三行

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あれは、いつの事だったんだろうか。
俺は確か通勤のために電車に乗っていた、はずなんだ。

行きだったのか、帰りだったのかも覚えていない。
ただ、不思議と明るい空だったように思う。
朝だとか昼だとか、そういったものを感じられなかったんだ。太陽がいたかどうかはわからない。ああ、すまん、こんな話は要らないか。

なんせ、夢なのか現実なのかもあやふやだ。
その日のその時に起きたこと、そしてその時に犯してしまった俺の罪を。
聞いてくれるだけで嬉しいさ。記事にするのかどうかはアンタに任せよう。
まあ、記事にしたところで到底信じる者は居ないだろうが。
話を戻すぞ。


電車に乗っていた俺は、電車がアナウンスもなく停車したことに気づいていた。しかも降りなきゃいいものを何故かホームへ降り立ったんだ。
駅名は書いてなかった。と言うか看板がなかったな。何処にも何も書かれていなかった。

え?おかしいと思わなかったのかって?
今ならそりゃ思うさ。でもな、あの場所じゃそうは思わないんだ。ああ着いたな、みたいなフラットな気持ちになるだけさ。

乗客も人っ子一人居なかったよ、綺麗さっぱり。
……なあ、煙草、いいか?苦手なら……。
そうか、ありがとよ……ふーー……。

まあ、普段乗る電車はどの時間帯も人がいないなんてことは有り得ない。
割と栄えている地域に居たからな。
ああ、そうそう、そこだ。よく知ってんな、調べたのか?知ってんならわかるだろ?割と都会の方だって。

ま、降りてみたんだよ。そこには田舎があった。
あんま詳しくは覚えてないが、まあ普遍的な田舎を想像してくれ。多分それだから。
どうしてそこに着いたのかなんてそんなこと聞かれたって俺にはなんとも。知らないね。なんかそこに俺は居たんだ
よ。


それからは歩き回ってみた。誰もいねえもんで、地名だとか書いてる電柱とか探したが……電気すら無さそうだったな。というか民家はあるのに表札がない。
文字が無い場所だったのかもな。といってもこれは俺のただの思い込みかもしれんが。


その後?よくある話と同じだよ。俺は魅入られた。
俺が、魅入ったんだ。本に。
その、話が………話……金髪が……………
はっ、はは。すまん、たまにこうして意識が持ってかれちまいそうになるんだ。
こう、内容を口にしようとするとこうなってしまうんだ。
俺はもう寝ても醒めてもソイツのことしか考えられなくなっちまっていてな。

本を読んだのは確か…そう、どこかの屋敷に入った時だった。なにかに誘われるように、屋敷に入った俺はそのまま真っ直ぐ書斎へ向かっていた。
部屋の間取りも知らねえはずなのにな。
その地域の民家は割と普通だった…ように見えたんだが、何故かその屋敷の中だけはぐちゃぐちゃだった。

物が沢山落ちていて、まるで強盗でもあったのかと思うくらいだった。
屋敷も少し軋んでいたように思う。それって普通…だよな?その辺は知らんのだが、ギシギシ言っていたのはよく耳に残っている。なんならほら、今も聞こえないか?
ん?冗談?はは、さてどうかな。


その後は……気づいたらまた電車に乗っていたんじゃ無かったかな。
先も言ったかもしれないが、夢にも出てくるんだよ、あの田舎が。
そして俺はまた電車に乗っている。同じようにその地域で電柱を探して歩き、屋敷に入り、本を開くんだ。気づくと電車に戻っていて、また停車したと思ったら……。
夢を見たその日は、眠れないんだ。ずっとそのことだけを考えて何かを呟き続けているらしい。
……精神病だと言いたきゃ言えばいい。実際、家内には連れてかれてしばらく入院していた。気味悪がりもせず、未だ傍に居てくれるのは俺の唯一の幸せなことだ。

何言ってんのか勿論気になった。
レコーダーで録音してみたさ、だがどうも録れていないんだ。故障したのかと何回かチャレンジしたがな、とうとうダメだった。



話せるのなんてこんなもんさ。まあ、好きに受けとってくれ。
この話はもう俺の中ですら真実なのかわかんねえ。
もう、ほっといてくれるのが1番かもな。
ここまで話して何だが、あんたも忘れてくれ。

え?罪?何の話だ?
ははっ、疲れてんじゃないか、すまんすまん、長話だったもんな。



んじゃ、気をつけてな。あんたも、変なもんばっか追いかけ続けるのは辞めておけ。
いくら仕事でも、勘が何か不味いと訴えかけてくる時がある。第六感ってやつ。あれはあるぞ。
それに逆らって、好奇心だけで動いた結果が俺さ。
な?少しは聞き入れて生きてけよ。
じゃ、達者でな。もう来んなよ。めんどくせえから。


「眠れないほど」2023/12/06

12/6/2023, 8:51:43 AM