三行

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冬の朝が、私は好きだ。
すん、と澄んだような、あのひんやりとした空気が好き。
鼻に抜ける冷たいそれは、少し前まで半袖でいた私たちにあの熱さを忘れさせる。

勿論、冬の涼しい風とともに太陽の日を浴びられる昼も、一段と綺麗にうつる星空……夜だって、私は好きだ。

そう、私は冬が好きだ。

だって、夏の暑い日にソフトクリームを食べるのはみんな好きでしょう?
考え方は同じ。あたたかい格好をした中で感じる冷たさが好きなんだ。炬燵のアイスとか。

太陽の下にいると肌がやけてしまうような、そんな文月や葉月の頃ような日差しはない。
ないけれど、冬にだって焼ける時はある。
そう、雪焼け。

雪の積もる地域は大変だ。
雪かきをしなければ道もなかったり、屋根は崩れたり、扉に辿り着けなかったり。
観光地として展開している場所もあるだろう。そこに行ったことがある人は多いんじゃないかな?
スキーだのスノーボードだのなんでもいいんだけれど、ゴーグル、したでしょう。
しなかった人もいるかもしれない?うん、ならその人の肌は黒いかもね。
雪がどうこうの前に、まず太陽から降り注ぐ紫外線。あれは目からも入ってくるんだ。
太陽の下というのは、元気も貰えるがそういったこともある。気をつけなければならないね。
ところで、君はどうしてここへ?迷ってしまったのかな?




そう話す教授は、今日もベッドからは動けない。
僕は、明日もこの話を聞くのだろう。
教授は病気だ。僕には医学の心得などない。あれば、と何度願った事か。
突発的なもの、だと医者は言っていた。
教授にはとても世話になった。大切な人だ。
学内で迷子となっていた僕に話しかけてくれたのが出会いだった。口下手で、引っ込み思案な僕の話を、途中で飽きることなく会話に付き合ってくれていた。

教授は、もう太陽の下へと行くことは出来ない。

『課外学習だ!ほら、君もおいで』

そう振り返って僕を呼ぶ声も、風に靡く髪も、もう見ることは無いのだろう。

日の下にいると、教授と度々出かけていたことを思い出す。
教授は空を、
天気を、
宇宙を、
自然を、
学び、愛していた。
専攻は宇宙だというのに、時折僕だけを誘っては遊びに出かけていた。あの日々は本当に、楽しかった。

教授が学生の頃のような、幼いこころになってしまった理由はわからない。
ある日突然、起きてしまい、自分が教授だということも分からず、昔の通っていた学校へ行ってしまったらしい。その後保護されて、診察を受けたそうだ。

僕とはいえば、教授が研究室に来なくなって、学校にもいなくなってしまった時には焦ったものだ。何か嫌なことをしてしまったのかと。理由が僕じゃないことを願った。

僕らしくもなく、聞いて回って、たどり着いたのが病院。

そこには相変わらず教授がいた。
微笑んで、声をかけてくれたんだ。

「あら、迷子かな?」

「いえ、そういうわけではないんです」

「なら少し、お話に付き合ってくれる?私の好きなものの話。ああそうだ、君のも聞かせてね」

改善は見込めないらしい。対処法がないのだとか。
ならばせめて、教授が楽しくあって欲しい。
その思いで、今日も僕は病院へ通いつめる。


「……はい、何度でも話しましょう」
「たくさんお話できるといいなあ。これから時間は大丈夫?」
「ええ、勿論。空いていますよ」

空けています。誰でもない、貴方のために。



「太陽の下」2023/11/26

11/26/2023, 12:36:45 AM