KOTOHA

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12/7/2022, 1:42:39 PM

些細な口論で、どうにもできない苛立ちを抱えた私は、思わず外に飛び出した。
今日こそは私は悪くない。
理不尽な八つ当たりは勘弁だ。
ちゃんと完全防備で家を出るあたり、自分は冷静だなと思う。

近くの本屋で時間を潰して、遅くまでやってるお店で珈琲を飲んで気持ちを落ち着ける。
腹を立てて家を出たはずなのに、一人を満喫できるご褒美時間にもなっている事に戸惑いつつも、涙もでてこなくなったから家に帰ることにする。

帰ったら何か言ってくるだろうか。
ああ言おう、こう投げかけよう。
でも正直言えば寝ていてほしいな。
あれこれ思い巡らせながら帰宅したのに、当の本人はゲームをしながら
「おかえり」
何食わぬ顔。

一体何なんだ、あっという間に再び頭に血がのぼるのがわかる。
私がどれだけ傷ついたか。言ってはいけない台詞を口にしておいてよくもまぁ。
なかったことにしようとしているなんてありえないし、そこまで思ってないとかならその神経を疑う。
顔なんか見てやらない。口もきいてやらない。
何故私がそうするのか、ちゃんと理解したらいい。
言葉では伝えたから、後は態度で示すのみだ。

せっかく買ってきたポテトチップスは、こっそり粉々にして部屋の片隅に。
ごめんねポテチ。君に罪はないから、最悪の場合には料理に使うつもりだからね。


12/2/2022, 2:22:53 PM

返却されたテストの点数を見て、心が踊る。
そうそう、今回は手応えあったんだよね。
決して100点とかではないけれど、ここ最近の私にとっては久しぶりにものすごく良い点数だった。

なのに。

「今回の平均点は――点だ」

なんて先生が言うものだから、頭が真っ白になった。

…なんだ、頑張って勉強した成果が出たのだと思っていたら、皆にとっては当たり前の簡単な内容だったんだ。
そしてやっぱり私は平均点に届かない。
天国から地獄とはまさに。


昨年までは、むしろ“できる側”の人間だった。
それはずっと昔から。
やればやっただけ結果が出るのに、点数取れないっていうのが意味不明だった。
今年は…
“特学”と呼ばれるクラスになった。一目置かれるそのクラスは、有名大学に行くような子ばかり。
つまり授業の進度も難度も桁違いで。
私は一気に転落した。“できない側”の人間に。
クラスの人達との会話にもそもそも馴染めない。

皆にすごいと言われる高校に行って、すごいと言われるクラスに所属して。
一見華々しく見えるそれは、かつて自分が憧れたもの。
けれどそこにはもちろん順位があり、下の方になる人間がいるわけで。
そんなことを私は考えたこともなかった。
その立場になって初めてわかった、気付いた。
そうして見えたもの。

焦り
悔しさ
嫉妬
なりふり構わず頼ること
努力してもどうにもならないこともあること
そして最上位があるなら最下位が存在すること

湧き上がるドロドロした自分の気持ちに驚いたし、できる人達独特の人間関係はまるで別世界で、凄まじい疎外感も感じた。
そして彼らもまた、“できない側”の理解はなかった。そう、かつての私のように。そしてそれはそれで衝撃だった。

堪らなく辛い一年間だったけれど、今となっては良き思い出。
両方の立場から物事を見る、貴重な経験だったと思う。

だから私は、その両方を理解して夢を追いかけていきたい。

11/28/2022, 1:49:10 PM

今日は久しぶりの彼の部屋。
彼は煙草と株と時々仕事、そして携帯。私はかいがいしく押しかけ女房よろしくのいつものルーティン。
あんなに会いたいと思っていたのに、最近はいざ会うとなんだかモヤモヤする。
おしゃべりもあまり盛り上がらないし、私が作る料理にも反応は薄い。聞けば「美味しい」と言うし、結構な勢いで完食するからそういう事なんだろうけど。
 
“年季を重ねた夫婦みたい”と思うのか、
“マンネリや倦怠期”と思うのか。

夜が更けたら当たり前のように重ね合わせる身体は、こんなに近くに居るのにとても遠く感じる。
きっと私達はもう、長くはないのだと、直感はそう告げているけれど、私はそこに気付かないふりをしている。
二人が決裂するような決定打もなくて、“情”もあるから、彼は踏み切れないだけで。
彼に素敵な人が現れたらきっとジ・エンド。
ここから再び盛り返せる可能性はいかほど?

“終わらせない”
好きなのか、情なのか、愛なのか、ただ負けたくないのか、自分でもこの感情に名前をつけられないのだけれど、“手放したくない”事だけは事実で。
だからやれるだけのアプローチ全部やってみて、どうしても駄目だったら…


私からサヨナラするんだ。
一方的な敗北は嫌だ。


10/22/2022, 11:21:03 AM

「あー、こんな服もあったなぁ」
急に肌寒くなって、慌ててクローゼットを漁る。
鼻炎持ちには毎回地味に辛いこの作業、マスクに薬で完全ブロックしながら戦う。
「これはさすがに今年はもう着れないかな」
昨年しまう時には“まだいける!”と思っていても、久しぶりに出してみると結構傷んでいたり、トレンドから大きくはずれていたり。
急遽の買い足しも考えながらどんどん入れ替えていく。

そんな中ふと奥底に押しやられていた袋を見つけて取り出す。
「あ・・・」
淡いオレンジ色したモヘアニットのワンピース。
首元に華奢なビーズがあしらわれたそれは、
かつて「よく似合ってる」と言われてから、とびきりのお気に入りになっていたもの。

せっかくだから袖を通して鏡の前に立ってみると、
あれだけ似合っていると自分でも思っていた服装が、なんだかとてもちぐはぐに見えた。

そりゃそうか。
あの頃よりも年を取って、
気をつけてはいるけど体型も変わった、
髪型やメイクも当時とは違う。
そして何よりも・・・

「これはさすがにもう着れないかな」
そっとごみ行きの紙袋に入れる。

今年の衣替えは、鼻炎がたまらなく辛かった。

10/18/2022, 3:16:12 PM

急に冷え込んだ朝。
まだ衣替えが中途半端なクローゼットから慌てて羽織ものを出す。

玄関を出れば、少しひんやりした空気が頬をなでて。
それがまた気持ちを引き締めてくれるようで、背筋が伸びる。

ふと香るはオレンジ色した小花たち。
爽やかさの中でむせかえるような存在感を放ち、私の気持ちを拐っていく。

金木犀にまつわる思い出なんて無いはずなのに、切ない気持ちになるのはなぜなのか。
それでいてずっとその場に佇みたくなる、甘い誘惑。

かき乱された心のまま見上げれば、オレンジ色の向こうに澄んだ青空。そして薄くかかる優しい雲。

今日も一日が始まる。
夕方、金木犀が空に浮かぶといいな

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