紫水

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三月のある日、何も飾られていない教室の窓際に、
爽やかな青い花を飾った。
僕の席はその花瓶の近くで退屈な授業の中、ふと目をやった。
すると少しだが皆目を花瓶に向けてくれたような感じがして、うれしくなり、次の日はいつもより少し早めに来ることにした。
と言っても二、三人で、暇なやつが少し気づくくらいだと思う。その日もまた一本追加した。

それから次の日、朝練できていた人が数名いた。そこまで人は居なかったけど、5分ほど経つと誰もいなくなった。花瓶に目をやると昨日と変わらず二本入っていて、また一本追加した。
入って来た人は僕には一切の興味を示さず、友達を呼びに行った。その人を皮切りにどんどんと人が増えていき、あっという間に全員が集まった。
それから毎日一本追加していって、クラス全員が気づいている位にはなった。嬉しかった。

それから丁度一週間位経ったときに、その花が話しかけて来た。素直にびっくりしたが長い間話し相手が居なかったし、寂しかったのでゆっくり口を開きき、僕はこんにちはと言った。今は朝だし、あまりに的外れな発言だった。
それに対して花はクスクスと笑った。
そんな花の対応に悔しさも覚えたが反応を貰えた嬉しさの方が圧倒的だった。
ずっとここに居るのに、誰にも反応を貰えないという状態にずっと置かれていてこの会話に嬉しさを覚えない者は居ない。
その日は一日中話していた。その花も暇だったらしく付き合ってくれた。そして次の日もその次の日も話し続け、その間も勿論花を増やし続けた。
不思議な事に花の数が増えても声は増えなかったが
自分にとっては好都合で元々人が好きなタイプではなかった。それに加え、喋っていない期間が長すぎたので練習としては丁度いい。
その日からまた一週間後、この花の噂は隣のクラスにも伝わっていたようだった。それはとても嬉しく
花と一緒に、毎日噂話に、耳を澄ますようになった。

ある日、一日一本増えていく呪いの花として噂話になっていることを知った。
その噂の内容は、昔花瓶のある窓際の席に座っていた男の子が飛び降りて死んでしまった。
その男の子は、誰とも話さずいつもつまらなそうにしていた。いつも花の図鑑を読んでいた。
だから、花を一本ずつ増やして何かを伝えようとしている。
という話だ。
ねぇ、と花に話しかけた。
勿忘草の花言葉って知ってる?
花言葉は「忘れないで」

「勿忘草」


2/2/2023, 1:39:40 PM