マル

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4/2/2023, 2:17:49 PM

 『わたしのたからもの』
                     里野 朱音

 初めてその子にあったのは、親に連れられていったおもちゃ屋さんでした。
 その日は私の誕生日で、プレゼントを買いに行ったのですが、そこでたくさんのぬいぐるみを見つけました。
 その中にいた一匹のクマのヌイグルミに、わたしは一目で心をうばわれました。
 ふわふわの体に、首に緑色のリボンを着けていて、他にも同じような子はいたのですが、わたしはこの子しかいない!と思いました。

 それからわたしは、そのクマのヌイグルミに『べーちゃん』と名付けて、毎日一緒に遊んだり、寝ています。
 べーちゃんは、わたしが落ち込んでないちゃった時も、ずっと一緒にいてくれる、わたしの一番のたからものです。
 これからも、ずっとずっと、一緒にいたいです。



おだい『大切なもの』

4/1/2023, 2:50:30 PM

きょうは、二本立て

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「私ね、実は君のこと嫌いなの」
 開口一番、俺は彼女に告げられた。
 話があるから会えないか、と彼女から送られてきたメールにはそう書かれていて、いつもとは違う雰囲気のメールに戦々恐々としてこそいたが、まさかの宣言。
 つまり、これは…別れ話、なんだろう。

 彼女とは半年ほど前に付き合いだして、本当に俺にはもったいない素敵な人だと常日頃思っていてが…。それでも滅茶苦茶ショックだった。
 あぁ神様。なんて残酷なんでしょう。
 そう俺がガックリと肩を下げていると、彼女が慌てた曜に俺に言ってきた。
「ちょ、ちょっと待って、そんなに落ち込まないで!」
 いや落ち込むよ。別れ話だろ?
「ご、ごめんなさい!そ、そんな落ち込むなんて、思わなくて…ほら、今日はエイプリルフールでしょう?」
 エイプリルフール…?エイプリルフール…。 
 …そうだ!今日は4月の1日!エイプリルフールで、つまり…。
「嘘…ってことか!?悪趣味じゃない?!めっちゃ俺…」
「あぁ…本当にごめんなさい!!あのね…」
 そう彼女は本当に申し訳なさそうに肩を縮めながら、どうしてあんな嘘をついたのか話しだした。
「あの…エイプリルフールについた嘘は、一年間叶わないって…聞いてね…それで、君に嫌いって言えば、一年間ずーっと好き同士でいられるかな…って…思って…」
「そ、そうだったのか…」
 俺は安心したような、肩透かしを食らったような、なんともいえない気持ちになって思わず腰が抜けてしまった。
 そんな俺をみて彼女はもう本当に泣きそうな顔で俺を支えながら何度もごめんなさいごめんなさいと繰り返していた。
「いや…俺…別れ話かと…ほんと…」
「本当に、本当にごめんなさい…私…なんて軽い気持ちで…」
「いや…なんか、もういいよ」
 段々と俺の中には安堵が溢れてきて、可愛らしい願掛けも愛おしくってきて、もうどうしたらいいか分からなくなってきた。でも、本当に本当に安心したのは事実だ。
 その時ふっと思って、彼女のほうを見る。
「あのさ、それ…一年間だけなんだろ?その後は?」
「え、あの…また、言えたら…また一年間って…ずっと…続ければって…ごめんなさい…」
「あ、いやもういいよ!謝んなくて!」
 俺はシャンと立って彼女の肩を抱いた。あの言葉が嘘だったなら、これ以上情けない姿は見せられない。
「嘘、だったんだろ?それだけで、もういいや」
「あの…本当?本当にいいの?君のこと、傷つけたのに?」
「だから!もういいって!な!」
 ぎゅっと、彼女を抱き締める。彼女もこわごわとしながら、俺を抱き締め返してきた。
「でも、嘘でも嫌いって言われるの、嫌だからさ。もう言わないでくれよ?」
「うん、うん…。ごめんね…」
「謝んないでって」
「ごめんね…大好き…大好きだからね…」
「知ってるよ。…俺も大好きだよ」
 しばらく俺たちはそうやって、言い合い続けていた。


――――――――――――――――――――――――――
「実は僕は宇宙人で、今日地球を滅ぼす手筈になっているんだ!」
「あっそ。大変ね」
 目の前の幼馴染は驚愕に満ちた顔であたしを見ている。
「いや、マジのところの一大事よ…?」
「へー困ったわね。で、あたしはどうしたらいいわけ?」
「焦れよ!!なんでそんな落ち着いてんのさ?!!」
 わたわたと手足をバタつかせながらいかに事が重大かを語ってくる。
「今に空を覆う数の宇宙艇が地球を攻めてくんだそ!?」
「じゃあさ…仮に、仮によ、それが本当だとして、それをあたしに話して何になるわけ?」
 あたしがそういうと幼馴染は自信満々に胸を張っていった。
「そりゃあれよ!僕と一緒に来て逃げてもらうのよ!」
「どこによ」
「僕の星しかないだろ?」
 はぁ、とあたしはため息をついた。こいつこんなスラスラ口が回るやつだっけ?
「あーもういいから。嘘でしょ?それ」
「なんで!信じてくんないの!」
 けたたましく叫ぶ幼馴染に呆れたようにあたしは言う。
「だって今日、エイプリルフールでしょ?嘘つく日」
「…え、あ…そうだった」
 幼馴染は突然気が抜けたようにへにゃりとなってしまった。でもどこかを見ながらブツブツと何か呟いている。
「あーいやでも…そっか…嘘にできるのか…気に入ってたしな、ここ」
 何いってんだが。あたしは呆れかけた。
 

 あーよかった、と僕は安心していた。僕の幼馴染であるところの女の子がちっとも驚かないもので焦ったけど、どうにかなりそうだ。
 僕たちの種族はどうにも誰かのお願いを聞いてしまう。本来の取り決めであるこの星を滅ぼすこと、というものも止めてくれと女の子が言えば、それで止められた。
 僕らの種族の、決定的な弱点。それを利用すれば居心地のいいこの地球という星を壊さないで済む。と、考えたのだけど。
 この取り決めを、嘘にする。正確に言うなら、嘘にしてくれと願われたことにすればいい。僕は種族の中でも頭が回るのだ。自称だが。 

「あのさー」
 僕が安心して胸をなでおろしていると、目の前の女の子がなんの気なんてなさそうに聞いてきた。

「あたしに、幼馴染なんていたっけ?」

………。
「…嘘だよ」


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おだい『エイプリルフール』

3/31/2023, 2:53:05 PM

 8月28日。その日から、わたし達は離れ離れになった。
 その時も、いつもと変わらず一緒に家に帰っていた。
 他愛のない話をしながら手を繋いで帰る。わたし達の幼い頃からの日常だった。
 でもその日はいつもと違って。普段は気にもとめないような道に、たまには入ってみようか、という話になった。
 毎日毎日同じ帰り道で、飽きてきていたのだ。ちょっとした、寄り道のような感覚だった。

――そんなこと、辞めておけばよかったんだ。

 気付けば、知らない場所にいた。見慣れた町並みのようで、どこかおかしい場所。人っ子一人おらず、二人きり。
 不安に怯えながら二人で固く手を握り、歩いていた。出口はどこだろう。ここはどこだろう。そう話しながら。
 会話を途切れさせれば、なんの音もしないこの空間に飲み込まれてしまいそうで、怖くてたまらなかったんだ。
 
――それでわたしは少しづつ思い出していって。

「大丈夫。私がいるから」
そう言う貴女の手は震えていて。私はせめて少しでも安心してほしくて。何も言えなかったけど、ただ彼女の手を強く握り返して。
 町並みは目に眩しいくらいの夕焼けに照らされていた。
 手を握る貴女の色も全部が茜色に染め上げられて、髪も瞳も唇も全部きれいで。
 ずっと見ていられたなら、よかったのに。

――帰り道を、わたしは知っていて。

「…あのね」
 口に出した声は震えていた。わたしが口を開くと、貴女は少し驚いて、恐怖で震える声で本当に優しく、どうしたの、と問いかけてくれたのが嬉しくて。
「…帰り道、わたし、知ってるよ」
 頭の中がグチャグチャになっていく。思考が支離滅裂になっていく。わたしは、わたしは、わたしは、わたしは。

――――――――――――――――――――――――――
「ねぇ■■」
「なに?どうかしたの?」
「あの道、入ってみない?いつも行かないし」
「あー…プチ寄り道?いいかもね。行こっか」
―――――――――――――――――――――――――― 

 眩 し い 光 が 目 を 焼 い て 
  身 体 が 軽 く 舞 っ て い っ て

――――――――――――――――――――――――――

 わたしが貴女をここに迷い込ませて。一緒にいたくて。
 わたしの言葉に貴女は戸惑った。でも、嬉しそうに言ったから。
「本当に?じゃあ、教えて。一緒に帰ろうよ。もうこんなとこ、いたくない」
 ずっと一緒にいたいって。いたい。いたくて。
「こっちだよ、■■。こっち」
 手を離して、わたしは貴女の先を行く。貴女は焦って、待って!と叫んで追ってくる。

――だめなの。知ってるよ。

せめて貴女は幸せでありますように。


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9月5日

 私はぼうっとしながら、テレビに流れるニュースを見つめていた。
 ここは病院の一室だ。私は親友と一緒に事故にあって、数日間目覚めなかった…らしい。まだ、実感が湧かない。
 ついさっきまで、私はあの子といたのだ。手を繋いで、変な町を歩いていたんだ。それが突然、あの子は私の手を離してどこかに行ってしまった。
 あの子を追いかけて、追いかけ続けて。気付いたら、この病室のベットの上にいた。
 …あの子は、もう亡くなってしまっていた。
 あの日。何気ない寄り道のつもりで入った道で、私達は車に轢かれてしまった。
 あんな道。行かなきゃ良かった。そしたらまだ、まだ。

――まだ、一緒にいられたのに。いたかったのに。

せめて、天国にいる君が幸せでありますように。



きょうのおだい『幸せに』

3/30/2023, 10:51:49 AM

 あ、と気づいた。小さな予感のようなものだけど、きっとそうだろうと思った。
「それでさ、試しに聴いてみたらはまっちゃってさー」
 何気ない会話だ。僕の友人である彼は、楽しそうに話している。
「そうなんだ?いいじゃん、僕も聴いてみようかな」
「マジおすすめ!食わず嫌いはするもんじゃねぇな」
 そう言って笑いながら彼は頭をガリガリと掻いた。
 彼は最近、ある音楽にハマったらしい。激しめな曲を好む彼があまり好まないような、落ち着いたブルース。
 どうして、急に好みではない曲を聴き出したのか。
 深く考えなくても、僕には分かる。ずっと、彼を見ていたから。初めて出会ったときから、ずっと。

 出会いは単純だ。入学時、隣の席だったからだ。僕自身は社交的な方ではなく、むしろ人見知り気味だった。そのうえ入学したばかりで戸惑っていたし、悩んでいた。
 そんな僕に彼は気さくに話しかけてきた。
 「これからよろしくな!」と。そこから彼は本当に小さい事から話しかけてきた。
 「次の授業…数学だろ?だりー。俺は体育がいいんだけどなー。お前は?」「今日の給食カレーじゃん!ラッキー!な!」「おい!次移動だぞー。遅れるぞー」
「な、今日どっか一緒によらね?」
 とかとか…最初は鬱陶しくも感じたけれど、段々と楽しくなって来て…。気付けば、かけがえのない友人になっていた。
 彼は僕以外にも何人も友達がいるようだし、彼からしたら僕は友達K、ぐらいの感覚かもしれないけれど…。僕にとっては本当に、本当に特別で大切で、かけがいのない…『友人』…なのだ。

 きっと彼は、好きな人が出来たのだろう。その人に近づきたくて、普段は聞かない曲を聴き、わざとらしく大きめな声で、教室の中話している。

 応援しよう。協力も、出来るならしよう。
 相談には、いくらでも乗ろう。悩みは、一緒にいくらでも考えよう。
 そう頭の中で考えながら、楽しげに話す彼を見つめていた。


おだい『何気ないふり』

3/29/2023, 4:24:01 PM

 その日目を覚ますと、外は快晴だった。
 雨が降らない日は、本当にいつぶりだろうか。少なくともここ二ヶ月間まるまる降り続けていた。
 そのせいで標高の低い私の町は足首のところまで水がたまり、このままじゃ町が沈むんじゃないかとまことしやかに囁かれていた。
 実際、私もそう思っていた。日に日に増す水かさに、恐怖と諦めを感じながら傘を差し、厚底の長靴を履いて、いつ行けなくなるかも分からない学校へと足を運んでいた。
 明日もきっと雨が降っていて、また今日より少し町は沈むのだと、この町から離れなければならないのだと、そう布団の中で考えては憂鬱な気持ちに浸り、気付けば朝になる。そんな生活をずっと続けていた。
  
 私は最早何も考えず、寝間着のまま外へ飛び出した。
 日の光を浴びたかった。引かない水が足元をぐっしょりと濡らすが、どうでもいい。ただ、ただ日の光を、待ち望んだそれを、浴びたかった。
 そうしたのは私だけでなく、近所の人達も家から飛び出していた。そして一様に、眩しい太陽を見つめていた。
 長く待ち望んだ、暖かな陽射し。足元の普段は冷たい水も、日の光で暖められぬるくなっていた。
 そうだ。もう春が来ていたのだ。雨のせいでいつだって寒く、すっかり忘れていた。
 今は、ただ、何も言えないほどに、嬉しかった。



きょうのおだい『ハッピーエンド』 







思い浮かんだのでもう一つ

 パタン、と私は読んでいた本を閉じた。爽やかな読後感に満たされながら、読後の余韻に浸る。
 読んでいた本の内容はいたって王道なファンタジーモノだ。
 突如として現れた魔王を倒すべく田舎の村で暮らしていた普通の少年が旅に出る、というもの。
 主人公は最初、へっぽこで、最弱とされるモンスターでさえ倒すのに苦戦して。それでも、大切な故郷を守る為、何度も何度も戦いに挑んで。
 そんな主人公の姿に惹かれた仲間と出会い、徐々に強くなっていき、衝突しながらも分かり合って絆を深めて、最初は見向きをされなかった主人公を、多くの人が認めるようになっていった。
 そしてとうとう主人公は、仲間達と共に勇者を打ち倒すことに成功するのだ―――。

 最初こそ、ヤキモキした。この何もできない主人公に。
 抱える信念と、強さがまったく伴わなくて。うじうじすることもあって。
 私にとって主人公とは、ある種初めから完成された存在だった。勇敢で、優しくて、そして強い。それこそが主人公であり、そうあるべきだと。
 でもこの本を読み終わった私の、主人公というものに関する考え方は、少し変化した。
 彼らだって、悩むし、弱いのだ。「仲間がいるから」というセリフにどれだけの意味があったか。
 勿論、今までの主人公達は大好きだ。そうであって欲しいとも思う。
 けれど、最初から強い存在など、いないのだ。そこを、この本は丁寧に書いていた。

 …きっと私は、この主人公と私自身を重ねていたのだ。
 いや、彼だけじゃない。今まで主人公と呼ばれた全ての人物に、私は自分自身を重ねてみていた。
 自分は弱いと理解しているから。だから、初めから強い存在を望んだ。弱くありたいとは、思わないから。
 だから弱いこの主人公が、嫌だった。自分の弱さも見せられるようで…。きっと、そうなのだろう。
 でも、この本で…弱くとも信念を貫く姿は、人を惹きつけ、結果的に自分自身も強くなれると知れた。
 勿論、この本で世界の全てがわかるわけじゃない。
 でも、気付きを与えてくれたのだ。私にとって、それが一番だ。

 この本は、私の生涯の指針になる。気がした。

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