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安らかな瞳(オリジナル)(秘密の手紙続編)

俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしている。
今日の依頼人はセーラー服の女子高生だった。
スタイルが良く、美人の類に入ると思う。
最期の手紙を渡す相手は父親だそうだ。
この年頃にしては珍しい。
彼女はひどく真剣な顔をして、
「お願いね」
と言った。
俺は少し気圧されながら、
「おまかせください」
と、胸を叩いた。

専用スマホが示した宛名人の居場所は、病院だった。
今は真夜中。
壁を通り抜けて、目的の病室まで直行する。
(おっとっと)
先客がいて、思わずカーテンの後ろに隠れた。
幽霊なので彼らに見られる心配はないのだが、人だった頃の癖が抜けないのと、いつ配達員の任務が開始扱いになって実体化するかわからなかったからだ。
宛名人はベッドの中の人物だ。
彼は眠っているようだった。
包帯だらけで、顔が半分見えない。
人工呼吸器をつけている。
ベッドの横には先客の、制服姿の男性2名。
(警察??)
不穏な空気を感じて、思わず息を潜めた。
実体化しなければバレやしないのだけれど。
彼らは二人でしばらく何か話していたが、医者に呼ばれて病室を出て行った。
人の気配が遠ざかり、音が止んで、俺はようやくカーテンの後ろから出た。
とたん、実体化する。
ベッドの側まで行き、一瞬の躊躇の後、彼の肩を軽く叩いた。ベッドのネームプレートを見て声をかける。
「あの、志木さん、起きてください」
しかし、全く目覚める気配がない。
俺は困って、耳元に口を寄せた。
「お父さん、娘さんからのお手紙、届けに来ましたよ」
するとどうだろう。いきなりパチリと目が開いた。
「わ!」
頭が動き、彼の片目と目が合う。
言葉はない。
人工呼吸器がついているので、喋れないようだった。
俺は白い封筒の宛名「お父さんへ」を見せ、裏の「美琴より」を見せた。
彼の目から、涙が溢れる。
布団の中から、震える手が伸びた。
片手が動かないようで、封を破れない。
俺は開封を介助した。
幽霊と宛名人にしか聞こえない、彼女の音声が流れ出す。
「お父さん、ありがとう」
その声に、彼は目を見張った。
「男手一つでこれまで私を育ててくれたこと。すごく大事に想ってくれてたこと。沢山喧嘩もしたけれど、楽しかった。ありがとう。それと…」
そこで、少し間があった。
声のトーンが少し落ちる。
「仇を、取ってくれてありがとう」
俺は警察がなぜこの病室にいたのかを悟った。
「アイツら人間じゃない。きっと大した罪にも問われない。この先きっと同じような犠牲者が出たと思う。お父さんがした事は世間からは人殺しと非難を受ける行為だろうけど、私は嬉しかったよ。ヤツらを呪い殺したくて悪霊になろうとしたんだけど、そんな力得られなくて途方にくれてたところだったから。お父さんが復讐を果たしてくれたから、私も満足して成仏できます。お父さん、本当にありがとう。お父さんの子供で良かった。私はお父さんが大好きです」
彼は滂沱の涙をこぼしていた。
興奮からか、心電図が変な動きを見せる。
「お、おい?!」
ヤバいのでは?と思ったところで、バタバタと人の気配が近づいてきた。俺はとっさに飛び上がる。
任務を終えて無事幽霊に戻っていたので、天井に張り付く事ができた。そこに、医者が飛び込んでくる。
「志木さん!?」
脈をとり、指示を飛ばし、心臓マッサージが始まった。
俺は内心オロオロしながら、その様子を見守っていた。
娘の仇を取った父親は、娘から感謝の手紙をもらい、憎しみや罪悪感が消え去ったのだろう。
安らかな瞳をしていた。
その瞳の輝きが、徐々に生気を失っていき。
心電図が、直線を描いた。

3/14/2026, 1:38:41 PM