紫水

Open App
5/12/2023, 12:44:16 PM

ある雨の日、何故か落ち着かなくなり家を飛び出した。丁度梅雨で、足が濡れた草にあたり湿り、少し気持ち悪い感触がして、そろそろ帰ろうかと振り返る。
すると日本人の様な、でも違う様な顔をした可愛らしい女の子が道の真ん中にぽつんとたっていた。
一見幼く見えるが自分と同じ年齢にもみえる。
とても不思議な女の子だ。さっきの推測からするに話を聞くような事をしなくてもいいかと思い、軽い会釈を交わし、帰路につこうとするとぐいっと手を掴まれて引き戻された。外見とは異なる怪力で、あっと声が出る。すれ違いざまにふわりと獣の様な香りがした気がした。
そんなことを思考する間もなく、遠心力でふり飛ばされる。
濡れた道に尻もちをつき、女の子に対し嫌悪感を抱く。真っ直ぐな目をした女の子に手を差し伸べられ、一度は拒否したがまるでその行動の意味が分かっていないような顔をした。
二度目に差し伸べられた手をとり、起き上がった。

それからというものよくその子に会うようになった。最寄りのバス停、曲がり角至るところで会った。つけられているような、自ら会いに行っているような感覚さえした。それと同じ頃夢にもその女の子が出て来るようになり、流石に何か言ってやろうという気になった。
 
次の日いつも出てくるところにつき何を言ってやろうかと考えを巡らせる。
出てきた!口を開けようとした瞬間、人差し指を口に置き、喋らないよう牽制してきた。
まるでこちらの考えを分かっているかのような真っ直ぐとしたその姿勢に余り関わってはいけないと思い知った。

隣を歩いていた人が倒れ、ホログラムの様に消えた。目の前の女の子は消えていた。

5/12/2023, 9:49:50 AM

ある夏の暑い日、ふわふわと浮かぶ白い胞子を眺めながら私は呟く。以前の私ならば驚くであろう夏にすっかりと慣れてしまっている。
なぜだかは知らないが前の前のいつかの夏、突然冒頭でも紹介したような胞子が浮いているのを見つけた。完全に胞子と断定したわけではないが、その胞子が何処かに付着すると白い苔のようなものが生える。だか、特に害があるわけでも無い。
最初のうちこそ気にしたが今は慣れと共に気にしなくなっている。まぁ、私以外見えないようだし。

さて、少し昔の話をしようある人の話だ。その人は男とも女ともとれる一般的に言う、中性的な人間は私と同じくこの胞子が見えるそうだ。
特に根拠はないし、でも、それを初めて見た時の自分の反応とそっくりだったからだ。
自分を見て、その人は少し怯えたような目をした。
それもそうだ。数分前から座り込む男の前で仁王立ちで見下ろしているのだから。
その事に気づき急いで謝罪する。
するとその人は何かを言おうとし、口を閉じた。
文句でも言われるかと思ったので、間髪入れずに話し始める。
「ここに浮かんでるこれ、見えます?」
本当に突拍子もない事を言うが、絶対に見えていると思ったからこそやったのだ。普段の自分だったらそのまま立ち去って居ることだろう。その胞子を突いて見せる。
「あ、はい見えます、」
困惑しながら応えてくれた。
自分的には仲間が増えて嬉しいような気がする。
これっきりだろうが、何かあったら頼れるのだ。
自販機で水を買い手渡しながら軽胞子の話をする。
その人と私は思ったより趣味が合い、時々会うようになった。 

ある時は海へ、ある時は彼を連れ海外にだって行きそんな中自分は彼の事を大切に想う様になった。
そんな思いと裏腹に彼はやつれていき、
最初の内は少し疲れやすいとか、眠たいとかそんな感じだった。
日を増すごとにどんどんと顔色が悪くなり、遂には入院にまで、至った。
そんな彼が心配で心配で毎日足繁く病院にかよっては声を掛けた。
ここまでの間自分達はいや、自分は彼に想いを伝えたことが無く、退院したら言おうと心に決めている。
そんなことを考えていると携帯がなった。
急いで病院に駆け込む
最悪の事態だ。
病室に音をたて扉を開く。
絶対に言わなければ
触ったら崩れそうな体をした彼がベッドに横たわっている。
ギュッと手を強く握り締め、言えなかった。
この言葉を言う、「好きだ」
その瞬間部屋に鳴り響く電子音が一定になった。
こんな時になぜだかお腹が満たされたような気がした。
「愛を叫ぶ。」

2/2/2023, 1:39:40 PM

三月のある日、何も飾られていない教室の窓際に、
爽やかな青い花を飾った。
僕の席はその花瓶の近くで退屈な授業の中、ふと目をやった。
すると少しだが皆目を花瓶に向けてくれたような感じがして、うれしくなり、次の日はいつもより少し早めに来ることにした。
と言っても二、三人で、暇なやつが少し気づくくらいだと思う。その日もまた一本追加した。

それから次の日、朝練できていた人が数名いた。そこまで人は居なかったけど、5分ほど経つと誰もいなくなった。花瓶に目をやると昨日と変わらず二本入っていて、また一本追加した。
入って来た人は僕には一切の興味を示さず、友達を呼びに行った。その人を皮切りにどんどんと人が増えていき、あっという間に全員が集まった。
それから毎日一本追加していって、クラス全員が気づいている位にはなった。嬉しかった。

それから丁度一週間位経ったときに、その花が話しかけて来た。素直にびっくりしたが長い間話し相手が居なかったし、寂しかったのでゆっくり口を開きき、僕はこんにちはと言った。今は朝だし、あまりに的外れな発言だった。
それに対して花はクスクスと笑った。
そんな花の対応に悔しさも覚えたが反応を貰えた嬉しさの方が圧倒的だった。
ずっとここに居るのに、誰にも反応を貰えないという状態にずっと置かれていてこの会話に嬉しさを覚えない者は居ない。
その日は一日中話していた。その花も暇だったらしく付き合ってくれた。そして次の日もその次の日も話し続け、その間も勿論花を増やし続けた。
不思議な事に花の数が増えても声は増えなかったが
自分にとっては好都合で元々人が好きなタイプではなかった。それに加え、喋っていない期間が長すぎたので練習としては丁度いい。
その日からまた一週間後、この花の噂は隣のクラスにも伝わっていたようだった。それはとても嬉しく
花と一緒に、毎日噂話に、耳を澄ますようになった。

ある日、一日一本増えていく呪いの花として噂話になっていることを知った。
その噂の内容は、昔花瓶のある窓際の席に座っていた男の子が飛び降りて死んでしまった。
その男の子は、誰とも話さずいつもつまらなそうにしていた。いつも花の図鑑を読んでいた。
だから、花を一本ずつ増やして何かを伝えようとしている。
という話だ。
ねぇ、と花に話しかけた。
勿忘草の花言葉って知ってる?
花言葉は「忘れないで」

「勿忘草」


1/26/2023, 10:09:34 AM

前回の続きです。

ミッドナイトそんな言葉が相応しいくらいの夜中に私は歩いていた。
その日はいつもの仲間と集まり、帰る途中だった。
イベント中で雪が降っていて、とても寒かったのを覚えている。
帰ったら何をしよう。そんな他愛の無い事を考えつつ、歩いて居たら視界が真っ白になった。
何がなんだか分からなくなったが、妙に冷静になっている自分もいた。そしたら急に映像が映り、知っている気がする。そんな顔がこちらを覗き込んで何か喋りかけている様だ。何を言っているのかよくは分からなかったが変に懐かしかった。
気がつくといつもの天井が見えた。いつもの壁も。
さっきのは夢だったのか?夢というのが一般的だ。
でもどうにも腑に落ちない。
だが、一般的な考えによると夢らしいので一旦考えることを辞めた。
という思い出をまた夢でみるなんてなんとも可笑しい。苦笑しながらいつものベットではない、寝袋から起き上がった。
「ミッドナイト」

見てくれた人へ
見てくださった方、ありがとうございます。
シリーズにしようと思ってはいるので良ければみてください!

1/9/2023, 10:39:14 AM

前回の続きです。

そのまま歩いて行くと辺りは徐々に暗くなり、三日月が出てきた。そこは3日前と変わらない真っ白い道が永遠と続き、本当に進んでいるのか、分からなくなるほどだった。
後を振り返ると先程の店はごま粒のようになっていた。確かに進んでいるという確信を持てたので再度あの店に感謝した。
今日は此処で寝ることにしよう。
そう思い、重い荷物を下ろし缶詰を一つ取り出し温めて食べた。
食べながら三日月に関する記憶が蘇り、一仕事終わった後の三日月を見ながら食べる飯は美味しかったなと故郷か恋しくなった。
この研究が終わったら、また食べたい。
缶詰を食べ終わり、寝袋をしき寝転がると満天の星空。今夜は良く眠れそうだ。
「三日月」

Next