心臓には4つ、部屋がある。
右心房、右心室、左心房、左心室。
心房で血液を心臓内に受け入れ、心室からまた送り出す。
人の心臓は大体真ん中にある。
心臓の音が自身から左の方がよく聞こえ、感じやすいということから左の方にあると言われていた時もあった。
心臓から全身へ送るためには力がいる。
そのため、左の方はより筋肉が厚い。
知ってるって?ああこれはただの前置きさ。
「さてここまでは良いとして。
突然だが、君はこころというものはどこにあると思う?」
心臓の話をしておいてなんだが、君の考えを聞かせておくれ。
ふふ、君でも考えたことは無かったかな?
ならば考えて、それを私に教えてくれ。
ほら、そんな隅っこで本ばかり読んでいないで。
君のその知識を、私にも教えてくれよ。
どうしても難しいなら、私がそちらへ行こう。
構わないかな?
……ありがとう。
ではお互いの考えを発表していこうじゃないか。
楽しい議論をしよう。この世には沢山の知者がいる。
気が向いたらまた別の機会でも私や、他の人間と対話してみてくれ。
君の世界は必ず広がる。本当だとも。
なんせ私がそうなのだからね。
私も元は隅っこにいた子どもだったからな。
まあ、会話くらいはよろしくよ。
「あんたもオンボロ家によく来たよね」
楽しい時間を送れそうで何よりだよ。
それに、知者と話せるならどこへでも行くさ。
さあ議論を始めようじゃないか。
なんでも疑問に思ったことは口にしていこう。
お互いそうして考えを深めるんだ。
正式なものでも無いんだから、気楽にいこう。
もっとも、そういった形の方がやる気が出るなら構わないがね。
「部屋の片隅で」2023/12/07
あれは、いつの事だったんだろうか。
俺は確か通勤のために電車に乗っていた、はずなんだ。
行きだったのか、帰りだったのかも覚えていない。
ただ、不思議と明るい空だったように思う。
朝だとか昼だとか、そういったものを感じられなかったんだ。太陽がいたかどうかはわからない。ああ、すまん、こんな話は要らないか。
なんせ、夢なのか現実なのかもあやふやだ。
その日のその時に起きたこと、そしてその時に犯してしまった俺の罪を。
聞いてくれるだけで嬉しいさ。記事にするのかどうかはアンタに任せよう。
まあ、記事にしたところで到底信じる者は居ないだろうが。
話を戻すぞ。
電車に乗っていた俺は、電車がアナウンスもなく停車したことに気づいていた。しかも降りなきゃいいものを何故かホームへ降り立ったんだ。
駅名は書いてなかった。と言うか看板がなかったな。何処にも何も書かれていなかった。
え?おかしいと思わなかったのかって?
今ならそりゃ思うさ。でもな、あの場所じゃそうは思わないんだ。ああ着いたな、みたいなフラットな気持ちになるだけさ。
乗客も人っ子一人居なかったよ、綺麗さっぱり。
……なあ、煙草、いいか?苦手なら……。
そうか、ありがとよ……ふーー……。
まあ、普段乗る電車はどの時間帯も人がいないなんてことは有り得ない。
割と栄えている地域に居たからな。
ああ、そうそう、そこだ。よく知ってんな、調べたのか?知ってんならわかるだろ?割と都会の方だって。
ま、降りてみたんだよ。そこには田舎があった。
あんま詳しくは覚えてないが、まあ普遍的な田舎を想像してくれ。多分それだから。
どうしてそこに着いたのかなんてそんなこと聞かれたって俺にはなんとも。知らないね。なんかそこに俺は居たんだ
よ。
それからは歩き回ってみた。誰もいねえもんで、地名だとか書いてる電柱とか探したが……電気すら無さそうだったな。というか民家はあるのに表札がない。
文字が無い場所だったのかもな。といってもこれは俺のただの思い込みかもしれんが。
その後?よくある話と同じだよ。俺は魅入られた。
俺が、魅入ったんだ。本に。
その、話が………話……金髪が……………
はっ、はは。すまん、たまにこうして意識が持ってかれちまいそうになるんだ。
こう、内容を口にしようとするとこうなってしまうんだ。
俺はもう寝ても醒めてもソイツのことしか考えられなくなっちまっていてな。
本を読んだのは確か…そう、どこかの屋敷に入った時だった。なにかに誘われるように、屋敷に入った俺はそのまま真っ直ぐ書斎へ向かっていた。
部屋の間取りも知らねえはずなのにな。
その地域の民家は割と普通だった…ように見えたんだが、何故かその屋敷の中だけはぐちゃぐちゃだった。
物が沢山落ちていて、まるで強盗でもあったのかと思うくらいだった。
屋敷も少し軋んでいたように思う。それって普通…だよな?その辺は知らんのだが、ギシギシ言っていたのはよく耳に残っている。なんならほら、今も聞こえないか?
ん?冗談?はは、さてどうかな。
その後は……気づいたらまた電車に乗っていたんじゃ無かったかな。
先も言ったかもしれないが、夢にも出てくるんだよ、あの田舎が。
そして俺はまた電車に乗っている。同じようにその地域で電柱を探して歩き、屋敷に入り、本を開くんだ。気づくと電車に戻っていて、また停車したと思ったら……。
夢を見たその日は、眠れないんだ。ずっとそのことだけを考えて何かを呟き続けているらしい。
……精神病だと言いたきゃ言えばいい。実際、家内には連れてかれてしばらく入院していた。気味悪がりもせず、未だ傍に居てくれるのは俺の唯一の幸せなことだ。
何言ってんのか勿論気になった。
レコーダーで録音してみたさ、だがどうも録れていないんだ。故障したのかと何回かチャレンジしたがな、とうとうダメだった。
話せるのなんてこんなもんさ。まあ、好きに受けとってくれ。
この話はもう俺の中ですら真実なのかわかんねえ。
もう、ほっといてくれるのが1番かもな。
ここまで話して何だが、あんたも忘れてくれ。
え?罪?何の話だ?
ははっ、疲れてんじゃないか、すまんすまん、長話だったもんな。
んじゃ、気をつけてな。あんたも、変なもんばっか追いかけ続けるのは辞めておけ。
いくら仕事でも、勘が何か不味いと訴えかけてくる時がある。第六感ってやつ。あれはあるぞ。
それに逆らって、好奇心だけで動いた結果が俺さ。
な?少しは聞き入れて生きてけよ。
じゃ、達者でな。もう来んなよ。めんどくせえから。
「眠れないほど」2023/12/06
「ねえねえ、今日もおはなしきかせてくれる?」
ぼくは、このお姉さんのお話が大好きだ。
知らないことを、たくさん知っている、すごい人。
「わたしも!わたしもききたい!」
「……」
この子達はお隣に住んでいる姉弟だ。元気な姉と内気な弟。姉の方はぼくより少し背が低く、小さい。まだ6つくらいだと思う。そしてぼくは7つ。弟の方は…知らない。
今日もお姉さんのお話を聞きに来たようだ。
「ええ、構いませんよ。ただその前にひとつ。
……皆さん、もう今日のやるべき事は、終えられましたか?」
「うっ、えっとね、お夕飯食べたでしょ、はみがきもしたし、お洋服もきがえた!」
指折り数えつつ、やるべき事、にあてはまりそうなものを考える。たぶん、大丈夫。
もしも忘れちゃっていたら、お母さんとかがお話の途中でもしなさいって言って、怒られるから。
……それで聴き逃した事があって、それからは気をつけている。
「わ、わたしね!弟のお手伝いもした!」
「……お姉ちゃん、またきくの?」
「何回でも聞きたいの!」「ふぅん……」
「ふふっ、ありがとう。……なら貴方たちは大丈夫ですね?」
「うん!」「もちろん!!」「…うん」
「じゃあ、もう少し待って、他の子も揃ったら始めましょうか」
「この世界では、この星はたくさんのお水があるの。
それこそ、何回すくってもどれだけ沢山飲んでも、無くならないくらいよ」
そうなんだ、と思いつつ静かに聞く。
お話を聞く時は、決まってぼくたち皆は床に座っていて、お姉さんはボードに絵で描いたりしながらお話をしてくれる。
「これはガスで出来た星。他にもあるんだけれど、この星は特徴的な形で……」
今日の集まった人は少ないかも。きっともうすぐ、祭りの日だからだろう。手伝わされている子もいるだろうし、普段は大人だって何人かは聞きに来るのに、今日は誰もいない。
本当に、知らない世界のお話は何回聞いたって面白い。
お姉さんのお話がうまいから、毎回想像してしまうんだ。
そうして皆が静かにお姉さんのお話を聞いている時に、突然それはやってきた。
「あなた。またこんな所で変なこと話してたのね?
また変なこと言っているんでしょう!
子供たちによくもわからない空想話なんて教えてないでちょうだい!」
この人はお姉さんのお母さん。
こうして時々、ぼくらのお話会に邪魔してくるんだ。
だから定期的に場所を変えているんだけれど、やっぱり子供のぼくたちに遠慮して、お姉さんはあまり遠くに動こうとしない。
だから見つかってしまったんだろう。
いつもなら、お説教の嵐を巻き起こして、去っていくんだけれど。その日は違った。
「はぁ…もういい加減にしてよ!私が厄介者のように扱われるのは貴方のせい!!もうこんな事させないから!
ほらこっち来なさい!」
お姉さんを、連れていこうとしたんだ。
みんなびっくりしていたけれど、果敢に引き止めた。
でも、所詮は子供の力。十数人集まったところで、敵わない。
当たり前だが、お姉さんは連れていかれてしまった。
果たしてどんな折檻を受けたのか、想像もつかない。
お姉さんは終始、静かだった。何を考えているのか分からない顔をしていた。いや、何も考えてなんていなかったのかもしれない。
それ以降、お姉さんもそのお母さんも、もう町で見ることは無かった。
だから僕は、学者になった。
なるために、あの田舎の町を出た。
大きくなってからあの町の異様さを理解した気がする。
生まれたのは都会の方だったし、しばらくそっちで暮らしていたから町全体に対する違和感はあったけれど、子供のぼくには上手く言語化することも出来なかった。
今なら、お姉さんの夢みたいな話も、証明していける。
その力が今の僕にはある。
お姉さんの話を空想だ、夢だと信じない人たちに、伝えられる。
今日は公の発表の場だ。テレビも居るし記者もいる。
緊張はするけれど、大丈夫。
話す内容なんてほとんどあの頃に何十回と聞いたものがベースなんだから。
「最近のロケット発射により回収された物質を研究した結果、この星は全体がガスで出来ており__」
ねえお姉さん。何処にいるのか、生きているのかも分からないけれど見ているかな。
現実に、証拠を持って説明ができたよ。
あの頃、一緒に聞いていた姉弟はどうしているかな。
これを見たらお姉さんを、また思い出すかな。
夢でもいいから、また会えないかな。
知識のある今の僕と、またお話をして欲しい。
他にもたくさんのお話を聞いた。まだ1つ目。
これからもやることは沢山ある。頑張っていかなければ。
「夢と現実」2023/12/05
「またね」
「うん、また!」
悲しい終わりにはしたくなくて。また、なんて言葉で自分を守る。
こうして向き合って、言葉を交わす時はもう来ないかもしれない。
__ああ、立ち姿から素敵だ。
そんなことを思いながら、ひたすら目に焼きつける。
お互い、わかっているんだと思う。
“また”とは言っても、“また会おう”とは言っていないから。
これはただの社交辞令で、
最後の、お別れのことばだ。
「……でもっ!……もし、もしもね、何かあって、そのっ、どうしても辛くなったらさ、いつでも連絡してよ!」
颯爽と去っていく貴方に、たまらず声をかけてしまった。
ほんとはね、私は……なんて。伝えられたら良かったんだけれど。難しい。
これだけは、どうしてもつっかえてしまって言えない。
羽ばたいていく小鳥を眺めるように、私は貴方を見ていることだけは、許されたい。
「うん、ありがと。お互いがんばろーね」
振り向いた時に靡いたその髪が、日光に照らされて、キラキラと輝いて見える。
同時に優しく微笑んだ貴方のその美しい姿を、私はきっと、ずっと忘れないだろう。
「…っ、応援してる!雑誌に載ったら絶対買う!私も卒業したら、絶対そっち行くから!」
__あわよくば会って欲しい、なんて。
きっと叶わないかもしれない、それでも。
「……待ってる。早くおいで」
そんなこと言われたら、もっとがんばるしかないよね。
「うん!!」
さあ、明日も勉強をしよう。
カメラを構えて、華やかな衣装に身を包んだ人たちを撮るんだ。
より美しく、それでいて衣装だけでなく彼や彼女も、魅せられるように。
なんと声をかけたら表情が柔らかくなるだろうか。
より衣装を映えるように映すにはどうポージングの指示を出すか。
いつまでも未熟ではいられない。
成長し続けていかなければ。
小鳥は見守りたいけれど、レンズ越しに見られるその日を、その時を……私は目指しているんだから。
絶対、私も貴方の元へ行ってみせるんだ。
「さよならは言わないで」2023/12/04
常に明るく、それはそれは輝いていて、誰もが彼女の素顔を見ようとする。
でもそれは何かを犠牲にしたとしても、見ることは出来ない。
私はいつも何かを介して彼女を見上げている。
何かを介せば、感じることは出来るから。
私は知っている。あの子が彼女を羨んでいることを。
あの子というと、彼女とはほぼ全て真逆だ。
ほとんどの者に好かれる明るい彼女と、ほとんどの者に苦手に思われる暗いあの子。
あの子は何も悪くなんかない。暗い所が好きだとも思う。
私も暗い時だってあるからあの子の彼女への気持ちはわかる、と思う。
誰だって、嫌われるよりも好かれる方が嬉しいと思うだろう。
でも彼女だって、あの子を気にかけているんだ。
自分のせいで余計あの子がみんなに苦手に思われているんだろう、って。彼女はわかっているんだ。
でも声は掛けられない、自分が掛けられる言葉なんて、そう見つからないから、なんて悲しそうに微笑みながら言うんだ。
仲介人のようなものである私は、色々と難しかったりする。
2人とも嫌いあってる訳ではない。それどころか、大切にさえ思っているだろう。
それでも、2人は相容れない。
絶対に。
それは仕方の無いこと。
2人の真ん中にいる私には、わかるんだ。
私の存在も、2人が離れているからこそ成り立っているんだって。居ていい理由の一つなんだろうなって。
私は今日も、当たり障りのないように生きる。
バランスよく、この関係が続くように。
輝きを見上げて、ひんやりとした暗がりを見つめて。
「光と闇の狭間で」2023/12/03
1回だけ、板挟みになったなあと思いながら。
私日陰が好きで苦手です。夏は好きだけど、冬は寒い。
我儘。