マル

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 あ、と気づいた。小さな予感のようなものだけど、きっとそうだろうと思った。
「それでさ、試しに聴いてみたらはまっちゃってさー」
 何気ない会話だ。僕の友人である彼は、楽しそうに話している。
「そうなんだ?いいじゃん、僕も聴いてみようかな」
「マジおすすめ!食わず嫌いはするもんじゃねぇな」
 そう言って笑いながら彼は頭をガリガリと掻いた。
 彼は最近、ある音楽にハマったらしい。激しめな曲を好む彼があまり好まないような、落ち着いたブルース。
 どうして、急に好みではない曲を聴き出したのか。
 深く考えなくても、僕には分かる。ずっと、彼を見ていたから。初めて出会ったときから、ずっと。

 出会いは単純だ。入学時、隣の席だったからだ。僕自身は社交的な方ではなく、むしろ人見知り気味だった。そのうえ入学したばかりで戸惑っていたし、悩んでいた。
 そんな僕に彼は気さくに話しかけてきた。
 「これからよろしくな!」と。そこから彼は本当に小さい事から話しかけてきた。
 「次の授業…数学だろ?だりー。俺は体育がいいんだけどなー。お前は?」「今日の給食カレーじゃん!ラッキー!な!」「おい!次移動だぞー。遅れるぞー」
「な、今日どっか一緒によらね?」
 とかとか…最初は鬱陶しくも感じたけれど、段々と楽しくなって来て…。気付けば、かけがえのない友人になっていた。
 彼は僕以外にも何人も友達がいるようだし、彼からしたら僕は友達K、ぐらいの感覚かもしれないけれど…。僕にとっては本当に、本当に特別で大切で、かけがいのない…『友人』…なのだ。

 きっと彼は、好きな人が出来たのだろう。その人に近づきたくて、普段は聞かない曲を聴き、わざとらしく大きめな声で、教室の中話している。

 応援しよう。協力も、出来るならしよう。
 相談には、いくらでも乗ろう。悩みは、一緒にいくらでも考えよう。
 そう頭の中で考えながら、楽しげに話す彼を見つめていた。


おだい『何気ないふり』

3/30/2023, 10:51:49 AM