何気ない散歩道、ふと右手に見える海に目をやると、そこには太陽の光を受け煌めく水面が見えた。
遠い地平線に浮かぶ船。空との境界さえ曖昧で、青く染め上げられた海に白い波が寄せ、はっきりとした美しいコントラストを魅せている。
その景色を今こうして書き留めているが、私自身あの光景をどう表現すべきか、言葉が見つからない。
ただあの美しい海だけが、私の網膜に張り付いているだけだ。
きょうのおだい『言葉にできない』
夕方は、一番一日の終わりを感じさせる時間な気がする。
帰り道、夕日を背に帰路につく。あぁ疲れたなぁとか、家についたら何しようかと考えながら、たまにちょっと寄り道なんかしたりして。
お出掛けしたときも、帰りはいつも夕方だ。沈む夕日を眺めながら、楽しく遊んだ事を思い返し、後ろ髪を引かれる。
茜色の雲を眺め、藍色に染まりゆく空を見ると、どこか郷愁のようなものも感じる。
今日もみなさん、お疲れ様でした。
きょうのおだい『沈む夕日』
君のその夢と希望に溢れたその目を見つめると、僕はいつもどうしようもなく顔が熱くなって、つい俯いてしまう。
君はいつも僕に夢を語った。些細なことから、大きなものまで、なんでも。僕にしか話せないから、といっていたけれど、僕はどうして僕に話すのか、分からない。
「遠い異国に、旅してみたいわ。そこで、色んな人と話してみたいし、そこのお料理を食べてみたい」
「オーロラ、見てみたいわ。たまにテレビでやってるけど…。それじゃ見たことにはならないわ。この目で見て、初めて見たって言えると思うの」
そんな話をされるたび、僕はなんて言ってあげたらいいか分からなくて、だた曖昧にそうだね、と返していた。
「今は…まりとっつぉ、ってのが流行ってるんですってね。食べてみたいわ」
「たぴおか、飲んでみたいわね」
じゃあ買ってきてあげるよ。一緒に食べよう。…なんて言えたらいいのに。そしたら、どんなによかったか。
「…お外、出たいわ」
僕は、病室で窓の外を見つめる君に…やっぱり何も言えなかった。
彼女は、難病を患っていた。患者数が少なくて、まだ治せない…不治の病。
体の機能が上手く機能できなくて、食事制限が厳しかった。特に、甘いものは駄目だった。詳しい原理は、当時の僕には分からなかったけれど。
筋肉も、ちっともつかなくて。歩けない彼女は、いつもベットで横になり、学校にも行けていなかった。
初めは、そうじゃなかった。幼稚園位の時はなんの問題もなくて、よく家の近くの公園でかけっこして遊んでいて…それが急に、病気だってなって、全部出来なくなってしまって。
幼馴染のよしみとか、普通に彼女と話すのが好きだとか、色んな理由を考えたりもしたけれど、結局自分自身よく理由もわからないまま、ほぼ毎日彼女の病室に通っていた。
そんな風にしているうち、彼女は自分のしたいこと…夢を、僕に語りだしたのだ。
そんな彼女の姿が、僕にはあまりに痛々しく見えてしまって一緒にいるのも辛いのに、でも行かないって考えはわかなくて…。
こんな僕と一緒にいて、楽しいのかと聞いてしまったことがある。
そしたら彼女はきょとんして後、フッと吹き出したかと思ったら、大笑いした。
「あら、なぁに急に!フフ…笑わさないでよ!」
そんなに笑わなくても、と僕が顔を赤くして俯くと彼女はごめんなさいね、と少し誤魔化すと続けて言った。
「楽しいに、決まってるじゃない。私ね、アナタと話すのを毎日の楽しみにしてるのよ?アナタは、私の知ることのできない外の話をいっぱいしてくれるし…その度に、絶対にこんな病気治してやるって、思えるのよ?」
そうじゃなきゃとっくの昔に私は死んでるわ、と洒落にならない事を付け加えて、彼女は笑った。
「私、アナタのお陰で明日も生きていようって思えるの。だから、自信を持って?ね?」
そんな彼女の姿は、やっぱり眩しくて。僕はただコクリと頷いた。
…でも、ある朝君はその眩しくて美しい目を、永遠に閉じてしまった。
君の目を見つめると、僕はどうしようもなく胸を締め付けられるのだ。そして、勇気が湧いてくる。
僕は今、君を苦しめた病気の研究をしている。君のような人が一人でも多く救われるように…救えるように、努力している。
まだまだ分からないことだらけで…心が折れそうになることをあるけれど…。君の目を見れば、その夢と希望を最期まで失わなかった目を見れば、絶対に叶えてみせると頑張れる。
写真の中で美しく笑う君の夢を、叶えることが出来るようにと。
きょうのおだい『君を見つめると』
ある日私は道端に落ちていたある小瓶を拾った。
その中には、キラキラと光る星空が詰まっていて、ひと目見て私はこの小瓶に魅力されていた。
その日以来、私は暇があればその小瓶を覗いていた。小瓶の中の小さな空は、いつでも同じ景色ではなくて、月の満ち欠けや時には雨も降っていた。
ただ変わらないのは、その星々がいつでも眩しく輝いているということだけだった。
落ち込んだときも、逆に嬉しくてたまらない時も、その星空がそばにあると感じるだけで満たされていた。
ある夜私は、その小瓶を持って外に出た。深い理由はない。ただの気分転換だった。
そこで私は空を見上げた。街の明かりで眩んだ夜空。星も朧で月も霞んでいる。なにも綺麗じゃない。
次に私は小瓶の夜空を覗いた。真っ暗で、その中にキラキラと星々が煌めいている。素敵な素敵な私の夜空。
…でもなんだか、寂しく見えた。
どこか、帰りたがっているような。どこかに、酷く憧れているような。そんな感じだ。
ただの空にそんなこと感じるなんて、妙なことだとは思うけど、私は今とてつもなく酷なことをしているんじゃないかと思った。
だから私は…その小瓶の蓋を開けた。
あの日以来、あの小瓶の中の夜空はどこにもなくなってしまった。
あの時小瓶を開けると、まるでそこには初めから何も入っていなかったのように、小瓶の中は空っぽになってしまった。
拾い集めることも叶わず、でも不思議と後悔はなくて、ただ私は空っぽになった小瓶を持って家に帰った。
今日も夜空は、街明かりに霞んでいる。星のあかりは、街頭に打ち消され続けている。月明かりより、車のヘッドライトの方が明るい夜。
それでも、私の夜空はそこにいる。
人の目が叶わなくなった場所で、遥か先の空の上で煌き続けている。
今日も私は、見えなくなったあの夜空の下で、空を見上げて生きている。
おだい『星空の下で』
『『『『自室の出窓。そこで私は昨日見た奇妙な夢のことを思い出していた。
そこでフッと思い立って私はノートとペンを手に取った。
『気がつくと私は不思議な街にいた。よく行く繁華街によく似ていながらまったく違う場所。
世界の色は全体的に褪せていて、どこかボヤケて見えた。建物の看板に刻まれた文字も、判読できない。
「あや、みぇよいこぉんでしゃまったがぁ」
突然、そんな感じの言葉?で話しかけられたから、心臓が飛び出るかと思った。嗄れた、女とも男ともとれないその声に、本能的な恐怖を感じていた。
「あごぉんなぢょござみぇよいこんまでぁごまゃだの」
私は、もう怖くて怖くてたまらなくて、声のする方を振り向かないようにダッと走り出した。
ただひたすら声の主から離れたくって離れたくって、もうたまらなかった。ソイツは多分、追いかけては来ていなかった。
場面は変わって、気づいたら私はショッピングモールと思しき場所にいた。
私は子供の(背がとても低かったので)姿で、母親に手を引かれながら歩いていた。
母親とは何か会話していたが、詳細はまったく思い出せない。けれど、とても楽しいと感じていた。
そこで私は大きな窓のある吹き抜けような場所で、母親と花火を見た。きれいな花火が煌めいていて、とても綺麗だった。
そこで私は目を覚ました。朝の6時半。今日は休日で、まだ寝ていられると眠りについた。
そこで私は真っ白な一つの箱になった夢を見た。箱の中にいるのような夢で、そこで私は自分自身を箱であると自覚していた。
少しして、私は目を覚ました。時計を見る。6時半だ。あれから、一分も経ってない。おかしいと感じながら、私はまた眠りについた。
そしてまた箱になった夢を見た。また目を覚ます。
6時半。一分も経っていない
怖くなって、私はまた眠りについた。きっとこの時間に自分にとって恐ろしい事が起こるのだと思いながら』
そこで私は筆を置いた。たしか、こんな内容だったはず。
ふぅとため息を私はついた。もうあんな夢見たくない。
ただ…一つ、分からないことがある。
私は時計見た。
6時半だ。一分も経ってない。』』』』
きょうのおだい『一つだけ』