街は全て焼き尽くされた。
教会も、学校も、図書館も、ショッピングモールも、何もかもが瓦礫の山となり、灰色一色になった。
ウェディングベルも、始業のチャイムも、子供の歓声も、人々のざわめきも、何もかもが無くなった。
「·····」
あのざわめきが戻ってくるまで、どれほどの時間が必要なのだろう。
作り上げるには膨大な時間がかかるが、失うのは一瞬だ。けれど人の力ではどうにもならないものがあって。
「·····」
灰色の世界を見続けるのが苦しくて、思わず蹲る。
通りを吹き抜ける風の音だけが、私の耳に鋭く響いていた。
END
「失われた響き」
「寒くなってきたねぇ」
白い息を吐きながら俺の前を歩く。
肩を竦めるその姿は本当に寒そうで、俺は大股で追い付いて腕を掴むとその指に自分の指を絡めた。
「君の手、冷たいからあんまり意味無いんだけど」
「そのうちあったかくなるよ。こーゆーのは気分でしょ」
長い廊下を歩く足音は、いつもより気持ち早めで。
暖房の効いた部屋に早く行きたいと無言で訴えている。
外を見ればマフラーを巻いた子供が道端でぴょこぴょこ跳ねてて。
「霜が降ってたからねぇ。踏んで遊んでんだろ」
「会議終わったら俺らも遊びに行く?」
「馬鹿なこと言ってると手ほどくよ」
振り払われそうになるのを強引に引き戻す。
「うそうそ。あったかいコーヒー淹れてあげるよ」
「それなら許す」
相変わらずお互いの指はひやりとしたままで。
白い息を吐くその横顔の、鼻の頭が赤くなってるのに気付いた俺は思わず言ってしまったのだった。
「今日も可愛いね」
END
「霜降る朝」
〝大きく吸って 大きく吐いて 深呼吸
ここ一番 お役に お役に 立ちます 〟
小学生の頃TVでやってた五分番組で流れた曲。
タイトルは忘れてしまった。
五分で一曲、歌を紹介していた。NHKの「みんなの歌」のような感じだったけど、民法だったと思う。
この歌詞が何故かずっと頭の片隅にあって、なにか緊張するような事に直面すると不意に流れてくることがある。
大人になって、キツい事とか泣きたくなる事とか色々あったけど、何とかなってきたのはいざという時に深呼吸して一旦立ち止まる癖がついたから、なのかもしれない。
大きく吸って、大きく吐いて。
過呼吸になりそうな事の方が多いこの時代、立ち止まれる瞬間は大事にしたい。
END
「心の深呼吸」
誰かの思いが誰かの信念になって
その信念に傷付く人がいて、心動かされる人がいて
離れていく人がいて、引き寄せられる人がいて
遠い遥かな過去を揺り起こし、
隔てた時間と、距離をまた繋ぐ。
一つの思いに邁進する人は、ひたむきで、滑稽で。
それが人を惹き付けて、時には嫌悪させ、
更には次の世代へ繋ぐ。それはまるで織物のようで。
そんな生き方をしている人に、私もいつか出会えるだろうか。
END
「時を繋ぐ糸」
アスファルトの固い道が、その時だけは柔らかな絨毯になる。
黄色のふわふわした感触。
時々、くしゃ、カサ、と軽い音がして粉々になる。
十分ほど歩くと、今度は赤茶色。
やっぱり踏むとくしゃ、カサ、パキ、という軽い音と足元から伝わる柔らかな感触。
いつもは閑散とした通りも、この時期だけは人の数が多い気がする。
私と同じ気持ちでこの道を歩く人が結構いるのだ。
小さな子供が楽しげに黄色の葉の中を駆け抜ける。
笑い声。
カサ、くしゃ、パキ。
柔らかな絨毯はすぐに凍てつく霜に覆われるだろう。
儚く過ぎる季節を私はどれだけ覚えていられるだろうか。
END
「落ち葉の道」