするけど、ま、今更だろう。大体気楽な一人暮らし、誰に気兼ねすることもない。
ひな壇は組み立て式のようだ。しばらく考えて、床の間に飾ることにした。というか、ここしか置き場はないし。ひな壇を組むのは初めてだが、思ったより簡単に組み上がった。
「あとはお内裏様とお雛様か」
僕は箱の中に入っていた二人を取り出すと、服の裾でぱっぱっと払ってやった。なんだかわくわくしてくるし、人形も嬉しそう。
「って、なんでキミが」
振り返ったひな壇には、いつの間にか猫がいて、当然のように居座っている。どいてくれるよう頼んだが、どこ吹く風で、僕はお内裏様の場所に二人分並べた。ちょっとぎゅうぎゅうだが、完成だ。立派な出来にいよいよ気分は上がり、小学校の頃に流行っていた替え歌が蘇る。
「灯りをつけましょ爆弾に〜……あ、続き忘れた」
なんだかしまらないなぁ。
(※二次創作)(たった1つの希望)
かつて、たった一つの希望はあの二人だった。
プロクス族最強の戦士と名高いサテュロスと、そのパートナーであり姉であるメナーディ。二人は、数多の同胞を失った例の嵐も乗り越え、エレメンタルスターを奪取し、4つある灯台のうち2つを灯した。だが、敵対する年若い戦士たちに敗れ、その命を散らした。
その日から、希望はメナーディの妹カーストと、そのパートナーのアガティオになった。
全ての灯台を灯さねば、迫り来る虚無にやがて世界中が喰われて消えてしまう。故郷プロクスが滅んで終わりではないのだ。
――そして今、カーストは冷たい灯台の床に、仰向けに倒れていた。
指一本、動かすこともできないほどの疲労に見舞われていた。それは、パートナーのアガティオも同じだろう。灰色の雪雲に覆われた空は、もうよく見えない。
カーストたちは、負けた。気が付いたらドラゴンの姿になっていた二人は、何者かに斃されたのだ。竜に化ける能力なんて持ってなかったのに、無理に変身した挙句、負けて――もう命も、残り少ない。
あと少しだったのに。あと少しで、灯台を登り切り、火を灯してみせたのに。だが、一方で、自分たちを斃したのは、ガルシアたちだったような気もしていた。
(あの子たちなら、きっと……)
辺りはしんと静まり返っている。視界はいよいよ暗い。ただ最期の時を待つしかないカーストは、しかしあることに気付いた。
(あたしたちはダメだったけど、でも……!)
たった一つの希望は、今やガルシアたちなのだ。自分たちは失敗したが、希望は潰えず、真に強きものに託された。もしかしたら、姉たちも、死の間際、自分たちに託したかもしれない希望は、確かに繋がった。
「アガ、ティオ……」
感覚はなく、何も見えないが、声は出るし耳も聞こえる。
「最期まで、一緒だったね……」
絶対に近くにいる男の、声がした。
「……悪くはなかった、ぞ」
きっと、そうなのだ。カーストは何も映さない目をそっと閉じた。
(※二次創作)(欲望)
僕の人生は欲望に満ちている。
まず、金が欲しい。
一にお金、二にお金。先立つものがないと何も出来ない。新しい種だって買えないし、先の収入も途絶えてしまう。この街の人たちはいい人ばかりだけど、流石にお金を直接くれたりはしないだろう。あ、そういや雑貨屋にはツケでやりくりしてる人たちはいたな。うん、その手があるかも?
次に、いい道具が欲しい。
最初からあるボロの農具でも、そりゃ、畑仕事は出来るよ?出来るけど、ちょっと耕すだけでくたびれるし、じょうろだってすぐ空っぽになる。ちょっと大きな切り株や岩となると太刀打ちできなかったり……道具を鍛えるのには鉱物もいるんだよな。
そうそう、体力だって鍛えたい。
頑張って畑耕すじゃん?収穫するじゃん?道具を鍛えるじゃん?でもお昼になる頃にはへとへとじゃあ、一日がもったいなすぎる。もちろん、ミネラル医院でちからでーるやつかれとーるを買えば済むけど、そんな薬漬けな人生は嫌すぎる。
それまで静かに僕の話を聞いていた女神さまが、ようやっと口を開く。
「ほんっっっっと、ピートちゃんって夢がいっぱいあるのね」
「夢?」
僕は驚いた。そんな滅相もない。僕が今言ったのは、すべて、ドロドロで打算に満ちた欲望だ。夢なんてのは、もっとキラキラしていて、僕を成長させてくれるような、そんな尊いものであるべきだ。
「で、他には?」
何が欲しいの?と促され、僕は答えた。
「愛も欲しい」
「愛?」
「そう。愛」
僕には好きなコがいる。宿屋のランちゃんだ。いつも明るくて、よく笑い、よく食べる。料理の腕もかなりのもので、いっぱい出荷できた日は、彼女のご飯を楽しみに宿屋に顔を出すんだ。そのうち、毎日僕のご飯を作ってくれたらな、と思うようになった。それに、ランちゃんのためなら僕、どんな大変な仕事でも頑張れる気がする。
「お金、道具、体力、ランちゃん……僕の欲望は、留まるところを知らないのさっ」
「はいはい」
女神さまは少し呆れていた。
(※二次創作)(列車に乗って)
ガタンゴトンと定期的な音と振動が繰り返され、僕の身体を心地よく揺らす。窓の外は田畑や山、木々の間に変わり随分と時間が経っている。列車に乗って、はるか遠くの小さな村に、僕は向かっていた。
思えばこんな遠くまで列車に揺られていたのは初めてかもしれない。
(リュックの中、もう一度確認しておこう)
僕は隣の座席にリュックを下ろすと、早速中身を見る。まず荷物の大部分を占めているのが寝袋。少ない貯金をはたいて買った、質のいい寝袋で、床でも草むらでもどこでも快適な寝心地を提供してくれるらしい。あとは、ちょっとした身の回り品と、衣料品がいくつか。ん?この底でぐちゃぐちゃに丸まってるのは……替えのシャツじゃん。アイロンとかあるかな、あの村。
僕が今から向かうのは、山あいの小さな村だ。若い人が外に出て、すこし寂しくなってきた、そんな地に、誰も住んでいない古民家があった。土地込みでかなり格安で売られていたそれを買ったから、僕は貯金がゼロになった。僕はその村で、その家で、念願だった田舎暮らしを始めるのだ。
ガタン、ゴトン、変わらないリズムは心地よく僕の身体を揺らす。
古民家を売ってくれた地主さんとは、電話で話したきりで、今日が初対面となる。他の村人さんたちとは、当然何の接点もない。でもなんでだろう、きっと大丈夫な気がするんだ。それに僕、力仕事には自信があるし、細々したことを自分の手でやることも苦にならないタイプだ。
(というよりは、自給自足に憧れて、この移住を決めたんだし)
そろそろ到着する時刻だろうか。僕は、替えのシャツやら小物やらをリュックに詰めると、最後に寝袋を畳んで詰め込んだ。ん、ファスナーがなんだか閉まらな……わわ!電車が失速してる!!
僕は立ち上がった。少しぐらい閉まらなくても、こぼれたりはしないさ。慌ただしく、僕の新生活が幕を開けようとしていた。