マル

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 君のその夢と希望に溢れたその目を見つめると、僕はいつもどうしようもなく顔が熱くなって、つい俯いてしまう。
 君はいつも僕に夢を語った。些細なことから、大きなものまで、なんでも。僕にしか話せないから、といっていたけれど、僕はどうして僕に話すのか、分からない。
「遠い異国に、旅してみたいわ。そこで、色んな人と話してみたいし、そこのお料理を食べてみたい」
「オーロラ、見てみたいわ。たまにテレビでやってるけど…。それじゃ見たことにはならないわ。この目で見て、初めて見たって言えると思うの」
 そんな話をされるたび、僕はなんて言ってあげたらいいか分からなくて、だた曖昧にそうだね、と返していた。
「今は…まりとっつぉ、ってのが流行ってるんですってね。食べてみたいわ」
「たぴおか、飲んでみたいわね」
 じゃあ買ってきてあげるよ。一緒に食べよう。…なんて言えたらいいのに。そしたら、どんなによかったか。

「…お外、出たいわ」
僕は、病室で窓の外を見つめる君に…やっぱり何も言えなかった。

 彼女は、難病を患っていた。患者数が少なくて、まだ治せない…不治の病。
 体の機能が上手く機能できなくて、食事制限が厳しかった。特に、甘いものは駄目だった。詳しい原理は、当時の僕には分からなかったけれど。
 筋肉も、ちっともつかなくて。歩けない彼女は、いつもベットで横になり、学校にも行けていなかった。

 初めは、そうじゃなかった。幼稚園位の時はなんの問題もなくて、よく家の近くの公園でかけっこして遊んでいて…それが急に、病気だってなって、全部出来なくなってしまって。

 幼馴染のよしみとか、普通に彼女と話すのが好きだとか、色んな理由を考えたりもしたけれど、結局自分自身よく理由もわからないまま、ほぼ毎日彼女の病室に通っていた。
 そんな風にしているうち、彼女は自分のしたいこと…夢を、僕に語りだしたのだ。
 そんな彼女の姿が、僕にはあまりに痛々しく見えてしまって一緒にいるのも辛いのに、でも行かないって考えはわかなくて…。
 こんな僕と一緒にいて、楽しいのかと聞いてしまったことがある。
 そしたら彼女はきょとんして後、フッと吹き出したかと思ったら、大笑いした。
「あら、なぁに急に!フフ…笑わさないでよ!」
 そんなに笑わなくても、と僕が顔を赤くして俯くと彼女はごめんなさいね、と少し誤魔化すと続けて言った。
「楽しいに、決まってるじゃない。私ね、アナタと話すのを毎日の楽しみにしてるのよ?アナタは、私の知ることのできない外の話をいっぱいしてくれるし…その度に、絶対にこんな病気治してやるって、思えるのよ?」
 そうじゃなきゃとっくの昔に私は死んでるわ、と洒落にならない事を付け加えて、彼女は笑った。
「私、アナタのお陰で明日も生きていようって思えるの。だから、自信を持って?ね?」
 そんな彼女の姿は、やっぱり眩しくて。僕はただコクリと頷いた。


 …でも、ある朝君はその眩しくて美しい目を、永遠に閉じてしまった。


 君の目を見つめると、僕はどうしようもなく胸を締め付けられるのだ。そして、勇気が湧いてくる。
 僕は今、君を苦しめた病気の研究をしている。君のような人が一人でも多く救われるように…救えるように、努力している。
 まだまだ分からないことだらけで…心が折れそうになることをあるけれど…。君の目を見れば、その夢と希望を最期まで失わなかった目を見れば、絶対に叶えてみせると頑張れる。
 写真の中で美しく笑う君の夢を、叶えることが出来るようにと。


きょうのおだい『君を見つめると』

4/6/2023, 4:11:18 PM