せつか

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空気全体が震えている。
低く唸るような音が遠くで響いている。
生温かい風を受けて、私の体が大きくしなる。

今年もこの季節がやってきた。

低く垂れこめた雲の合間。
時折金色の閃光が走る。昏い雲を切り裂く金色の輝きは、姿が見えたと思ったらすぐに見えなくなって、まったく違うところに現れる。
私の気紛れな恋人は、耳飾りを吟味しているようだ。

あの音が近付くたび、私の胸は高鳴って、もっともっととその音を乞う。
もっと激しく鳴いてくれ。
もっと大きく震わせてくれ。
そうすれば、それに応えて私も手足を大きく伸ばすことが出来るから。

あぁ、ようやく会える私の恋人。


END


「遠雷」

8/23/2025, 11:47:08 PM