かばやきうなぎ

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2/11/2025, 10:51:44 PM

ココロ


心って何処にあるんだろう。

心臓?脳?
俺は両手を見つめながら考える。
力が上手く入らなくて小刻みに震える手は
この心の様に痛みも悲しみも苦しみもないのに小刻みに震えては何かを訴えかけてくる。

魂とは何処にあるんだろう。
心臓?脳?
俺は目の前のロボットを見ながら考える。
AIが発達して人間に近くなっていく人の手に造られた命はクリクリとした目玉に見えるパーツを右に左に回しながらくるくると旋回しては俺の横でピタリと止まり小首を傾げるような仕草をした。

『大丈夫。心配ないよ。』

上手く力の入らない手で頭を撫でるとキュルキュルと音を立てて喜ぶ様な姿はまるで心があるかのように見えた。

心って何処にあるんだろう。
ロボットにもあるんだろうか。
あると良いな。

お前は心臓も脳も無いけれど
俺もお前も魂があって、俺と同じくお前が幸せならばそれでいい。

2/9/2025, 10:47:26 AM

DEENのアルバム良いよ🩷


遠く…



空を見上げると悠久まで続く蒼い蒼い空と地平線の先が見えない広い広い海が広がっていた。

めいっぱい両手を伸ばしても届く事がない世界の中でめいっぱいまで広げた手のひらはあまりにも小さく見えた。
周りには何もない。
何処までも青い世界の中心に立つには自分はあまりにもちっぽけで矮小な気がした。

父も母も亡くして程なく、何もかも無くした気がした。
生きる意味も生きている事を喜ぶ人も亡くして存在している意味を見失った先で父が好きだった海にいる。

広い背中だったな。
温かい腕の中だったな。
生まれてきて当たり前だった世界のありがたさに気がついた時、その手はこの大空のように手が届く事がない程に遠くに行ってしまうんだ。

ここに来たのは一つの宣誓式のためだった。
釣りが好きだったこの思い出の地でかつての記憶の中の両親の優しさに触れたかった。

いつだって、喜びも悲しみも大きな後ろ姿に護られていたから。今だからこそ心の底から言える。ありがとう、って。

海風に髪が揺れる。
潮風の薫りを胸いっぱいに吸い込んだ。

青い青い暖かな世界の中心で小さな僕の
小さな世界を紡ぐ夢を大きな両親に語りかける。
貴方方が安らかでありますように。
僕のこの小さな祈りが届きますように。


僕はここでいま生きている。
遠い遠いあの青の向こうに届くようにと
大きく大きく両手を振って力一杯風を感じた。

2/7/2025, 1:12:42 PM

誰も知らない秘密。


冬の寒さが緩み始め、夕焼けがまだ空に色濃く残る時間に定時を告げる鐘がなる。
残業時間を少しでも減らして欲しいという会社からの通知のおかげか定時と共に帰ることも多くなった。
ひと月も前ならばもう帰る頃合いには夜闇の中を店の明かりを頼りに帰っていたが4月も半ばとなればまだまだ空はオレンジ色に染まっている。

駅前にはサラリーマンの姿より頃合い的に小学生だろうか。子供の姿も多く見られた。
そうか、もう夏休みに入るのか。
すれ違う子供達の後ろ姿を漫然と見つめるとジロジロと見過ぎたのか子供達が振り返った。
なんでもないよ、と手を振ればぺこりと頭を下げて仲良く数人で楽しそうにかけていく。

その立ち去っていく姿にふと思い出す。
クラスに溶け込むのは決して上手くなかったアイツを。
嘘だけはつかない、心優しい少年だった。

後ろに回した泥だらけの帽子。
ずっと暗くなるまで二人で遊んだ多い夏の日。
あんなに子供でいられた時は一緒にいたのにいつの間にかあいた溝に気がつかなった。

なんでも話したしなんでも聞いた。誰よりもそばにいたはずの親友だったはずの彼は何も言わずにある日突然いなくなった。夕焼けを見ながら何を思って、そして何を願って逝ったのだろう。

どんなに辛いことがあったとしても無口で逃げる真似はしたくない。

不器用で懸命で誤解される事が多くて、でも俺とは馬が合って。いつだって二人で夢を語りながら競うように笑い合った。

大人になるという事は諦めを知る事だと知った。
年を取れば取るほど、子供の頃に抱えていた大切なものを一つ一つ抱えられないと諦める。

アイツは不器用過ぎて、捨てる物なんか一つもできなかった。アイツは大人になる事は諦める事じゃないって、諦められなくて大人になる方を選ばなかったのかな。

不意に涙が込み上げた。
俺たちも自由だった。あの子供たちの笑い声があまりにも自分とアイツの時間を思い出させる物だから、夕焼けが目に沁みたのかもしれない。
鼻を啜った姿に通りかかる人が振り返る。わざとくしゃみの真似をして風邪かな…なんて独りごちてみた。

『生きてるうちに宝探しに行こうぜ』
突然きた連絡はそんな急な話で。
そんな時間はないよと軽く断ってしまった。
あぁ、どうしてあれが悲鳴だと気がつけなかったのか。
そのうちな、なんて切った電話が最後になった。

二人いつも一緒で、自作の宝の地図を作って冒険した。
何もかもが楽しかった夏の日が遠い。

いつだってアイツは本当は寂しがりだった。
会えなくなった家族に会いたがっていた事も、施設では決して見せない涙を俺だけが知っていた。
あの日一緒に遊んだボロボロの宝の地図の場所はもう俺しか知らない。俺しか居ない。

なぁ、あの夏の日に探していた宝物は見つかったかい?

何処か遠くの温かな場所で、今も遊んでいるのだろうか。

都会の喧騒に遠くなる過去を思い出すとき
あの寂しげな笑顔を今もまだ思い出すんだ。



2/5/2025, 4:22:28 AM

永遠の花束


『枯れない花が欲しいの』

妖艶に微笑む彼女にとって程のいいお断りのフレーズは酷く耳に残る言葉だった。
それがドライフラワーを指す訳ではない事は両手に花束を抱えて茫然と立ち尽くす哀れな男でもすぐわかる。
一世一代、清水の舞台を飛び降りるつもりで仕掛けた永遠の愛を誓う言葉は儚くも無惨に清水の滝の中に消えた。


『優雅ねぇ。まるでかぐや姫じゃないの』
一人寂しくビールを片手に突っ伏す男を哀れに思った妹がそんなことを言う。
静まり返った薄暗いリビングで一人男泣きをする兄に付き合い自分も冷蔵庫からビールと簡単なおつまみを作りテーブルに並べる。
『一目惚れだったんだよ…』
嗚咽混じりの消え入りそうな己の声が哀れさを更に加速させる。
まぁまぁ、なんて言いながら背中をバシバシ叩く妹へ優しくしてくれ、なんて言おうものなら失恋は泣くより笑う方が忘れられるのよ、なんてガハハと笑いだすものだから余計に泣きそうになった。

美しい人だった。
たおやかで儚げに見えて実は薔薇のような華やかさを持つ。内面の強さを表すかのような倫とした佇まいに目を奪われた。そばで見ているよりもっとそばにいたい。
一生分の勇気を振り絞った告白は呆気なく花束と共に返されてしまったけれど。

冷えたリビングに不釣り合いな花束が花瓶の中で存在を主張している。捨てるに捨てられずに持って帰ってきたけれど見れば見るほど現実が突きつけられた。

『枯れない花ってなんだよ…』
ビールを一気に煽ってぐてーっとテーブルに突っ伏した。

まるでかぐや姫のような人が求めるその花の正体が知りたい。だってそんなもの時間が止まらないと無理だろう。生きるもの全て残酷なまでに平等に時間は流れるのだから。魔法でもないと無理ではないか。
メソメソと泣き始める兄を呆れたような面白がるような目で眺めていた妹がうーん、と口を開く。

『枯れない花ねぇ…』
『わっかんねぇよ。フラれた事しかわかんねぇよ』
ヤケクソになって目の前のおつまみを鷲掴んで口に放り込むと妹はいそいそと残りの皿を自分の前に確保した。

『ずっと変わらない花、ねぇ…』
何やら言いたげな様子の妹はうーん、でもなぁ。だとしたら…なんてブツブツと言い出した。でもお兄ちゃんだしなぁ…、なんて声まで聞こえたものだから反発心が怒る。
『なんだよ、フラれた可哀想な兄を慰めるくらいしろよ。』
傷口に塩を塗る真似はいらんぞ、と呟くとそう言う所なんだよなぁ…なんて呆れたようにため息をついた。

『ねぇお兄ちゃん。その花束はいつか枯れちゃうね』
『そうだな』
『枯れない花はないよね』
『当たり前だろ』
『じゃあこの花束が枯れたらどうすんの?』
『は?』
そこまでのやり取りで妹ははー、とこれみよがしにため息をついて立ち上がった。

ねぇ、お兄ちゃん。
妹は立ち上がって二人分のビール缶を片付けるとたち去り際に一言いった。
『花瓶はここにずっとあるよ。』
ずっとね。
ほんとニブイな、そういうところ。
そう言って笑う。
案外、待ってくれてるのかもしれないね。
遠ざかっていく足音だけがリビングに響いた。

あぁ、そうか。
花束を改めて見ながら気づいた事がある。
美しい彼女に似合うと思ったこの花束が相手への負担になっていたかもしれないことに。
小さな花瓶に無理やり敷き詰めた花束をコップに分けて無理がないようにする。
飲みすぎたアルコールでフラフラする手つきで花に触れると力を込めすぎないように丁寧に扱った。
己の気持ちばかり先行して事を妹にすら見抜かれた。

『ほんっと情けねぇ男だな俺は』
俺はハハと力なく笑ってコップサイズに小さくなった花束を一つだけ自室に持っていった。



『あのさ…』
『なぁに?』
翌日、通りかかった彼女に声をかける。
朗らかに振り返る彼女は変わらず優しく笑いかけてくれる。

『昨日は急にごめん。枯れない花の件色々考えた。』

静かに彼女が言葉を待ってくれることに感謝して、言いたい事がきちんと伝わるように花を取り扱うように丁寧に言葉を探した。

『花を大事にしない奴の花はすぐ枯れる。でも大事にするって独りよがりじゃダメなんだよな。』
この考え自体が合ってるのかはわからない。
わからないけど、伝える事に意味はあると思うから。

『友達になって欲しいってのは、ダメかな』
頬が熱くなるのを感じる。花束を渡すよりずっと恥ずかしいとは思わなかった。
しばらくしてふふ、と鈴の音のような笑い声がした。

『意地悪な問題出してごめんね。ありがとう、これからよろしく』
初めてみた笑顔に俺の中で満開の花が咲いた。

2/4/2025, 9:17:20 AM

やさしくしないで

あーあ、ほらね。
視線の先にある光景にひっそりとため息をつく。
目の前にはお優しいと自他共に認める青年の姿。
いいように使われちゃって。

呆れてものも言えない。
きっと誰もが彼を見て優しい人だと声を揃えて言うだろう。その結果がアレ。ニコニコニコニコ笑顔を振り撒くからアレやこれやと頼まれて必死になって働いている。
どいつもこいつもそんなもの押し付けないで自分でやればいいじゃない。

いいよいいよ、なんて馬鹿みたいに二つ返事。
つけ込まれるに決まっているのに他人の評価なんかの為にどれだけ自分を切り売りするのか。
見ているこちらがイライラしてしまう。

舌打ち一つで立ち上がる。
余計なことなんてしたくないのに馬鹿みたいに大量の仕事を押し付けられてる姿が視界に映るのは我慢ならない。

『そっちやるから』
ネイルの伸びた手でひったくるように資料を半分引き抜いた。書類が雪崩を起こして慌てて拾ってぶっきらぼうにハイ、と手渡すとまんまるの目がこちらを見ていた。

『あ、ありがとう』
ごめんね、なんてヘラヘラ笑うから本当にムカついてくる。
『自分でやれる仕事量くらい考えたら?こんなの無理じゃん。断りなよ』
イライラしてる分トゲトゲしい声になる。こんなんだからお局、なんて陰口言われるんだとわかっていても言わずにはいられなかった。
『ありがとう、優しいね』なんて呑気に言うものだから余計に火に油だ。私の中の苛立ちにメラメラと怒りが燃え盛る。
『優しいのはアンタでしょ。でもこれ、優しさじゃ無いから』ドカドカとデスクに戻ってパソコンに向かう私を遠巻きに同僚が避けていくのにさらに苛立ちが増えた。




『おいおい、お局に絡まれてたのか?』
ギラギラとした長いネイルとキラキラした金髪を靡かせた彼女が怒りのオーラを纏って去ってからしばらく。
僕に自分の作業を半分押し付けた同僚がニタニタしながらやってくる。
おーこわ!なんておどけてみせる姿にから笑いで返す。

優しいかぁ。

目に怒りを携えて無償の優しさで他人の為に怒る事が出来る君の方がずっと優しい。

僕は単純に怒るのが怖いだけ。拒絶された時が怖いから穏やかで居たい。それを勘違いされてしまうだけなんだけど。
君だけなんだ。僕が困っていることに気がついてくれた人。手助けしてくれるのも、必要かどうか相手の状況で判断するのも。感謝の押し売りはしない、それがどれだけ難しくて誤解を招くのかは君の優しさを知ってる僕だけで居て欲しい。
見返りや報酬ではなく信念で相手ひ必要なだけ優しく出来る君が羨ましいと言ったらどんな顔をするだろう。

隣の同僚は彼女を楽しげに悪様に言うからちょっとだけ僕も勇気を出して『そんな事ないよ、彼女はとても優しい人だと思う』と返す。
ハァ?なんて怪訝な顔をする君には知られたくない。
ね、僕は優しくなんかないだろう。
本当の意味で優しい彼女の優しさを気付かれたくない。

『なんでもない!仕事に戻ろう!』
いつも通りにいつもと同じ笑顔を浮かべて僕はいそいそと仕事に戻った。

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