三行

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「死にたいの?」
そう聞いてくる先生。
「おれは別に、死ぬとか生きるとか、そんなんどうでもいいんよ」
どうでもいい。なんだっていい。
「そう」
何も言わない先生。
今ここで柵から手を離してしまったら、この人の目の前で死ぬことになる。それはさすがに可哀想だ。
ひとの死ぬ間際なんて、見せるもんじゃないし見るもんでも無い。

「早くどっか行ってや」
「先生はさ、」
おれの話なんて聞く耳も持たない。なんなんだ。

「終わらせようとしたこと、何回もあるよ」
「……」
__生きることを?
なんて思うだけで、聞けなかった。
「でも毎回さ、空見て思うんだ。綺麗だな〜って」
先生は感情がないような顔で話し続ける。

「そんなん、雨の日とかにわざわざ外出ぇへんからやろ」
「あっ確かに〜そうかも!」
呑気に会話してしまっている自分に気づき、驚く。
「あーもうほら、ええからはよどっか行って」
「今日も綺麗じゃん?こういう日って日向ぼっこがいいよ〜一緒にする?」
「しーひんわ。雲は多いしそんなお日さんでてへんし」

確かにいい天気ではある。青空と言えど、沢山の羊雲が見えるからそこまで綺麗な空という訳でもないが。
普遍的な空、だろう。


「そ〜?いつもの空って感じがして好きだよ私」
先生は何がしたいんだろうか。雑談なら他の生徒としてくれないだろうか。
「先生保健室居らんでええん?放課後やけど部活で怪我する子とか来るやろ」
「大丈夫よ〜お日様当たらないと元気出ないし!」
「そーですか」

なんだかこの人のこともどうでも良く感じてきた。もう好きにしてくれ。屋上を去るように言うのももう面倒だしきっと去ってはくれないのだろうから。
人がいない時を見計らうべきなんだろう。

「先生ね、こっち越してきてまだ3年なんだよ」
どうせ今日は無理なら、雑談でもなんでもしてやろう。
そんな気持ちで答える。
「……だからなんやの?」
「だからさ、楽しい所教えてよ。お店とかでもいいよ〜オススメのとこ案内してよ」
聞いた瞬間、思わず眉を寄せた。
先生が生徒を誘うなんて世間体的に良くないのではないだろうか。
「いやそんなん先生ほかの大人に怒られるんちゃう?生徒連れ回してって」
「うーーん……お友達ってことなら良くない?」
「別にお友達なった覚えないし普通にアウトやと思う」
じゃあー、と間伸びした話し方で考えている先生。
リラックスしているんだろうか、先生は屋上に汚れを気にすることなく座っていた。
今気づいたが、先生は今白衣を着ていないようだ。
「メール!メールならバレないんじゃないかな?」
個人的なやり取り、というだけでどうかと思うが。
「……まあ、部活とかは顧問と連絡取ったりはあるけど」
「ならいいんじゃない?」
「いや別におれサッカー部であって保健室の先生とは関係……」
ない、と言い切ろうとしたが、関係はあった。
怪我した時に、しばらく世話になっていた。
「……まあええよ、案内するだけやけど」

走れないこの身体ではもう運動が出来ない。
走り込みはもちろん、過度な運動……ボールを蹴ることすらも辞めるように言われている。
暇だから、承諾した。

「ならよかった。私が終わらせないでいたように、君にも終わらせたくないからさ」
「え?」
「私もね、嫌って、ウザイって思っちゃうくらい構われたことがあるの」
手にはめた指輪を見つめながらそう話す先生は、穏やかな顔をしていた。
「だから君にもしてあげようと思って!許可も貰ったしどんどん遊びに行こうね!」
「えっ!おれ、構われることに許可した覚えはないんやけど!?」
それに旦那さんが居るんだろうに。そんな事していいのだろうか。良くは無いだろう。
「ふふふ、楽しく行こー!おー!」
既に1人で楽しそうだ。いつもの明るい先生になっている。

しばらくは暇な日が、色々と考えてしまう日は、
なくなるのかもしれない。

「先生声でかいわ。静かにしな、立ち入り禁止やのに来てるのバレたら怒られるで」
「あっごめん!よしとりあえず今日はどこ行こっか!」
「今日からなん…!?」


割と本気でなくなるのかもしれない。
うるさい先生のおかげで。




「終わらせないで」2023/11/28
命って大事だよなって、最近になってより強く思うようになりました。

11/28/2023, 11:55:56 AM