ひら

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芋っぽくて長いままのスカートを履いた制服姿の私と薄汚さを知っているあなた。まるで違う世界に住んでいた。
なのに、出会ったんだ。


駅のホームで肩をぶつけた。
テストのためにと抱えていた参考書が転がる。
「ごめん。」
昼間だというのに千鳥足のあなたは何も知らない私よりずっと弱く見えた。
穴だらけの耳にブリーチで痛んだ白い髪。
今にも確立した『自分』を投げ捨ててしまいそうな姿は、私の手をあなたの手へと導いた。


ビクッと肩を振るわせる。
目には威嚇と嘆きが共存していて、色の縁で誤魔化せないモヤがあった。
「…なに。」
掠れた声。

「わからないです。なんか、引き止めなきゃって。」
「なにそれ。でもね、もういいや。」

嘲笑は私ではなく、彼女のこれまでに向けられたものなんだろうな。

「逃げるのって、悪いことだと思う?君は。」
唐突に飛び出たそれは、意図がつかめてはダメな気がした。
「一つの選択にしか過ぎないと思います。」

「そっかぁ。」
ホームの壁に縋りズルズルと腰を落とすあなた。
潤む瞳は肩の荷が軽くなったからなのか。
私もスカートをなぞりしゃがむ。

「お姉さんの選ぶこと、私は止めません。責任なんて取れないし。ただ、単純にお姉さんに引き込まれました。いなくなるのは惜しいって思っちゃったんです。」
「初対面なのに。」
「まあ、そうですけど。」
思えば変なことしたと少し反省した。


「困らせてごめん。それ聞けただけ今日に意味ができた。」そう言って左耳に手をかける。
さっきまで揺れていたピアスが前に差し出された。
「なんのお礼でも無いけど、これあげる。」
あげると言いながら惜しそうな顔に見えるのは気のせいか。
「いや、でも…」
「いいから、いつかつけてよ。きっと似合う。」
地をつたい掴んだ参考書。
汚れを払い私に押し付けた。


よろよろと立ち上がり階段を上がっていってしまった。
なぜか追いかけることはしなかった。







出かける支度はできた。
カバンを肩に掛け、靴を履く。
玄関の小さな鏡に顔を向ける。
「あ、忘れてた。」
再び靴下で廊下を戻り左耳を彩る。



あなたに憧れてやっと開けたよ。
あなたに今日は訪れていますか。

2/17/2024, 5:27:53 PM