誰も知らない秘密。
冬の寒さが緩み始め、夕焼けがまだ空に色濃く残る時間に定時を告げる鐘がなる。
残業時間を少しでも減らして欲しいという会社からの通知のおかげか定時と共に帰ることも多くなった。
ひと月も前ならばもう帰る頃合いには夜闇の中を店の明かりを頼りに帰っていたが4月も半ばとなればまだまだ空はオレンジ色に染まっている。
駅前にはサラリーマンの姿より頃合い的に小学生だろうか。子供の姿も多く見られた。
そうか、もう夏休みに入るのか。
すれ違う子供達の後ろ姿を漫然と見つめるとジロジロと見過ぎたのか子供達が振り返った。
なんでもないよ、と手を振ればぺこりと頭を下げて仲良く数人で楽しそうにかけていく。
その立ち去っていく姿にふと思い出す。
クラスに溶け込むのは決して上手くなかったアイツを。
嘘だけはつかない、心優しい少年だった。
後ろに回した泥だらけの帽子。
ずっと暗くなるまで二人で遊んだ多い夏の日。
あんなに子供でいられた時は一緒にいたのにいつの間にかあいた溝に気がつかなった。
なんでも話したしなんでも聞いた。誰よりもそばにいたはずの親友だったはずの彼は何も言わずにある日突然いなくなった。夕焼けを見ながら何を思って、そして何を願って逝ったのだろう。
どんなに辛いことがあったとしても無口で逃げる真似はしたくない。
不器用で懸命で誤解される事が多くて、でも俺とは馬が合って。いつだって二人で夢を語りながら競うように笑い合った。
大人になるという事は諦めを知る事だと知った。
年を取れば取るほど、子供の頃に抱えていた大切なものを一つ一つ抱えられないと諦める。
アイツは不器用過ぎて、捨てる物なんか一つもできなかった。アイツは大人になる事は諦める事じゃないって、諦められなくて大人になる方を選ばなかったのかな。
不意に涙が込み上げた。
俺たちも自由だった。あの子供たちの笑い声があまりにも自分とアイツの時間を思い出させる物だから、夕焼けが目に沁みたのかもしれない。
鼻を啜った姿に通りかかる人が振り返る。わざとくしゃみの真似をして風邪かな…なんて独りごちてみた。
『生きてるうちに宝探しに行こうぜ』
突然きた連絡はそんな急な話で。
そんな時間はないよと軽く断ってしまった。
あぁ、どうしてあれが悲鳴だと気がつけなかったのか。
そのうちな、なんて切った電話が最後になった。
二人いつも一緒で、自作の宝の地図を作って冒険した。
何もかもが楽しかった夏の日が遠い。
いつだってアイツは本当は寂しがりだった。
会えなくなった家族に会いたがっていた事も、施設では決して見せない涙を俺だけが知っていた。
あの日一緒に遊んだボロボロの宝の地図の場所はもう俺しか知らない。俺しか居ない。
なぁ、あの夏の日に探していた宝物は見つかったかい?
何処か遠くの温かな場所で、今も遊んでいるのだろうか。
都会の喧騒に遠くなる過去を思い出すとき
あの寂しげな笑顔を今もまだ思い出すんだ。
2/7/2025, 1:12:42 PM