泣かないよ(オリジナル)
高校時代の友人の結婚式に参加してきた。
今は帰りの電車内。当時の同じグループの仲間と、何気ない思い出話に花を咲かせていた。
「それにしても、いい式だったよねぇ」
私は式を思い出し、しみじみと言った。
友も頷き、ニヤリと笑う。
「奥さん、めちゃくちゃ可愛い人だったよね。目がクリッとしてるところ、あいつのタイプよな」
「わかる。でもたぶん八重歯もポイント高いと思う」
「確かに!」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「そういやさ、なっち、彼の事好きじゃなかった?」
「……良く覚えてるね」
そう。私は彼の事が大好きだった。
しかし、彼との間で理想の友人関係を築きすぎてしまい、その関係を壊す事が怖くなって、一度も告白しないまま卒業してしまった。
結果、今の奥さんとの馴れ初めも、喧嘩やトラブルなどの途中経過も全て知っている。
「大丈夫?」
「何が?」
「いや、今も好きだったら失恋だよなって思ってさ…泣いていいよ」
「嫌だなぁ。泣かないよ」
もう散々傷ついて泣きまくった後だからね。
けれど、これは自業自得でもある。
私の選択の結果だ。
彼のことを好きな女友達など奥さんにとっては迷惑だと思うので、彼との親友関係はこれを機にフェードアウトしようと思う。
「…まぁ、気軽に呼び出せる友人が一人減ったという意味では寂しくなるかな」
「…なっちも彼氏つくろ?合コンするよ?」
「頼んだ」
そして私は、色々と察した友と、深い握手を交わすのだった。
怖がり(914.6)
怖がってばかりは良くない。
それはわかっているけれど。
失敗が怖い。
呆れられたくない。
笑われたくない。
幻滅されたくない。
傷つきたくない。
そうなると、
自分から動けない。
経験値を積めず成長出来ない。
無能でつまらない人間になってしまう。
笑われてナンボ。
なにくそ。
その精神で、新しい事にチャレンジしていきたい。
新年度が始まるので、今年度の抱負。
とはいえ、何しろ私の事なので、やっぱり苦手なモノは色々言い訳して華麗に避けていくんだろうなぁ(苦笑)
星が溢れる(オリジナル)
「どうじょ!」
喫茶店で、突然声をかけられた。
声の方を向くと、見知らぬ幼女。
彼女の手が、僕に向かって差し出されていた。
手のひらには一粒の小さな星のかけら。
白い金平糖だった。
「…くれるの?」
「ん!」
彼女は満面の笑みで、手を突き出してくる。
「お星さまがあふれたときにはね、ママがくれるの。しあわせをあげるって!おにいさんにもわけたげる!」
「あ、ありがとう?」
彼女の母親を探して周囲を見回すが、それらしき人が立ったり、こちらに来たりする様子はない。
僕は彼女の手のひらから金平糖の一粒をいただいた。
「えへへ」
彼女は嬉しそうに笑い、こちらに手を振りながら、走り去っていった。
その動きを目で追うと、かなり遠く、視界が届くギリギリのテーブルに座った。母親の姿はなく、離席中のようである。その席から、ひとり泣いている僕が見えて、寄ってきてくれたようであった。
(あんな子供に心配されるとは)
僕は涙を拭いて、金平糖を口に入れた。
一粒なので、すぐにホロリと溶ける。
少ないので甘さもそれほど感じないが、幼女の心遣いが嬉しかった。
(あんなに小さくても、他人を心配する心を持っているんだなぁ)
良い子で、良い親だ。
僕はほっこりした気持ちになった。
(しかし、お星様が溢れた時って何だろな??)
金平糖が容器から溢れた時なのか、夜空の星の話なのか、涙を星に例えたのか。
とりあえず励まされた事はわかるので、僕も落ち込んでばかりいないで、彼女のためにも頑張ろうと思う。
安らかな瞳(オリジナル)(秘密の手紙続編)
俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしている。
今日の依頼人はセーラー服の女子高生だった。
スタイルが良く、美人の類に入ると思う。
最期の手紙を渡す相手は父親だそうだ。
この年頃にしては珍しい。
彼女はひどく真剣な顔をして、
「お願いね」
と言った。
俺は少し気圧されながら、
「おまかせください」
と、胸を叩いた。
専用スマホが示した宛名人の居場所は、病院だった。
今は真夜中。
壁を通り抜けて、目的の病室まで直行する。
(おっとっと)
先客がいて、思わずカーテンの後ろに隠れた。
幽霊なので彼らに見られる心配はないのだが、人だった頃の癖が抜けないのと、いつ配達員の任務が開始扱いになって実体化するかわからなかったからだ。
宛名人はベッドの中の人物だ。
彼は眠っているようだった。
包帯だらけで、顔が半分見えない。
人工呼吸器をつけている。
ベッドの横には先客の、制服姿の男性2名。
(警察??)
不穏な空気を感じて、思わず息を潜めた。
実体化しなければバレやしないのだけれど。
彼らは二人でしばらく何か話していたが、医者に呼ばれて病室を出て行った。
人の気配が遠ざかり、音が止んで、俺はようやくカーテンの後ろから出た。
とたん、実体化する。
ベッドの側まで行き、一瞬の躊躇の後、彼の肩を軽く叩いた。ベッドのネームプレートを見て声をかける。
「あの、志木さん、起きてください」
しかし、全く目覚める気配がない。
俺は困って、耳元に口を寄せた。
「お父さん、娘さんからのお手紙、届けに来ましたよ」
するとどうだろう。いきなりパチリと目が開いた。
「わ!」
頭が動き、彼の片目と目が合う。
言葉はない。
人工呼吸器がついているので、喋れないようだった。
俺は白い封筒の宛名「お父さんへ」を見せ、裏の「美琴より」を見せた。
彼の目から、涙が溢れる。
布団の中から、震える手が伸びた。
片手が動かないようで、封を破れない。
俺は開封を介助した。
幽霊と宛名人にしか聞こえない、彼女の音声が流れ出す。
「お父さん、ありがとう」
その声に、彼は目を見張った。
「男手一つでこれまで私を育ててくれたこと。すごく大事に想ってくれてたこと。沢山喧嘩もしたけれど、楽しかった。ありがとう。それと…」
そこで、少し間があった。
声のトーンが少し落ちる。
「仇を、取ってくれてありがとう」
俺は警察がなぜこの病室にいたのかを悟った。
「アイツら人間じゃない。きっと大した罪にも問われない。この先きっと同じような犠牲者が出たと思う。お父さんがした事は世間からは人殺しと非難を受ける行為だろうけど、私は嬉しかったよ。ヤツらを呪い殺したくて悪霊になろうとしたんだけど、そんな力得られなくて途方にくれてたところだったから。お父さんが復讐を果たしてくれたから、私も満足して成仏できます。お父さん、本当にありがとう。お父さんの子供で良かった。私はお父さんが大好きです」
彼は滂沱の涙をこぼしていた。
興奮からか、心電図が変な動きを見せる。
「お、おい?!」
ヤバいのでは?と思ったところで、バタバタと人の気配が近づいてきた。俺はとっさに飛び上がる。
任務を終えて無事幽霊に戻っていたので、天井に張り付く事ができた。そこに、医者が飛び込んでくる。
「志木さん!?」
脈をとり、指示を飛ばし、心臓マッサージが始まった。
俺は内心オロオロしながら、その様子を見守っていた。
娘の仇を取った父親は、娘から感謝の手紙をもらい、憎しみや罪悪感が消え去ったのだろう。
安らかな瞳をしていた。
その瞳の輝きが、徐々に生気を失っていき。
心電図が、直線を描いた。
ずっと隣で(オリジナル)(秘密の手紙続編)
俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしている。
今日はちょっと変わった依頼だった。
いつもはひとりで任務に当たるが、今日は指導員と一緒に現場に向かっている。
「心を強く持ってくださいね」
シルクハットにマントという変な格好のロン毛指導員は、俺にそう言った。
怖い。
俺は移動速度を落とし、指導員を盾にできる位置をキープした。
実際、ホラーであった。
幽霊に取り憑かれ、げっそり痩せた顔色の悪い男性と、彼に取り憑いて、今や原型をとどめていない黒い何か。
その何かは、虚な二つの光から涙のような筋を下に伸ばし、同じ言葉をずっとつぶやいていた。
「嘘つき」と。
指導員はその黒い塊に、己のスマホを向け、
「彼に伝えたい事、承りますよ」
と言った。
目らしき光が、ギラリと光る。
『嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!!!』
ビリビリと空気が震えた。
幽霊側のみの感覚で、現世に何か影響が出るわけではなかったが、俺の心と身体にはテキメンだった。黒い何かが胸を掻き乱す。
苦しかった。
『私に、ずっと隣にいてって言ったじゃない!!だから、死んでからも私、ずっと側にいたのに!!なのになんで!?あの女!!!彼の隣にいるのは私なの!!今もこれからも!!』
慟哭が、俺を打ちのめす。
声も出ない俺とは違い、指導員は一度スマホの録音を止め、
「最期の手紙、本当にそんな内容で、あなたは後悔しませんか?」
と問うた。
黒い影は、ニタリと笑う。
『許さない。許さない。ずっと隣にいてくれと泣いてすがって私を縛ってこんな姿にしておきながら、心移りをするなんて』
そして、ポツリと言った。
『呪い殺してやる』
凄まじい殺気が押し寄せ、のまれそうになった。
流石に彼女が取り憑いている男にも影響が出たのか、彼は頭を押さえ、うめいている。
指導員は、黒い塊の方へ手を伸ばした。
「苦しかったでしょう。幽霊では何もできないのですから。けれど、あなたはもう解放されるべきです。それに、彼にとってあなたは美しい思い出です。それをどうするかはあなた次第。恨み言を言うも、綺麗なままで旅立つのも。どうしますか。本当に最期になりますよ」
手は肩らしき場所に当てられていて、そこから黒が、指導員を侵食しつつあった。
「お、おい」
俺はとっさに彼の腕を掴む。けれど、彼は手を離さなかった。黒は俺にまで広がってくる。
ゾワゾワした。
全ての毛が逆立つ感じがした。
溶けて人型を保てなくなりそうだ。
「純子…」
取り憑かれている彼が呟いて、急に感覚が引いた。
黒い影が、若い女性の姿を取り戻していた。
「勇くん…勇くん…ごめんなさい、ごめんなさい。大好き。大好きだよ」
彼の頭を両腕で胸の中に抱き込み、彼女は子供のようにわんわん泣いた。
「いやー、今回は憑かれてる彼に助けられましたね」
指導員は帰り道、晴々とした顔で言った。
俺は意味がわからず問いかける。
「へ?どういう?」
「具合が悪い時、咄嗟に出た名前が今カノじゃなく元カノだった事で、彼女も溜飲が下がったんじゃないですかね。それで我に返ったと」
まぁ、彼が助けを求めて名前を呟いたのか、もう呪わないでくれと訴えたかったのか、実際のところ、意味はわかりませんが、などと言う。
今日の指導員は格好良かった。さすがと尊敬しかけていたのに、色々と台無しだった。
彼女は彼に、最期の手紙で変わらぬ愛を告げ、綺麗なままで成仏していった。
天使のように美しい姿だった。
ドス黒い塊だったのが嘘のように。
「愛は良くも悪くも人を狂わせるものですからね」
俺の心を読んだように、指導員は言った。
「ま、こういうちょっと危険な仕事もあるわけです。君はとっさに私の腕を掴んでくれたわけですが、下手をするとあなたも私も取り込まれていました」
「えっ!?そうなの?!」
俺は、彼女の憎しみと悲しみと絶望が流れ込んで混じり合い、自分が溶けてなくなりそうになった感覚を思い出して身震いした。
「はい。まぁ、心を強く持って、己を見失わなければ大丈夫です。私はこの通り、己を強く持っているので大丈夫ですが」
なるほど。完全同意。納得である。
「あなたはちょっと他人に気持ちを寄せがちなので危なっかしいですね。気をつけてください」
「はぁ」
「そうですね…あなたは危なくなったら、お友達の家に帰るんだと強く願いなさい。彼を心配させたくないでしょう?そういう気持ちが、あなたという形を保つ力になります」
「……」
「ま、こういう危ない仕事は一人ではやらせないので安心なさい。ミイラ取りがミイラになって、悪霊が増えたら仕事が増えて大変ですからね」
指導員はカラカラと笑った。