おへやぐらし

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10/2/2025, 8:15:18 PM

街角の小さな雑貨屋さん。
赤い屋根のお家と、そこに暮らす動物たちの人形。
うさぎのお母さんはエプロンをつけて、
お父さんは新聞を広げ、
子うさぎたちはテーブルを囲んでいる。

「ねえ、お母さん、これ欲しい」
私は母の袖を引いた。

「高いのよ、これ」

値札を見て眉をひそめる母。
弟がぐずり始め、母の意識はそちらへ向いてしまう。うなだれたまま振り返ると、淡いピンクのワンピースを着たうさぎの女の子が、じっとこちらを見ていた。

連れて行って。
そんな声が聞こえた気がした。

きょろきょろと周囲を見回す。
誰もいない。私は震える手で人形をポケットに滑り込ませた。心臓が跳ねる。悪いことだとわかっていた。でも、この子は私のものだ。

家に帰って、部屋で改めて眺めてみる。
小さな手足、つやつやした黒い目。

「今日から私たち、友達だからね」
枕元に隠して、私は眠りについた。

その晩、夢を見た。

目の前には赤い屋根のお家。ドアを開けると、
うさぎのお母さんが笑顔で迎えてくれた。

「よく来たわね。待っていたのよ」

家の中は温かくて、甘い匂いがした。
テーブルには小さなケーキが並んでいる。
子うさぎたちが私の手を引いて椅子に座らせる。

「今日からここがあなたのおうちだよ」

うさぎの女の子——あの子も、そこにいた。
隣に座って、私の手を優しく握る。

音楽が流れ始め、みんなでダンスを踊った。
くるくると回り、笑い声が響く。

だが、楽しい時間は突如として終わりを告げた。
茶色のオオカミ人形が現れ、
子うさぎたちを追いかけ始めたのだ。私が木の剣で
追い払うと、仲間たちは一斉に拍手した。

なんて楽しい世界。ここにずっといられたら、
どんなにいいだろう。

それから毎晩、同じ夢を見た。いや、夢なのかどうかも、もう分からなくなってきた。

「最近ぼーっとしてるわね」
母が心配そうに私の顔を覗き込む。

「大丈夫」

本当に大丈夫。
だって、あの家が私の居場所だから。

目を開けると、私はまたあの赤い屋根の家にいた。
隣にはうさぎの女の子。お母さんも、子どもたちも、お父さんも、みんな揃っている。

「お帰りなさい」

その時、どこかから足音が聞こえた。
透明な壁――ショーケースの向こう側に、
母がいた。弟も一緒だ。母は何かを探すように
視線を彷徨わせている。

『あの子、どこ行っちゃったのかしら』
母の声が、遠く、くぐもって聞こえる。

「お母さん!」
私は叫んだ。立ち上がって、壁を叩いた。
でも声は届かない。

人形たちが一斉にこちらを見た。
母は私の存在に気づくことなく、
弟の手を引いたまま再び歩き出す。
足音が遠ざかっていく。

「お願い、行かないで」

二人の背中を見つめていると、
うさぎのお母さんが微笑んだ。

「大丈夫。もう寂しくないわ」

「ボクたちがいるもの」
子うさぎたちが言う。

「ずっと一緒よ」
うさぎの女の子が私の手を握る。

ここが私の居場所。
ここが私の家族。
遠ざかっていく足音は、もう聞こえない。

お題「遠い足音」

9/24/2025, 9:00:38 AM

街に出向いたある晩のことだ。
民家の匂いに混じって、血腥い臭いが
風に乗ってやってきた。薄暗い裏路地からだ。

辿り着いた先にいたのは、二つの重なる人影。
目を凝らすとそれは、女の首筋に牙を立てる
黒ずくめの男。口元からは血が滴り落ちている。

こちらの気配に気づいたのか、男が顔を上げた。月光を浴びたその顔は整いすぎていて、どこか薄ら寒い。

「覗き見かい?」

吸血鬼だ。ここ最近、妙に縁がある。

「こんな場所でお食事とはな」
「仕方ないだろう。彼女がどうしてもと
頼むものだから」

軽やかに答える吸血鬼。腕の中では娘が頬を赤らめ、蕩けた瞳で彼を見上げていた。
目の前の光景に胸がざわつく。軽率な行いだ。
いつ人が通り過ぎてもおかしくはないのに。

「もしかして嫉妬してるの?」
「馬鹿を言うな」

そっぽを向くと、吸血鬼は楽しげに笑い、
髪をかきあげた。金色の髪が月光に反射して煌めく。

「僕と一緒に遊ばないか? 世間知らずな君に
色々教えてあげよう」

赤く濡れた口元で囁かれる言葉は、妙に艶やかで。
睨み返すと、吸血鬼は肩を竦めた。

「つまらない奴だな。まあいい、
また今度誘ってあげるよ」

そう言い残し、娘を抱えたまま
夜の闇へと溶けていった。

――

教会に戻ると、静けさが迎えてくれた。崩れた石壁の間を風が抜け、月光の降り注ぐ中を埃が漂う。

「ただいま戻りました」

もういない主人へ、小さく呟く。
人間でありながら、人狼の血が流れる自分を
受け入れ、生きる意味を与えてくれた人。

——困っている人がいたら助けてあげなさい。
教会に来る者は皆、神の子なのです。

燈明を灯すとき、指先で芯を摘む仕草。
祈りを唱えるとき、わずかに震える声。
決して強い人ではなかった。だが弱さを抱えたまま、誰よりも優しくあろうとした。

「……ご主人」

瞼を閉じると、黒い祭服に白髪の笑顔が蘇る。
胸の奥が締めつけられた。

――

満月が昇る。
青白い光が屋根を焼き、肺を突き刺す冷気と共に、
熱が全身を駆け巡る。

骨が軋む。皮膚が裂ける。筋肉が膨張する。
血が沸き立ち、耳の奥で世界が轟く。

本能を噛み殺すように、歯を食いしばる。
だが抗えば抗うほど、痛みは増していく。

その時だ。

「やあ、今宵も月が綺麗だね」

黄金の髪と赤い瞳を持つ吸血鬼が、
闇を背負って立っていた。

「……なぜここに」
「君に会いたくて」

一歩ずつ近づく足音。
俺は牙を剥き出しにして、低く唸り声を上げた。

「来るなっ! 今夜は――」

言い切る前に、限界が来た。牙が伸び、視界が赤く
染まる。人でも獣でもない姿に変わり果て、
俺は嗚咽を漏らした。

これが本当の俺。
神の子などではない。ただの化け物。

だが吸血鬼は無言で寄り添い、
毛むくじゃらの体に触れた。

死者のように冷たいはずの指先が、不思議と温かい。

「怖くないのか……?」
「怖い? 今の君は怯えた子犬のようだ。
牙を剥きながら、触れられるのを待っている子犬」

赤い瞳が細められる。その表情の奥には、
確かな熱が宿っていた。

ステンドグラスから射し込む月の光が、
二体の魔物を照らす。吸血鬼と人狼。
本来なら相容れぬはずの存在が、
今この瞬間、静かに寄り添っていた。

――

「僕と一緒に来ないか?」

不意に告げられた誘い。
切実で、まるで祈りのような声色だった。

血のように赤い双眸に射抜かれ、心が揺れる。
けれど。

「……おまえとは、一緒に行けない」

唇を噛みしめて告げると、
吸血鬼はほんの少し顔を曇らせた。
しかしすぐに、余裕ある笑みを取り戻す。

「いいさ。答えは急がなくていい。
どうせ僕らは長生きだからね」

――

礼拝堂に戻り、祭壇の前で跪いた。

「俺は……正しい選択をしたのだろうか」

返事はない。
けれど胸の奥で、別の声が囁く。

本当にそれがお前の望みか。

俺が待ち続けているのは、ご主人の帰りなのか。
それとも——。

ステンドグラス越しに落ちる月光が、
床を青白く照らす。夜は果てなく長い。
俺の迷いもまた、終わらない。

お題「僕と一緒に」

(※悪役令嬢という垢の同タイトルと話が繋がってます)

9/9/2025, 8:25:13 PM

俺には気の合う女友達がいる。
互いに恋愛感情は抱いてないが、
彼女のゆったりとした話し方や、のほほんとした
雰囲気が一緒にいて心を落ち着かせてくれた。

ある日のこと、彼女から家に遊びに来ないかという
誘いを受けた。友達とはいえ、異性の家に足を
踏み入れるのは流石に気が引けたが、

「どうしても見せたいものがある」という
彼女の言葉に好奇心をそそられ、
思いきって訪問することにした。

玄関で消毒スプレーを手に吹きかけ、
丁寧に靴を揃える彼女の後に続いて、
「お邪魔します」と小さく呟きながら中へ入る。

彼女のマメな性格が表れているのだろう、
部屋は隅々まで整理整頓されていた。
落ち着いたトーンの家具で統一された空間には、
余計なものが全く置かれていない。
ズボラな俺の部屋とは大違いだ。

それから俺たちは他愛もない会話を交わしたり、
無言になってそれぞれの時間を過ごしたりした。

「ところで、見せたいものって何?」

俺が尋ねると、その言葉を待ってましたと
言わんばかりに、彼女の顔に笑顔が広がった。
そして軽やかな足取りで別の部屋へと向かっていく。

しばらくして戻ってきた彼女の両手は、
何か小さなものを大切そうに包み込んでいた。

ゆっくり手のひらを開くと、
現れたのはレバーのような赤黒い物体。
表面には小さな目玉がいくつも散りばめられ、
ぎょろぎょろと不規則に蠢いている。

「この子、グリちゃんって呼んでるの。
本名はグリムハートなんだけど」

――これは、生き物なのだろうか。

かなりグロテスクだ。形容しがたい不気味な姿に、
俺は戸惑いを隠せなかった。

「触ってみて」

恐る恐る人差し指を伸ばし、ちょんと突いてみる。
ぶよぶよとした弾力のある感触が気持ち悪い。

「ね、可愛いでしょ?」

可愛い?どこら辺が?
フィルターがかかっているんじゃないか。
女の言う可愛いはよくわからない。

だが、他人の好きを簡単に否定することは
戦争に繋がると知っていたので、
俺はぐっと言葉を飲み込んだ。

───

飼育ケースの掃除をしながら、
私は心を込めて作業を進めていた。

ケースを丁寧に洗い、霧吹きで湿度を保つ。
グリちゃんが這った跡には独特の粘液が残るため、日々のお手入れは欠かせない。

風呂桶に一時避難させたグリちゃんが
「キィキィ」と鳴きながら私を見上げる。

ああ、本当に可愛い。

先日、男友達にグリちゃんを紹介したときのことを
思い出す。彼は言葉にこそ出さなかったけれど、
表情や目つきに拒絶の色が滲んでいた。
予想はしていたことだが、やっぱりどこか寂しい。

でも、それでいいんだ。

「世界中のみんなから嫌われても、
私はあなたのことが大好きだからね」

風呂桶の中のグリちゃんに向かって
優しく語りかけると、

「グピィ〜」

私の愛情を理解しているかのように、
甲高い声で応えてくれた。

そう。この子の可愛さは、
私だけがわかっていれば充分なのだ。

お題「フィルター」

9/9/2025, 3:45:07 AM

「おまえ追放な」

有無を言わさぬ冷たい一言。
黒い羊は、突然仲間から告げられた言葉に
ただ項垂れる他なかった。

ここは穏やかな田舎の牧場。緑なす草原が
どこまでも続き、白い柵が境界を取り囲む。

陽だまりの中で、羊たちが小さな群れを作っている。親子で寄り添うもの、友だち同士で戯れるもの。
みな思い思いに草を食み、時折顔を上げては
空を仰ぎ、長閑なひとときを過ごした。

その中に一匹だけ、異質な存在がいた。

黒い羊。黒い毛に覆われた体は、
白い仲間たちの中でもひときわ目を引く。

遠くからでも一目でわかる姿は、羊たちの天敵であるオオカミの目に留まりやすい。
その上、牧場主にとっても染色できない
黒い毛は商品として価値がない。

黒い羊はみんなから疎まれていた。

「あいつ、いつもひとりで食ってやがる」

群れから少し離れた場所で、
ひとり静かに草を食んでいる黒い羊のもとへ、
心ない声が風に乗ってやってきた。
嘲笑を含んだ響き。

やがて一匹の羊が近づいてきた。群れの中でも
特に体格の良い、力自慢で好戦的な雄羊。
その目には、明らかな敵意が宿っていた。

「おまえみたいな奴がいると、
みんなが迷惑するんだよ」

挑発の言葉と共に、激しい頭突きが繰り出される。

だが黒い羊も、決して弱い存在ではない。
孤独の中で鍛えられた肉体は、むしろ仲間たちよりもたくましく育っていた。
反撃は素早く、そして的確だった。

争いに引き寄せられた羊たちが、二匹の周りを
取り囲み見物している。そこへ羊たちを管理する
ボーダーコリーが何事かと駆けつけてきて、
両者はようやく戦いを止めた。

地面に倒れ伏していたのは、
先に喧嘩を仕掛けてきた雄羊の方だった。

しかし、その後に起きたことは、黒い羊に
とってあまりにも理不尽なものだった。

「あいつが突然襲いかかってきたんだ」
「何の理由もなく、いきなり暴力を振るったんです」

負けた雄羊とその取り巻きたちは、
事実をねじ曲げて仲間へ報告したのだ。

だが群れの羊たちは、彼らの話を疑うことなく
信じた。いや、信じたがったのかもしれない。
厄介者を排除する、格好の口実として。

黒い羊は何も弁明しなかった。
言葉を尽くしたところで、
誰も聞く耳を持たないことを知っていたから。

「おまえ追放な」

こうして下された追放命令。
黒い羊は出口へ足を進め、
一度だけ振り返って仲間たちを見つめた。
そこに宿るは憎しみではなく、深い悲しみ。

家畜小屋から出て、白い柵を軽やかに飛び越えると、黒い羊は森の奥へと歩いていった。

森は、牧場とはまったく違う世界だ。

木々の間から射し込む木漏れ日。風は葉を震わせ、
清らかな小川が岩の間を流れる。
水は牧場の水桶とは比べものにならないほど
冷たく、甘い。

黒い羊は初めて、本当の自由を味わった。
誰からも白い目を向けられることなく、
思うままに草を食み、思うままに休息する。

ある夜、大木の根元にできた穴で休んでいると、
遠くから低いうなり声が聞こえてきた。
本能が告げる、オオカミの群れだ。
気配が段々と近付いてくる。そして、黒い羊の
姿を視認すると、彼らは一斉に駆け出した。

必死の逃走劇が繰り広げられる。
黒い羊は持てる力のすべてを振り絞って走った。
だが多勢に無勢、徐々に距離は狭まっていく。

気がつくと、断崖絶壁の縁に立っていた。

後ろには迫りくるオオカミたち。
前には深い谷底。もはや逃げ場はない。

黒い羊は空を見上げた。
満天の星が、やさしく瞬いている。

そして一歩、足を踏み出した。

――

黒い羊の体は地面に強く叩きつけられ、絶命した。
やがて、黒い羊の亡骸のもとに
森の住人たちが集まってきた。

カラスたちが舞い降り、小さな虫たちが這い寄る。
みんなで、黒い羊が持っていた命を
ありがたく分け合った。

黒い毛は土に還り、
血肉は森の生き物たちを養う。

黒い羊はようやく、輪の中に迎え入れられた。
分け隔てなく、すべてを受け入れる
大いなる自然の懐に抱かれて。

生前果たせなかった願い──仲間になること──が、ついに叶えられた瞬間だった。

お題「仲間になれなくて」

8/24/2025, 8:45:34 PM

ポン太は気がつくと、
見知らぬ街の路地に立っていた。ついさっきまで
馴染んだ街を歩いていたはずなのに、
今目の前に広がるのは、まるで別世界のような光景。

狭い路地を挟んで、古びた建物が何層にも重なり合うように立ち並ぶ。看板やネオンサインが無秩序に
突き出し、文字が光で明滅している。

建物と建物の間には錆びた階段が張り巡らされ、
複雑な構造を作り上げていた。

「どこここ……」

どこからか聞こえてくる
調理の音、話し声、機械の唸り声。
生活音や匂いはするのに、人の姿が見えない。

「あ」

角を曲がった先、人影が目に入った。
狩衣を着た、自分と同い年くらいの子。
白い狐のお面を被っており表情は見えない。

「何してるの?」

声をかけると、
その子はゆっくりと顔を向けた。

「君、迷子?」
「うん……ここ、どこかわかる?」
「さあ、どこだろう。でも楽しいよ」

男の子がお面の下でにっこりと
笑ったような気がした。

「ボクは和音《わおん》。君は?」
「ポン太。よろしく、和音くん」
「ポン太、一緒に遊ぼうよ」

それから二人は鬼ごっこや隠れんぼをして遊んだ。

和音は猫のように身軽で、狭い路地の隙間をするりと簡単に通り抜ける。そんな和音をポン太は夢中で
追いかけた。こんなに楽しいのは久しぶりだった。

「お腹空いたなあ」

いつの間にか日が暮れて、
ネオンの光が街を幻想的に彩っていた。

「じゃあ何か食べよう」

和音に手を引かれ、ポン太は小さな店の前に案内された。薄暗い店内には、見たことのない料理がたくさん並んでおり、甘辛い香辛料の匂いが鼻腔をくすぐる。

「これおいしいよ」

和音が差し出したのは、顔サイズもある大きなお饅頭。一口食べれば、とても美味しいに違いない。

ポン太が饅頭に手を伸ばしかけた時、

『ポンちゃん、あちらの世界の食べ物を食べてはいけないよ。食べてしまったら、もう帰ってこられなくなってしまうから』

おばあちゃんの声が頭を過ぎった。

「……ありがとう、やっぱいいや」
「そう?じゃあもっと遊ぼう」

――

「ポン太、ずっとここにいたら?」
「でも、家に帰らないと」
「ここが家になるよ。ボクと一緒にいれば、
 毎日楽しいよ」

――そういえば、さっき気づいたのだが、
和音には影がない。

「……お母さんが待ってるから、ばいばい」

そう言うとポン太は勢いよく駆け出した。
後ろから和音の声がしたが、振り返らなかった。

どこを走っているのかわからないけれど、
ただ「帰りたい」という気持ちだけが
ポン太を突き動かしていた。

気がつくと、見慣れた街の路地に立っていた。

「あれ……」

振り返っても、先程まで走っていた狭い路地は
どこにもない。夢でも見ていたのだろうか。

ふと、ポケットに手を入れると、小さくて固いものに触れた。取り出してみると、それは赤いビー玉。
さっき、和音がくれたものだ。

「また遊ぼうね」と言いながら渡してくれた
いちご飴のような小さな贈り物。

ポン太はビー玉をぎゅっと握りしめた。
あの見知らぬ街も和音も本当にいたのだ。
もしかしたら、また会えるかもしれない。

夕焼けがポン太の影を長く伸ばしながら、
家路を辿る。その時、掌の中で赤いビー玉が
光ったような気がした。

お題「見知らぬ街」

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