美佐野

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(※二次創作)(現実逃避)

 パルデア四天王チリはとろけていた。
 ナッペ山ジム2階の居住スペースには大きな窓があり、雪山の景色を一望できる。リビングのテーブルにつっぷしながら、チリは力のない声を出していた。
「あー……」
「あんた、支度しなくていいの」
 家主ならぬジムリーダー兼恋人のグルーシャがやってくる。ちょうど試合が終わったところらしい。久々の挑戦者だが、初めてのジムをここに選んだため、低レベル帯のポケモンを久々に戦わせる羽目になった。やや慌てた様子のグルーシャを思い出し、チリは一言。
「準備が足らへんのやないのー」
「勝ったからいいだろ」
 グルーシャは憮然としている。
 チリは再び、突っ伏して長い脚をぶらぶら揺らした。ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのにと思う。グルーシャとの甘い時間を楽しみたいのもあるが、理由は他にもう一つ――。
「ねえ、チリさん。あんたブルーベリー学園に呼ばれてるんでしょ。特別教師だっけ?」
「せやかて、ウチが先公なんてタマやないし」
 先ほどからうだうだしているのはそのせいだった。新進気鋭の新チャンピオン・アオイが交換留学で行った先の、学内リーグでもチャンピオンになった。チャンピオンの権限として、パルディ地方の名だたるトレーナーを招聘できるようになったのだが、真っ先に白羽の矢が立ったのがチリだった。
「なしてウチなーん……」
「ねえ、もしかして、荷造りしないといけないのに、現実逃避しにここにきてる?」
 グルーシャは冷ややかだ。チリは、小言に近いそれを、右から左に聞き流す。図星だった。だが、まだ大丈夫なのだ。出立は明後日の朝。明日はオフだし、丸一日はこのままここに泊まってだらだらしても――。
「しょうがないな」
 グルーシャは、どこか萎れた様子のチリの髪をちょいちょい、と引っ張った。
「その特別講師?ぼくも呼ばれてるって言ったら、やる気出る?」
「出る出る超出るぎょうさん出ちゃう!」
 チリは跳ね起きた。

2/28/2024, 9:54:47 AM