マル

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きょうは、二本立て

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「私ね、実は君のこと嫌いなの」
 開口一番、俺は彼女に告げられた。
 話があるから会えないか、と彼女から送られてきたメールにはそう書かれていて、いつもとは違う雰囲気のメールに戦々恐々としてこそいたが、まさかの宣言。
 つまり、これは…別れ話、なんだろう。

 彼女とは半年ほど前に付き合いだして、本当に俺にはもったいない素敵な人だと常日頃思っていてが…。それでも滅茶苦茶ショックだった。
 あぁ神様。なんて残酷なんでしょう。
 そう俺がガックリと肩を下げていると、彼女が慌てた曜に俺に言ってきた。
「ちょ、ちょっと待って、そんなに落ち込まないで!」
 いや落ち込むよ。別れ話だろ?
「ご、ごめんなさい!そ、そんな落ち込むなんて、思わなくて…ほら、今日はエイプリルフールでしょう?」
 エイプリルフール…?エイプリルフール…。 
 …そうだ!今日は4月の1日!エイプリルフールで、つまり…。
「嘘…ってことか!?悪趣味じゃない?!めっちゃ俺…」
「あぁ…本当にごめんなさい!!あのね…」
 そう彼女は本当に申し訳なさそうに肩を縮めながら、どうしてあんな嘘をついたのか話しだした。
「あの…エイプリルフールについた嘘は、一年間叶わないって…聞いてね…それで、君に嫌いって言えば、一年間ずーっと好き同士でいられるかな…って…思って…」
「そ、そうだったのか…」
 俺は安心したような、肩透かしを食らったような、なんともいえない気持ちになって思わず腰が抜けてしまった。
 そんな俺をみて彼女はもう本当に泣きそうな顔で俺を支えながら何度もごめんなさいごめんなさいと繰り返していた。
「いや…俺…別れ話かと…ほんと…」
「本当に、本当にごめんなさい…私…なんて軽い気持ちで…」
「いや…なんか、もういいよ」
 段々と俺の中には安堵が溢れてきて、可愛らしい願掛けも愛おしくってきて、もうどうしたらいいか分からなくなってきた。でも、本当に本当に安心したのは事実だ。
 その時ふっと思って、彼女のほうを見る。
「あのさ、それ…一年間だけなんだろ?その後は?」
「え、あの…また、言えたら…また一年間って…ずっと…続ければって…ごめんなさい…」
「あ、いやもういいよ!謝んなくて!」
 俺はシャンと立って彼女の肩を抱いた。あの言葉が嘘だったなら、これ以上情けない姿は見せられない。
「嘘、だったんだろ?それだけで、もういいや」
「あの…本当?本当にいいの?君のこと、傷つけたのに?」
「だから!もういいって!な!」
 ぎゅっと、彼女を抱き締める。彼女もこわごわとしながら、俺を抱き締め返してきた。
「でも、嘘でも嫌いって言われるの、嫌だからさ。もう言わないでくれよ?」
「うん、うん…。ごめんね…」
「謝んないでって」
「ごめんね…大好き…大好きだからね…」
「知ってるよ。…俺も大好きだよ」
 しばらく俺たちはそうやって、言い合い続けていた。


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「実は僕は宇宙人で、今日地球を滅ぼす手筈になっているんだ!」
「あっそ。大変ね」
 目の前の幼馴染は驚愕に満ちた顔であたしを見ている。
「いや、マジのところの一大事よ…?」
「へー困ったわね。で、あたしはどうしたらいいわけ?」
「焦れよ!!なんでそんな落ち着いてんのさ?!!」
 わたわたと手足をバタつかせながらいかに事が重大かを語ってくる。
「今に空を覆う数の宇宙艇が地球を攻めてくんだそ!?」
「じゃあさ…仮に、仮によ、それが本当だとして、それをあたしに話して何になるわけ?」
 あたしがそういうと幼馴染は自信満々に胸を張っていった。
「そりゃあれよ!僕と一緒に来て逃げてもらうのよ!」
「どこによ」
「僕の星しかないだろ?」
 はぁ、とあたしはため息をついた。こいつこんなスラスラ口が回るやつだっけ?
「あーもういいから。嘘でしょ?それ」
「なんで!信じてくんないの!」
 けたたましく叫ぶ幼馴染に呆れたようにあたしは言う。
「だって今日、エイプリルフールでしょ?嘘つく日」
「…え、あ…そうだった」
 幼馴染は突然気が抜けたようにへにゃりとなってしまった。でもどこかを見ながらブツブツと何か呟いている。
「あーいやでも…そっか…嘘にできるのか…気に入ってたしな、ここ」
 何いってんだが。あたしは呆れかけた。
 

 あーよかった、と僕は安心していた。僕の幼馴染であるところの女の子がちっとも驚かないもので焦ったけど、どうにかなりそうだ。
 僕たちの種族はどうにも誰かのお願いを聞いてしまう。本来の取り決めであるこの星を滅ぼすこと、というものも止めてくれと女の子が言えば、それで止められた。
 僕らの種族の、決定的な弱点。それを利用すれば居心地のいいこの地球という星を壊さないで済む。と、考えたのだけど。
 この取り決めを、嘘にする。正確に言うなら、嘘にしてくれと願われたことにすればいい。僕は種族の中でも頭が回るのだ。自称だが。 

「あのさー」
 僕が安心して胸をなでおろしていると、目の前の女の子がなんの気なんてなさそうに聞いてきた。

「あたしに、幼馴染なんていたっけ?」

………。
「…嘘だよ」


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おだい『エイプリルフール』

4/1/2023, 2:50:30 PM