三行

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「またね」
「うん、また!」
悲しい終わりにはしたくなくて。また、なんて言葉で自分を守る。

こうして向き合って、言葉を交わす時はもう来ないかもしれない。
__ああ、立ち姿から素敵だ。
そんなことを思いながら、ひたすら目に焼きつける。

お互い、わかっているんだと思う。
“また”とは言っても、“また会おう”とは言っていないから。
これはただの社交辞令で、
最後の、お別れのことばだ。


「……でもっ!……もし、もしもね、何かあって、そのっ、どうしても辛くなったらさ、いつでも連絡してよ!」

颯爽と去っていく貴方に、たまらず声をかけてしまった。
ほんとはね、私は……なんて。伝えられたら良かったんだけれど。難しい。
これだけは、どうしてもつっかえてしまって言えない。



羽ばたいていく小鳥を眺めるように、私は貴方を見ていることだけは、許されたい。

「うん、ありがと。お互いがんばろーね」

振り向いた時に靡いたその髪が、日光に照らされて、キラキラと輝いて見える。
同時に優しく微笑んだ貴方のその美しい姿を、私はきっと、ずっと忘れないだろう。

「…っ、応援してる!雑誌に載ったら絶対買う!私も卒業したら、絶対そっち行くから!」

__あわよくば会って欲しい、なんて。
きっと叶わないかもしれない、それでも。

「……待ってる。早くおいで」

そんなこと言われたら、もっとがんばるしかないよね。

「うん!!」


さあ、明日も勉強をしよう。
カメラを構えて、華やかな衣装に身を包んだ人たちを撮るんだ。

より美しく、それでいて衣装だけでなく彼や彼女も、魅せられるように。
なんと声をかけたら表情が柔らかくなるだろうか。
より衣装を映えるように映すにはどうポージングの指示を出すか。
いつまでも未熟ではいられない。
成長し続けていかなければ。



小鳥は見守りたいけれど、レンズ越しに見られるその日を、その時を……私は目指しているんだから。

絶対、私も貴方の元へ行ってみせるんだ。



「さよならは言わないで」2023/12/04

12/4/2023, 9:02:39 AM