8月28日。その日から、わたし達は離れ離れになった。
その時も、いつもと変わらず一緒に家に帰っていた。
他愛のない話をしながら手を繋いで帰る。わたし達の幼い頃からの日常だった。
でもその日はいつもと違って。普段は気にもとめないような道に、たまには入ってみようか、という話になった。
毎日毎日同じ帰り道で、飽きてきていたのだ。ちょっとした、寄り道のような感覚だった。
――そんなこと、辞めておけばよかったんだ。
気付けば、知らない場所にいた。見慣れた町並みのようで、どこかおかしい場所。人っ子一人おらず、二人きり。
不安に怯えながら二人で固く手を握り、歩いていた。出口はどこだろう。ここはどこだろう。そう話しながら。
会話を途切れさせれば、なんの音もしないこの空間に飲み込まれてしまいそうで、怖くてたまらなかったんだ。
――それでわたしは少しづつ思い出していって。
「大丈夫。私がいるから」
そう言う貴女の手は震えていて。私はせめて少しでも安心してほしくて。何も言えなかったけど、ただ彼女の手を強く握り返して。
町並みは目に眩しいくらいの夕焼けに照らされていた。
手を握る貴女の色も全部が茜色に染め上げられて、髪も瞳も唇も全部きれいで。
ずっと見ていられたなら、よかったのに。
――帰り道を、わたしは知っていて。
「…あのね」
口に出した声は震えていた。わたしが口を開くと、貴女は少し驚いて、恐怖で震える声で本当に優しく、どうしたの、と問いかけてくれたのが嬉しくて。
「…帰り道、わたし、知ってるよ」
頭の中がグチャグチャになっていく。思考が支離滅裂になっていく。わたしは、わたしは、わたしは、わたしは。
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「ねぇ■■」
「なに?どうかしたの?」
「あの道、入ってみない?いつも行かないし」
「あー…プチ寄り道?いいかもね。行こっか」
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眩 し い 光 が 目 を 焼 い て
身 体 が 軽 く 舞 っ て い っ て
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わたしが貴女をここに迷い込ませて。一緒にいたくて。
わたしの言葉に貴女は戸惑った。でも、嬉しそうに言ったから。
「本当に?じゃあ、教えて。一緒に帰ろうよ。もうこんなとこ、いたくない」
ずっと一緒にいたいって。いたい。いたくて。
「こっちだよ、■■。こっち」
手を離して、わたしは貴女の先を行く。貴女は焦って、待って!と叫んで追ってくる。
――だめなの。知ってるよ。
せめて貴女は幸せでありますように。
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9月5日
私はぼうっとしながら、テレビに流れるニュースを見つめていた。
ここは病院の一室だ。私は親友と一緒に事故にあって、数日間目覚めなかった…らしい。まだ、実感が湧かない。
ついさっきまで、私はあの子といたのだ。手を繋いで、変な町を歩いていたんだ。それが突然、あの子は私の手を離してどこかに行ってしまった。
あの子を追いかけて、追いかけ続けて。気付いたら、この病室のベットの上にいた。
…あの子は、もう亡くなってしまっていた。
あの日。何気ない寄り道のつもりで入った道で、私達は車に轢かれてしまった。
あんな道。行かなきゃ良かった。そしたらまだ、まだ。
――まだ、一緒にいられたのに。いたかったのに。
せめて、天国にいる君が幸せでありますように。
きょうのおだい『幸せに』
3/31/2023, 2:53:05 PM