(※二次創作)(たった1つの希望)
かつて、たった一つの希望はあの二人だった。
プロクス族最強の戦士と名高いサテュロスと、そのパートナーであり姉であるメナーディ。二人は、数多の同胞を失った例の嵐も乗り越え、エレメンタルスターを奪取し、4つある灯台のうち2つを灯した。だが、敵対する年若い戦士たちに敗れ、その命を散らした。
その日から、希望はメナーディの妹カーストと、そのパートナーのアガティオになった。
全ての灯台を灯さねば、迫り来る虚無にやがて世界中が喰われて消えてしまう。故郷プロクスが滅んで終わりではないのだ。
――そして今、カーストは冷たい灯台の床に、仰向けに倒れていた。
指一本、動かすこともできないほどの疲労に見舞われていた。それは、パートナーのアガティオも同じだろう。灰色の雪雲に覆われた空は、もうよく見えない。
カーストたちは、負けた。気が付いたらドラゴンの姿になっていた二人は、何者かに斃されたのだ。竜に化ける能力なんて持ってなかったのに、無理に変身した挙句、負けて――もう命も、残り少ない。
あと少しだったのに。あと少しで、灯台を登り切り、火を灯してみせたのに。だが、一方で、自分たちを斃したのは、ガルシアたちだったような気もしていた。
(あの子たちなら、きっと……)
辺りはしんと静まり返っている。視界はいよいよ暗い。ただ最期の時を待つしかないカーストは、しかしあることに気付いた。
(あたしたちはダメだったけど、でも……!)
たった一つの希望は、今やガルシアたちなのだ。自分たちは失敗したが、希望は潰えず、真に強きものに託された。もしかしたら、姉たちも、死の間際、自分たちに託したかもしれない希望は、確かに繋がった。
「アガ、ティオ……」
感覚はなく、何も見えないが、声は出るし耳も聞こえる。
「最期まで、一緒だったね……」
絶対に近くにいる男の、声がした。
「……悪くはなかった、ぞ」
きっと、そうなのだ。カーストは何も映さない目をそっと閉じた。
(※二次創作)(欲望)
僕の人生は欲望に満ちている。
まず、金が欲しい。
一にお金、二にお金。先立つものがないと何も出来ない。新しい種だって買えないし、先の収入も途絶えてしまう。この街の人たちはいい人ばかりだけど、流石にお金を直接くれたりはしないだろう。あ、そういや雑貨屋にはツケでやりくりしてる人たちはいたな。うん、その手があるかも?
次に、いい道具が欲しい。
最初からあるボロの農具でも、そりゃ、畑仕事は出来るよ?出来るけど、ちょっと耕すだけでくたびれるし、じょうろだってすぐ空っぽになる。ちょっと大きな切り株や岩となると太刀打ちできなかったり……道具を鍛えるのには鉱物もいるんだよな。
そうそう、体力だって鍛えたい。
頑張って畑耕すじゃん?収穫するじゃん?道具を鍛えるじゃん?でもお昼になる頃にはへとへとじゃあ、一日がもったいなすぎる。もちろん、ミネラル医院でちからでーるやつかれとーるを買えば済むけど、そんな薬漬けな人生は嫌すぎる。
それまで静かに僕の話を聞いていた女神さまが、ようやっと口を開く。
「ほんっっっっと、ピートちゃんって夢がいっぱいあるのね」
「夢?」
僕は驚いた。そんな滅相もない。僕が今言ったのは、すべて、ドロドロで打算に満ちた欲望だ。夢なんてのは、もっとキラキラしていて、僕を成長させてくれるような、そんな尊いものであるべきだ。
「で、他には?」
何が欲しいの?と促され、僕は答えた。
「愛も欲しい」
「愛?」
「そう。愛」
僕には好きなコがいる。宿屋のランちゃんだ。いつも明るくて、よく笑い、よく食べる。料理の腕もかなりのもので、いっぱい出荷できた日は、彼女のご飯を楽しみに宿屋に顔を出すんだ。そのうち、毎日僕のご飯を作ってくれたらな、と思うようになった。それに、ランちゃんのためなら僕、どんな大変な仕事でも頑張れる気がする。
「お金、道具、体力、ランちゃん……僕の欲望は、留まるところを知らないのさっ」
「はいはい」
女神さまは少し呆れていた。
(※二次創作)(列車に乗って)
ガタンゴトンと定期的な音と振動が繰り返され、僕の身体を心地よく揺らす。窓の外は田畑や山、木々の間に変わり随分と時間が経っている。列車に乗って、はるか遠くの小さな村に、僕は向かっていた。
思えばこんな遠くまで列車に揺られていたのは初めてかもしれない。
(リュックの中、もう一度確認しておこう)
僕は隣の座席にリュックを下ろすと、早速中身を見る。まず荷物の大部分を占めているのが寝袋。少ない貯金をはたいて買った、質のいい寝袋で、床でも草むらでもどこでも快適な寝心地を提供してくれるらしい。あとは、ちょっとした身の回り品と、衣料品がいくつか。ん?この底でぐちゃぐちゃに丸まってるのは……替えのシャツじゃん。アイロンとかあるかな、あの村。
僕が今から向かうのは、山あいの小さな村だ。若い人が外に出て、すこし寂しくなってきた、そんな地に、誰も住んでいない古民家があった。土地込みでかなり格安で売られていたそれを買ったから、僕は貯金がゼロになった。僕はその村で、その家で、念願だった田舎暮らしを始めるのだ。
ガタン、ゴトン、変わらないリズムは心地よく僕の身体を揺らす。
古民家を売ってくれた地主さんとは、電話で話したきりで、今日が初対面となる。他の村人さんたちとは、当然何の接点もない。でもなんでだろう、きっと大丈夫な気がするんだ。それに僕、力仕事には自信があるし、細々したことを自分の手でやることも苦にならないタイプだ。
(というよりは、自給自足に憧れて、この移住を決めたんだし)
そろそろ到着する時刻だろうか。僕は、替えのシャツやら小物やらをリュックに詰めると、最後に寝袋を畳んで詰め込んだ。ん、ファスナーがなんだか閉まらな……わわ!電車が失速してる!!
僕は立ち上がった。少しぐらい閉まらなくても、こぼれたりはしないさ。慌ただしく、僕の新生活が幕を開けようとしていた。
(※二次創作)(遠くの街へ)
かくしてカイは都会に帰っていった。
一人で見上げる空の、なんと高いことだろう。
クレアは牧場主だ。今年の春に乗っていた船が嵐に襲われ、一人だけこの街の浜辺に流れ着いた。災害に遭ったショックで名前以外の記憶を失くしたクレアは、当座の間ということで、牧場の跡地に住むことになったのだ。
右も左もわからないままに、がむしゃらに日々を過ごし、夏。クレアは、カイに出会った。
「女の子ひとりで牧場!?誰も止めなかったのか?」
クレアの来歴を知ったカイは、とんでもないことだと一人で怒っていた。確かに、大変だった。ようやく鶏を一羽買えたぐらいの頃だった。でも、どこの誰かも判らない胡乱な人間を受け入れてくれたのだ、クレアはこの街に感謝していた。
カイは世話焼きな男だ。海の家の営業もあるだろうに、毎日のように牧場に足を運んではクレアの様子を見てくれた。そんな彼のことを、クレアは好きになってしまった。
(今日から秋……)
昨日までとは違う作物が育つ季節だ。雑貨屋に種を買いに行かなくてはならないのに、足が重い。カイは夏が終わると同時に自身の住む都会に帰っていった。次に会えるのは、来年の夏。秋は始まったばかりで、なんと遠いのだろう。
(一緒に行けたら、よかったのに)
カイが暮らす遠い街を想う。牧場なんて捨てて、一言、連れて行ってと言ったらよかったのだ。街の人はクレアに本気で牧場主になってほしがっているわけではない。行く宛がないから置いてくれただけだ。
(でも、カイが私のことをどう思っているかは、判らない)
クレアは出荷箱の蓋に腰掛ける。昨日までは、大体今ぐらいの時間帯にカイが顔を出していた。嫌われてはいないだろう。でも、好かれているかは、別。一緒に行きたいと言ったところで、拒否される可能性の方が高い。
(畑仕事、しなきゃ)
クレアはのろのろと立ち上がる。遠い街のことは、意識的に脳内から追い出した。
(※二次創作)(現実逃避)
パルデア四天王チリはとろけていた。
ナッペ山ジム2階の居住スペースには大きな窓があり、雪山の景色を一望できる。リビングのテーブルにつっぷしながら、チリは力のない声を出していた。
「あー……」
「あんた、支度しなくていいの」
家主ならぬジムリーダー兼恋人のグルーシャがやってくる。ちょうど試合が終わったところらしい。久々の挑戦者だが、初めてのジムをここに選んだため、低レベル帯のポケモンを久々に戦わせる羽目になった。やや慌てた様子のグルーシャを思い出し、チリは一言。
「準備が足らへんのやないのー」
「勝ったからいいだろ」
グルーシャは憮然としている。
チリは再び、突っ伏して長い脚をぶらぶら揺らした。ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのにと思う。グルーシャとの甘い時間を楽しみたいのもあるが、理由は他にもう一つ――。
「ねえ、チリさん。あんたブルーベリー学園に呼ばれてるんでしょ。特別教師だっけ?」
「せやかて、ウチが先公なんてタマやないし」
先ほどからうだうだしているのはそのせいだった。新進気鋭の新チャンピオン・アオイが交換留学で行った先の、学内リーグでもチャンピオンになった。チャンピオンの権限として、パルディ地方の名だたるトレーナーを招聘できるようになったのだが、真っ先に白羽の矢が立ったのがチリだった。
「なしてウチなーん……」
「ねえ、もしかして、荷造りしないといけないのに、現実逃避しにここにきてる?」
グルーシャは冷ややかだ。チリは、小言に近いそれを、右から左に聞き流す。図星だった。だが、まだ大丈夫なのだ。出立は明後日の朝。明日はオフだし、丸一日はこのままここに泊まってだらだらしても――。
「しょうがないな」
グルーシャは、どこか萎れた様子のチリの髪をちょいちょい、と引っ張った。
「その特別講師?ぼくも呼ばれてるって言ったら、やる気出る?」
「出る出る超出るぎょうさん出ちゃう!」
チリは跳ね起きた。