せつか

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頼みがある、とやけに深刻な顔をして彼は私の部屋へやってきました。
「何でしょう?」

深夜二時。
誰もが寝静まっている時間です。私は彼と酒を飲んで、ほんの数分前に別れたばかりでした。
さっきまでの浮かれた空気はどこへやら、彼はまるでこの世の終わりのような顔をしています。
私を見下ろす視線は頼りなさげにさまよい、ここに来た事を後悔しているようにも見えました。

「眠れないんだ」
俯いて、ぽつりと落とした小さな呟き。
酒も馬鹿話も、彼の孤独を紛らせる事は出来なかったのでしょう。今夜はとても·····あの夜に似ていたのですから。
「どうぞ。貴方が寝るスペースくらいはありますよ」
私は彼を招き入れ、ベッドの端に座りました。
無言で隣に座る彼は、まるで幼い子供のようです。
「貴方は時々、小さな子供のようですね」
ぽふ、と頭に手を当てると、彼は小さく肩を竦めました。そのまま私の肩に頭を預ける彼の、少し堅い髪を撫で続けます。

眠りにつく前に、彼が小さく「ありがとう」と言うのが聞こえました。


END



「眠りにつく前に」

11/2/2024, 2:52:59 PM