せつか

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祭りは終わった。
夏の浮かれた時間は終わり、参加していた者達はそれぞれの場所に帰っていく。――私も、彼も。
この地で紡がれた縁は消えはしないが、皆それぞれに居場所があり、立場があり、仲間があった。
どちらも大切な、手放し難い宝物だ。
私は私であることをやめられない。ろくでもない悪辣な生き方を、やめられない。
彼も彼であることをやめられない。清廉で、真っ直ぐな生き方を、今更変えられるわけがない。
すれ違う事はあるだろう。互いに軽く片手を上げて、簡単な言葉を交わすくらいならある筈だ。
でもそれだけ。それ以上にも以下にもならない。私は悪友達と悪巧みをし、酒を酌み交わし、荒唐無稽なホラ話にうつつを抜かす、いつもの日々に戻るだろう。

ベランダに出ると夜風が気持ちいい。
冷たい風は海を渡る潮風に少し似ている。
その風にしばらく当たっていると聞こえない筈の潮騒が聞こえてきたような気がした。

「·····参ったな」
こんな感情を抱く日が来るなんて。
小さく呟いた声は誰にも届くことなく風にかき消された。


END


「哀愁を誘う」

11/4/2024, 2:45:13 PM