ひら

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11/6/2025, 4:10:38 PM

手のカサつきが季節を思い知らせる。
スーパーで買った焼き芋を手に家路につく。
ふと、懐かしく思う。







庭先に落ち葉を集めた。
パチパチと音を立てて燃える先へアルミに包んだお芋を放る。

軍手で熊手を握るその人はここの家主。
温度に似合わない膝までしかないジャージにサンダル。前髪は鯨のように結って、地毛が現れ始めた金髪。


10歳になったばかりの僕を頻繁に呼んでくれたその人は、友達。歳はいくつ上なのだろうか。



何を交わすでもなく、ただボーッと見つめる揺れは心地よくてあったかい。待ち遠しくて、ずっと終わってほしくなかったな。



「もう、焼けたんじゃね?」
火バサミで差し出されたそれを爪の先でおずおずと開く。

熱かった。それすら甘さと共に噛み締めた。



夕暮れの縁側。
満たされたお腹で、動けない僕をよそに何か思い立った様子のあなた。縁側にサンダルを脱ぎ捨てた。


「こたつ、出すの手伝ってや。」
2人で運んだ。布団をかけて、天板も。


「今度はここで、みかん食べような」
「うん、約束。」
あなたの少し先の予定に僕がいることがとても嬉しかった。

10/16/2024, 5:20:53 PM


窓際に置いたベッドは、星をよく捉える。
だが、朝が不得意な私には少々不適だった。

瞼越しでも刺さるような朝日が、スッと遮られる。
あー、有難い。

こもったエンジン音のようなそれは、喉元から出ているようで。
モフッ、ゴツッと頬へあたる。

家を出るまでのわずかな時間を彼は、私へと使う。
彼のご飯係は私なわけで当然ではあるのだが。

原動力は私に今日をもたらす。



3/25/2024, 2:30:12 PM

一つ手に取り、火をつける。
欲しくもないのに欲しがってしまう。
絶えず起こる溜息に意味を持たせたい、なんてよく分からないまま始めた。
好きでもないのに。


“依存“だ。
愛しさと依存の違いをまさか人以外に教わるなんて。


灰たちを集めてできた針山はモノクロの世界によく溶け込んでいる。
意思も形も持たず天へ登る煙。



まるで私と、また溜息をつく。

2/18/2024, 2:07:35 PM

だるっとした灰色のスウェット。
白のサンダルをパタパタと鳴らしながら道をゆく。
絶えず灯るコンビニへと踏み入る。
缶とつまみと18番を買い流れのまま店を出る。
「あざしたー。」
遠のく声が耳に残る。


不用心なドアノブをひねる。
この狭さに落ち着き、息詰まる。
窓を開け、肘をつきながらカチッと火を点ける。
肺へ送られた煙は明日さえも見えなくする。
黒と白と煙元の灰まみれの赤くらいしか持ち合わせない視界。


日めくりカレンダーにふと目をやる。
日曜の赤がやけに鬱陶しくて、一枚破って丸めて部屋の片隅に放った。
カシュッと開けたソレは、吐き出した虚しさを取り込むように喉へと伝った。

2/17/2024, 5:27:53 PM

芋っぽくて長いままのスカートを履いた制服姿の私と薄汚さを知っているあなた。まるで違う世界に住んでいた。
なのに、出会ったんだ。


駅のホームで肩をぶつけた。
テストのためにと抱えていた参考書が転がる。
「ごめん。」
昼間だというのに千鳥足のあなたは何も知らない私よりずっと弱く見えた。
穴だらけの耳にブリーチで痛んだ白い髪。
今にも確立した『自分』を投げ捨ててしまいそうな姿は、私の手をあなたの手へと導いた。


ビクッと肩を振るわせる。
目には威嚇と嘆きが共存していて、色の縁で誤魔化せないモヤがあった。
「…なに。」
掠れた声。

「わからないです。なんか、引き止めなきゃって。」
「なにそれ。でもね、もういいや。」

嘲笑は私ではなく、彼女のこれまでに向けられたものなんだろうな。

「逃げるのって、悪いことだと思う?君は。」
唐突に飛び出たそれは、意図がつかめてはダメな気がした。
「一つの選択にしか過ぎないと思います。」

「そっかぁ。」
ホームの壁に縋りズルズルと腰を落とすあなた。
潤む瞳は肩の荷が軽くなったからなのか。
私もスカートをなぞりしゃがむ。

「お姉さんの選ぶこと、私は止めません。責任なんて取れないし。ただ、単純にお姉さんに引き込まれました。いなくなるのは惜しいって思っちゃったんです。」
「初対面なのに。」
「まあ、そうですけど。」
思えば変なことしたと少し反省した。


「困らせてごめん。それ聞けただけ今日に意味ができた。」そう言って左耳に手をかける。
さっきまで揺れていたピアスが前に差し出された。
「なんのお礼でも無いけど、これあげる。」
あげると言いながら惜しそうな顔に見えるのは気のせいか。
「いや、でも…」
「いいから、いつかつけてよ。きっと似合う。」
地をつたい掴んだ参考書。
汚れを払い私に押し付けた。


よろよろと立ち上がり階段を上がっていってしまった。
なぜか追いかけることはしなかった。







出かける支度はできた。
カバンを肩に掛け、靴を履く。
玄関の小さな鏡に顔を向ける。
「あ、忘れてた。」
再び靴下で廊下を戻り左耳を彩る。



あなたに憧れてやっと開けたよ。
あなたに今日は訪れていますか。

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