それが本当に希望となるのか、よくよく見極めなければならない。
闇の中、微かな光がちらついている。
遠い夜空の星のようなそれは、ろくでもない私の生に救いを与えてくれるのかもしれない。
何度も裏切られ、何度も失望し、何度も諦めた。
二度とこんな思いはごめんだ。そう思い、信じる事をやめた。何も期待しなければいい。そうすれば、とりあえずは自分を保っていられる。
あの微かな光がもたらすものは救いか、失望か。
今はまだ、分からない。
END
「一筋の光」
祭りは終わった。
夏の浮かれた時間は終わり、参加していた者達はそれぞれの場所に帰っていく。――私も、彼も。
この地で紡がれた縁は消えはしないが、皆それぞれに居場所があり、立場があり、仲間があった。
どちらも大切な、手放し難い宝物だ。
私は私であることをやめられない。ろくでもない悪辣な生き方を、やめられない。
彼も彼であることをやめられない。清廉で、真っ直ぐな生き方を、今更変えられるわけがない。
すれ違う事はあるだろう。互いに軽く片手を上げて、簡単な言葉を交わすくらいならある筈だ。
でもそれだけ。それ以上にも以下にもならない。私は悪友達と悪巧みをし、酒を酌み交わし、荒唐無稽なホラ話にうつつを抜かす、いつもの日々に戻るだろう。
ベランダに出ると夜風が気持ちいい。
冷たい風は海を渡る潮風に少し似ている。
その風にしばらく当たっていると聞こえない筈の潮騒が聞こえてきたような気がした。
「·····参ったな」
こんな感情を抱く日が来るなんて。
小さく呟いた声は誰にも届くことなく風にかき消された。
END
「哀愁を誘う」
疲れた顔が映っている。
昔から自分の顔が大嫌いだった。
父譲りの濃いめの体毛は小学生の頃はいじめの対象だった。彼らはいじめのつもりは無くて、愛のある弄りだったと言うのだろう。けれど私は彼らの言葉に愛を感じた事などただの一度も無かった。
中学、高校と歳が上がるにつれ、自分で少しずつ自分の顔を変えるようになった。
眉を剃って整え、顔も剃り、化粧水や乳液で肌を整えた。お菓子がやめられなくてニキビに悩まされたけど、それでも化粧やなんかで隠す術を覚えた。
整形はなんだか怖かったのとお金が無かったのとでしなかったけれど、お金持ちだったらやったかもしれない。
大人になって、人の目をスルーする術を身につけたり、没頭出来る趣味を見つけて、そこまで外見を気にする事は無くなったけれど、今も仕事で疲れた日なんかは、鏡を見るとうんざりする。
だけどたった一つだけ。
トレードマークとも言える顎にあるホクロ。
これだけは、取らなくて良かったと思う。
だって、多分これが無くなったら、私の顔じゃなくなってしまうだろう。
「·····はは。ま、いっか」
鏡に映る疲れた顔に、いびつな笑顔を向けた。
END
「鏡の中の自分」
頼みがある、とやけに深刻な顔をして彼は私の部屋へやってきました。
「何でしょう?」
深夜二時。
誰もが寝静まっている時間です。私は彼と酒を飲んで、ほんの数分前に別れたばかりでした。
さっきまでの浮かれた空気はどこへやら、彼はまるでこの世の終わりのような顔をしています。
私を見下ろす視線は頼りなさげにさまよい、ここに来た事を後悔しているようにも見えました。
「眠れないんだ」
俯いて、ぽつりと落とした小さな呟き。
酒も馬鹿話も、彼の孤独を紛らせる事は出来なかったのでしょう。今夜はとても·····あの夜に似ていたのですから。
「どうぞ。貴方が寝るスペースくらいはありますよ」
私は彼を招き入れ、ベッドの端に座りました。
無言で隣に座る彼は、まるで幼い子供のようです。
「貴方は時々、小さな子供のようですね」
ぽふ、と頭に手を当てると、彼は小さく肩を竦めました。そのまま私の肩に頭を預ける彼の、少し堅い髪を撫で続けます。
眠りにつく前に、彼が小さく「ありがとう」と言うのが聞こえました。
END
「眠りにつく前に」
永遠に続くものなどない。
形のあるものが時間の経過で変わっていくのは当然だけれど、形のないものも永遠にそのままであることなど有り得ない。
人の感情だって変わっていくし、たとえば神様の教えだって時代によって解釈が変わっていく。
歴史だって語る人によって意味を変えていくし、何かに対して抱いていた怒りや憎しみがいつの間にか消えていた事だってある。
永遠に変わらないものなんてあるのだろうか?
無いと分かっているからこそ、信じたくなるのかもしれない。
END
「永遠に」