マル

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 ある日私は道端に落ちていたある小瓶を拾った。
 その中には、キラキラと光る星空が詰まっていて、ひと目見て私はこの小瓶に魅力されていた。

 その日以来、私は暇があればその小瓶を覗いていた。小瓶の中の小さな空は、いつでも同じ景色ではなくて、月の満ち欠けや時には雨も降っていた。
 ただ変わらないのは、その星々がいつでも眩しく輝いているということだけだった。

 落ち込んだときも、逆に嬉しくてたまらない時も、その星空がそばにあると感じるだけで満たされていた。

 ある夜私は、その小瓶を持って外に出た。深い理由はない。ただの気分転換だった。
 そこで私は空を見上げた。街の明かりで眩んだ夜空。星も朧で月も霞んでいる。なにも綺麗じゃない。
 次に私は小瓶の夜空を覗いた。真っ暗で、その中にキラキラと星々が煌めいている。素敵な素敵な私の夜空。
 …でもなんだか、寂しく見えた。
 どこか、帰りたがっているような。どこかに、酷く憧れているような。そんな感じだ。
 ただの空にそんなこと感じるなんて、妙なことだとは思うけど、私は今とてつもなく酷なことをしているんじゃないかと思った。
 だから私は…その小瓶の蓋を開けた。

 あの日以来、あの小瓶の中の夜空はどこにもなくなってしまった。
 あの時小瓶を開けると、まるでそこには初めから何も入っていなかったのように、小瓶の中は空っぽになってしまった。
 拾い集めることも叶わず、でも不思議と後悔はなくて、ただ私は空っぽになった小瓶を持って家に帰った。

 今日も夜空は、街明かりに霞んでいる。星のあかりは、街頭に打ち消され続けている。月明かりより、車のヘッドライトの方が明るい夜。
 それでも、私の夜空はそこにいる。
 人の目が叶わなくなった場所で、遥か先の空の上で煌き続けている。
 今日も私は、見えなくなったあの夜空の下で、空を見上げて生きている。


おだい『星空の下で』

4/5/2023, 10:58:00 AM