「ずっとこの景色が見れたらよかったのにね」
君は涙を流した。
僕たちはこうなるまでにどれだけの時間がかかってしまったのだろう。
最初からこうだったらよかったのに、と君は言いたかったのだ。
僕は羽織の上から君を抱きしめた。
あたりは夜なのに明るい。この村で一番高いところに僕たちはいて、空に最も近づいていた。
「ここならお迎えの人たちもすぐにわかりそうだね」
君は微笑んだが、その頬には涙がついて離れなかった。
あの二人の間には入れない。何か強い結びつきのようなものを感じて、僕はその姿を見つめることしかできなかった。
尊敬する二人の先輩。両方とも好きだし、僕は大切にされてると思ってた。だからこそ、二人の関係は素直な気分で祝福した。その関係が始まってからも僕は無碍にされずにいる。
だから、その結びつきに入りたいと思うものの、それは野暮なことだと思った。後ろからついていくだけ、それだけで、幸せなのかもしれない。
あるとき、片方の先輩に訊かれた。
「ねえ、私に興味ない?」
「……」
「私、ほんとうはね」
二人は、僕の頭の中にある、美しいままでいて欲しい。
僕は二人に別れを告げた。
あの頃の二人は何があっても消えない。
次の停車駅は、地球。……地球。
繰り返されたアナウンスに僕は胸が高鳴ると同時に、新しく出来た仲間との別れを惜しんだ。
今回の旅も色々あった。
はじめての銀河鉄道。列車強盗に追いかけられるも、それは遊園地のアトラクションだった。悪いウイルスのようなものが、乗客の間で感染したけど、ボディソープが弱点だとわかってからは、怖いものは無くなった。
そして、敵の大将とのラスト・シューティングはなかなかに熱いものがあった。
さあ、ママの元に帰ろう。
この町では占いが流行っているようだ。私は通り過ぎようかと思ったが、遮るように立ち塞がる占い師の一人に捕まった。
暇潰しに今後の旅の無事を占ってもらう。
「あなたの横にいる子供は、すぐに離れなくてはいけません」
私はすぐに隣を見たが、他の店を見ているのか、子供の姿はなかった。
「なぜ?」と私は短く聞いた。
「異質なものです」
「どういう?」
私の問いに、占い師は顔を寄せて言った。
「その子は人の子ではありません」
「じゃあ、何の子なんだ?」
「それは私にもわかりません」
それ以降占い師は口を開こうとしない。私が貨幣を渡すと、占い師はこちらにきた勢いと打って変わって、そそくさと離れて行った。
夜、私が焚き火をする中、子供が帰ってきた。
無口な私も思わず声が出た。
「どこに行ってたんだ」
「これ買ってきた」
手には青い布を持っていた。彼はお金を持っていただろうか。欲しいといえば買ってあげたのに。
「何に使うんだい?」
私は昼間のことなどなかったかのように聞いた。しかし、子供はうつむき、布の切れ端を触った。答える気はなさそうだったが、やがて口を開いた。
「神様っていると思う?」
「……わからない」
旅の途中で出会ってきたことはこの子には言っていない。
すると、子供は青い布をひらひらとたなびかせた。
「前にこんな布を身に纏ってたんだ」
彼は大人びた笑みを浮かべる。
「こういう風に、さ」
子供は青い布を体に巻いて見せた。私は全く話さないのに、子供は悠々と話し続ける。
「守りたかった、あの時も。このマントに包んででも」
この子は何を守りたかったのだろう。そもそも何者なのだろう。
子供は向き直って、ぺこりとお辞儀をした。
「あなたはきっと会えるよ。素敵な神様に」
そうして彼は布を握りしめた。
「そのあと、また会いにきてね」
次の瞬間、子供はマントを翻すと消えた。
「現実から逃れてきたみなさま、ようこそ」
背の高い黒尽くめの男が、腰から頭を下げて真っ直ぐの黒い線になってしまった。
男は怪しい笑みをしたまま、その中へと私たちを案内した。
そこはテーマパークのようにいろいろなアトラクションがあるようだった。
遊園地に並ぶような、人々が思い浮かべるアトラクションージェットコースターやコーヒーカップが最初に並んでいた。
その先には、太陽光が差し込むビーチ、避暑地となるペンションのような建物があって、人々は浮世を忘れて楽しんでいた。
もっと先に進むと、石や木の彫刻を作る人々、絵を描く人々がいた。現実からでたら創作をしたくなる気持ちもわかる。
最後の場所には、机が置かれていた。何をする場所か分からず、前の人は引き返して行った。私も流れにのって引き返そうとしたが立ち止まった。
逡巡したが、やがて踵を返した。
私のために置かれた机に腰掛け、筆を取る。
現実から追い出され「なかった」としても、私はきっと物語を紡いでいくのだろう。
物語こそ、私が現実を生き抜いた証なのだから。