突然、私にふりかかる冷たい雫。
驚いて少しからだが跳ねてしまったわ。
雨?いいえ、違うわね。
こんなにも空は晴れているのにふるわけないわ。
私、知ってるのよ。雨って、とても痛い時があること。
ねえ、どうしたの?なにかあったの?
そう聞けたらいいのに、私にはすこし難しい。
あなたがそんなだと、なんだか落ち着かないのよ。
……いつになったらやむのかしら。
ほら、私がそばにいてあげる。
いっしょに遊んであげるから、ほら。
いつもみたいに、わらって、やさしく撫でて。
……もうまったく、仕方ないわね。
今日だけは、好きなだけ触っていいわ。
気の済むまで撫でさせてあげる。
ちょっとくらい我慢してあげるから、だからほら、
「泣かないで」2023/12/01
「死にたいの?」
そう聞いてくる先生。
「おれは別に、死ぬとか生きるとか、そんなんどうでもいいんよ」
どうでもいい。なんだっていい。
「そう」
何も言わない先生。
今ここで柵から手を離してしまったら、この人の目の前で死ぬことになる。それはさすがに可哀想だ。
ひとの死ぬ間際なんて、見せるもんじゃないし見るもんでも無い。
「早くどっか行ってや」
「先生はさ、」
おれの話なんて聞く耳も持たない。なんなんだ。
「終わらせようとしたこと、何回もあるよ」
「……」
__生きることを?
なんて思うだけで、聞けなかった。
「でも毎回さ、空見て思うんだ。綺麗だな〜って」
先生は感情がないような顔で話し続ける。
「そんなん、雨の日とかにわざわざ外出ぇへんからやろ」
「あっ確かに〜そうかも!」
呑気に会話してしまっている自分に気づき、驚く。
「あーもうほら、ええからはよどっか行って」
「今日も綺麗じゃん?こういう日って日向ぼっこがいいよ〜一緒にする?」
「しーひんわ。雲は多いしそんなお日さんでてへんし」
確かにいい天気ではある。青空と言えど、沢山の羊雲が見えるからそこまで綺麗な空という訳でもないが。
普遍的な空、だろう。
「そ〜?いつもの空って感じがして好きだよ私」
先生は何がしたいんだろうか。雑談なら他の生徒としてくれないだろうか。
「先生保健室居らんでええん?放課後やけど部活で怪我する子とか来るやろ」
「大丈夫よ〜お日様当たらないと元気出ないし!」
「そーですか」
なんだかこの人のこともどうでも良く感じてきた。もう好きにしてくれ。屋上を去るように言うのももう面倒だしきっと去ってはくれないのだろうから。
人がいない時を見計らうべきなんだろう。
「先生ね、こっち越してきてまだ3年なんだよ」
どうせ今日は無理なら、雑談でもなんでもしてやろう。
そんな気持ちで答える。
「……だからなんやの?」
「だからさ、楽しい所教えてよ。お店とかでもいいよ〜オススメのとこ案内してよ」
聞いた瞬間、思わず眉を寄せた。
先生が生徒を誘うなんて世間体的に良くないのではないだろうか。
「いやそんなん先生ほかの大人に怒られるんちゃう?生徒連れ回してって」
「うーーん……お友達ってことなら良くない?」
「別にお友達なった覚えないし普通にアウトやと思う」
じゃあー、と間伸びした話し方で考えている先生。
リラックスしているんだろうか、先生は屋上に汚れを気にすることなく座っていた。
今気づいたが、先生は今白衣を着ていないようだ。
「メール!メールならバレないんじゃないかな?」
個人的なやり取り、というだけでどうかと思うが。
「……まあ、部活とかは顧問と連絡取ったりはあるけど」
「ならいいんじゃない?」
「いや別におれサッカー部であって保健室の先生とは関係……」
ない、と言い切ろうとしたが、関係はあった。
怪我した時に、しばらく世話になっていた。
「……まあええよ、案内するだけやけど」
走れないこの身体ではもう運動が出来ない。
走り込みはもちろん、過度な運動……ボールを蹴ることすらも辞めるように言われている。
暇だから、承諾した。
「ならよかった。私が終わらせないでいたように、君にも終わらせたくないからさ」
「え?」
「私もね、嫌って、ウザイって思っちゃうくらい構われたことがあるの」
手にはめた指輪を見つめながらそう話す先生は、穏やかな顔をしていた。
「だから君にもしてあげようと思って!許可も貰ったしどんどん遊びに行こうね!」
「えっ!おれ、構われることに許可した覚えはないんやけど!?」
それに旦那さんが居るんだろうに。そんな事していいのだろうか。良くは無いだろう。
「ふふふ、楽しく行こー!おー!」
既に1人で楽しそうだ。いつもの明るい先生になっている。
しばらくは暇な日が、色々と考えてしまう日は、
なくなるのかもしれない。
「先生声でかいわ。静かにしな、立ち入り禁止やのに来てるのバレたら怒られるで」
「あっごめん!よしとりあえず今日はどこ行こっか!」
「今日からなん…!?」
割と本気でなくなるのかもしれない。
うるさい先生のおかげで。
「終わらせないで」2023/11/28
命って大事だよなって、最近になってより強く思うようになりました。
憎らしいほど、愛している。
そんな言葉を言う人がいる。かくいう私もその一人だ。
女でありながら、他の女性の髪や瞳、その肌を愛している。
私は今日も凝りもせずに彼女と夜を明かす。
ああ、なんて辛いのだろう。
それでも愛してしまうことに心底腹が立つ。
愛を向けてしまうあの子に、大切なあの子に、牙を剥いてしまいそうになってしまう。……もう手遅れなんだろうけど。
行為の時には優しいあの子を怖がらせないように、あの子にとって都合のいい甘い言葉を囁く。
あの子にとってこれは毒であり薬なのかもしれない。
自分のこの薄汚い欲に呑まれて、あの子を愛して、どれくらいの日が経っただろうか。そう長くは無いはずなのに、1年はあったかのように感じてしまう。
やりすぎてはいけない。言葉を掛けすぎても、言わなさすぎてもいけない。
行き過ぎた先に待つのは、終焉だけだろう。
いい子なあの子のことだ。私が辛そうな顔をすると気遣う。色々と。
そんなことはしなくていい。あの子にはあの子らしく居てくれたら、私はそれでいいんだ。
いくら愛することが辛くたって、これで構わない。
この私が、綺麗なあの子を汚してしまったのに。
あの子が気にかけるほどの人ではないんだ。
私は獣だ。あの子を喰い殺してしまう。
自分ですら飼い慣らせていない。手から手綱を離しそうになってばかりだ。
その時が来てしまったらと思うと、私はとても恐ろしい。
だからこそここで辞めるべきなんだ。
終わらせるべきなんだ。
これ以上あの子を苦しめないよう。
どうか明るい道へとあの子が進めるように、とだけは願わせてくれ。
優しい人気者なあの子を、愛した内の一人からの願いだ。
私を過去のちょっとした遊びに巻き込まれたと思っていてくれ。
あわよくば、たまに思い出してくれるといいな。
『さようなら。またね。元気でいてね。』
貴女を殺してしまいたいと思うくらい、重い愛なんて、息苦しいだけよ。
私たちにはただでさえ生きずらい障壁があったのだから。
これでいいの。
さて、何も決めて居ないけれど、この後はどこへ行こうかな。
小さなバックに必要最低限の物を詰めて、大切なあの子との、苦しくも確かに幸せだった部屋を出た。
最愛の彼女が、その幸せな、幸せだった部屋で泣き崩れていたなんてことを知らずに。
「愛憎」 2023/11/27
お題に添えているかはわかりませんね。でも、私が好きな話を、好きなタイミングで、好きなように書いていきたいのです。
冬の朝が、私は好きだ。
すん、と澄んだような、あのひんやりとした空気が好き。
鼻に抜ける冷たいそれは、少し前まで半袖でいた私たちにあの熱さを忘れさせる。
勿論、冬の涼しい風とともに太陽の日を浴びられる昼も、一段と綺麗にうつる星空……夜だって、私は好きだ。
そう、私は冬が好きだ。
だって、夏の暑い日にソフトクリームを食べるのはみんな好きでしょう?
考え方は同じ。あたたかい格好をした中で感じる冷たさが好きなんだ。炬燵のアイスとか。
太陽の下にいると肌がやけてしまうような、そんな文月や葉月の頃ような日差しはない。
ないけれど、冬にだって焼ける時はある。
そう、雪焼け。
雪の積もる地域は大変だ。
雪かきをしなければ道もなかったり、屋根は崩れたり、扉に辿り着けなかったり。
観光地として展開している場所もあるだろう。そこに行ったことがある人は多いんじゃないかな?
スキーだのスノーボードだのなんでもいいんだけれど、ゴーグル、したでしょう。
しなかった人もいるかもしれない?うん、ならその人の肌は黒いかもね。
雪がどうこうの前に、まず太陽から降り注ぐ紫外線。あれは目からも入ってくるんだ。
太陽の下というのは、元気も貰えるがそういったこともある。気をつけなければならないね。
ところで、君はどうしてここへ?迷ってしまったのかな?
そう話す教授は、今日もベッドからは動けない。
僕は、明日もこの話を聞くのだろう。
教授は病気だ。僕には医学の心得などない。あれば、と何度願った事か。
突発的なもの、だと医者は言っていた。
教授にはとても世話になった。大切な人だ。
学内で迷子となっていた僕に話しかけてくれたのが出会いだった。口下手で、引っ込み思案な僕の話を、途中で飽きることなく会話に付き合ってくれていた。
教授は、もう太陽の下へと行くことは出来ない。
『課外学習だ!ほら、君もおいで』
そう振り返って僕を呼ぶ声も、風に靡く髪も、もう見ることは無いのだろう。
日の下にいると、教授と度々出かけていたことを思い出す。
教授は空を、
天気を、
宇宙を、
自然を、
学び、愛していた。
専攻は宇宙だというのに、時折僕だけを誘っては遊びに出かけていた。あの日々は本当に、楽しかった。
教授が学生の頃のような、幼いこころになってしまった理由はわからない。
ある日突然、起きてしまい、自分が教授だということも分からず、昔の通っていた学校へ行ってしまったらしい。その後保護されて、診察を受けたそうだ。
僕とはいえば、教授が研究室に来なくなって、学校にもいなくなってしまった時には焦ったものだ。何か嫌なことをしてしまったのかと。理由が僕じゃないことを願った。
僕らしくもなく、聞いて回って、たどり着いたのが病院。
そこには相変わらず教授がいた。
微笑んで、声をかけてくれたんだ。
「あら、迷子かな?」
「いえ、そういうわけではないんです」
「なら少し、お話に付き合ってくれる?私の好きなものの話。ああそうだ、君のも聞かせてね」
改善は見込めないらしい。対処法がないのだとか。
ならばせめて、教授が楽しくあって欲しい。
その思いで、今日も僕は病院へ通いつめる。
「……はい、何度でも話しましょう」
「たくさんお話できるといいなあ。これから時間は大丈夫?」
「ええ、勿論。空いていますよ」
空けています。誰でもない、貴方のために。
「太陽の下」2023/11/26