せつか

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8/23/2025, 11:47:08 PM

空気全体が震えている。
低く唸るような音が遠くで響いている。
生温かい風を受けて、私の体が大きくしなる。

今年もこの季節がやってきた。

低く垂れこめた雲の合間。
時折金色の閃光が走る。昏い雲を切り裂く金色の輝きは、姿が見えたと思ったらすぐに見えなくなって、まったく違うところに現れる。
私の気紛れな恋人は、耳飾りを吟味しているようだ。

あの音が近付くたび、私の胸は高鳴って、もっともっととその音を乞う。
もっと激しく鳴いてくれ。
もっと大きく震わせてくれ。
そうすれば、それに応えて私も手足を大きく伸ばすことが出来るから。

あぁ、ようやく会える私の恋人。


END


「遠雷」

8/22/2025, 4:58:32 PM

昏い色をしている。
二年ぶりの再会は胸踊るようなものでも、切なさが込み上げるようなものでもなかった。
真夜中の闇を思わせる昏い青。
記憶の中にある彼は、そんな色の服を纏ってはいなかった。

彼が一歩、近付いてくる。
「久しぶり」と言うべきか。「会いたかったよ」と両腕を広げるべきか。「元気そうじゃねえか」と笑ってやるべきか。
結局そのどれも出来なくて、触れられそうなほど近くにある彼の目を、じっと見つめる。
夜だというのにサングラスをかけている彼の、表情は読めない。

「服の趣味、変わったんだねぇ」
ようやく出てきた言葉は余りに間が抜けていて、プッと小さく彼が噴き出す。
「アンタは相変わらずキマってんね」
二年の月日は、色々なものを変えたけれど。

「そうだろぉ?」
互いの唇に浮いた笑みが、変わらないものも確かにあるのだと伝えていた。


END


「Midnight Blue」

8/21/2025, 4:21:32 PM

「本当にいいのか?」
「しつこいねー、いいって言ってるじゃん。それとも怖くなったん? だったらやめていいよ。私一人で行くから」
「んなワケあるか」
「じゃあホラ、行こうよ」
「·····」
「もー、行くんじゃないの?」
「·····ぅ」

「もしもーし、早くしてくれませんかぁ? 後がつかえてるんですけど」

「ほら行くよ。お願いします!」

『ワン、ツー、バンジー!!』

谷底へと消える絶叫。
この時男は、彼女との恋が終わったのだと悟った。


END


「君と飛び立つ」

8/20/2025, 5:17:41 PM

あなたに教えて貰ったこと
あなたが見せてくれたもの
あなたが好きだったもの
みんなみんな、忘れないから。

そう言うと、病床の彼は呆れたように笑って鼻を鳴らした。
「やっぱり分かってない」
「なにが?」
「僕の気持ち」
「なんでよ。あなたの気持ちを一番理解してるつもりだよ?」
「·····忘れていいんだよ」
「え?」
「僕のことなんか忘れていいんだ。君を残して先に消える僕の為に、脳の容量を使う必要なんてない。これからは君の見たいものを見て、君の好きなものをたくさん詰め込んで、君という存在を確定するんだ。

なんて言ってた彼のことを、私はいまだに忘れられずにいる。


END


「きっと忘れない」

8/19/2025, 4:06:14 PM

この世に生まれてきたことが辛いから。

もしそう答えてやったら、君はどんな顔をするのだろうね?


END



「なぜ泣くの? と聞かれたから」

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