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12/5/2022, 10:21:25 AM

夢と現実

夢を見てる。
自分の脳内で完成された完璧な世界。

不安も孤独も恐怖も怒りも
心を脅かすものは何もない
楽園。

ああ、そうだったらどんなにいいか。

今日もまた目が覚める。
同じ日々を繰り返していく。

現実という圧倒的で混沌とした世界に、対面する恐怖。

理不尽で残酷で悲惨で暴力的な
『現実』の文字が心臓を貫く。

『強くなきゃ、この世界は生きていけませんよ』

淡々と感情のない声が心を抉る。

閉じた瞼の隙間から、雫が落ちた。

弱い私には生きていく自信がない。
それなら。
もうずっと眠ったまま
夢から目覚めたくないよ。

私なんか。

私なんか…。

無理だよ。

…それなのに、どうして起こそうとするの?

朝日が私を照らして
「おはよう」と誰かが私の身体を揺らして、
蹲る心を引っ張ってゆく。

お願い。もう目覚めさせないで。

『大丈夫だよ』

誰かの声が頭に響く。

こわいの。
怖くて怖くて堪らないの。

『それでも大丈夫』

嘘。根拠のない大丈夫なんかあてになんない。

『だよね。でもね、全部大丈夫になってるから』

そう言って笑った顔がとても優しくて慈愛に満ちていた。

『さあ、起きて』

貴方の声が私を連れ出したあの日から、
もう何度も季節を巡っている。

目覚めてからも、私は夢を見ている。

現実の壁に直面したとき
うまくいかないとき
悲しみに暮れるとき

それでも、もう覚めない夢は見ていない。

閉じこもった世界では見れない景色が
心あたたまる温もりが
小さな光を放った幸せが、
あちらこちらで私を見守っている。

『さあ、起きて』

今日もまた、新しい一日が始まる。

12/3/2022, 5:28:44 AM

光と闇の狭間で

光。
希望。救い。道標。
明るくてキラキラしてて、その世界は楽園のような穏やかさに包まれている。
でも、この世界は闇を許してはくれない。
正しさが正義を掲げ、光がその象徴のように。
私には光が強すぎる。

闇。
出口のみえない暗闇の中で、在る者の足をしっかり掴んで逃さない。
この世界はないもない。
もう落ちているから、これ以上落ちても同じこと。
希望も期待も救いもない、ある意味では優しい世界。

光に目を奪われて、闇に心を奪われる。

あるときは光へ、あるときは闇へ。

光と闇の狭間で心がゆれる。

12/2/2022, 6:50:11 AM

距離


憧れの太陽は随分と遠くに存在していた。

私はその空の下で眩しく目を細めている。

離れているこの距離が心地いい。

届かなくてもいいの。

近づいたら最後、私はその熱さに燃え尽きてしまう。

輝く太陽を、ただ遠くから見守っているだけでいい。

色のない世界を照らす光が眩しくて、私はそっと目を閉じる。

こんな世界でも、貴方の夢を見ているときだけが息を感じることができるから。

12/1/2022, 9:22:17 AM

泣かないで

また壁だ。

どうしてわたしだけ。

泣いて、泣いて、泣いて。

弱いわたしが耳元で囁く。

『そうそう、わたしはずっと可哀想な子さ。
この沼からは逃れられないよ』

できない
もういやだ
にげたい

つらい、つらい、つらい。

でも。
一番いやなのは
不満ばかり言って何もしない自分。
何もできない自分。

それでも。
わたしはもうあの頃には戻らない。

全てを自分のせいにして、自分を苦しめていたあの頃には。

弱くたって、情けなくたって、惨めだって、いいんだ。

泣かないでとはもう言わないで
泣いて、泣いて、泣いて。

それでも前を向いていけ、わたし。

11/30/2022, 11:20:54 AM

冬のはじまり

ふと、思い立ってベランダへ出た。
ストーブの温かい空気間から一変、外の冷たい風が身体に染みる。
はぁ、と口から息を出すと、白い蒸気になって夜の闇に溶けていった。
寒い。冷たい。もう冬なんだなぁと改めて感じる。

この間までぽかぽか陽気な日々だったのに、ほんの数日で気温が一気に下がったらしい。暑い暑いと唸っていた夏が遠い昔のように感じる。
いつの間にか季節が巡っている。
忙しなく働く社会に急かされて、気づいたら、もうこんなに経っていた、なんてよくある。もっとゆっくりいきたい。そんなに急いで一体どこに向かっているのか。

長めのため息を吐いて顔を上げた。町の繁華街から離れたこの場所は、辺りに明かりがないぶん、夜空の星々がよく見えた。
他のところより少し高台になっているのもある。
街の光はギラギラしていて眩しすぎる。みな主張が激しい。色とりどりのネオンやイルミネーションも綺麗だけど、人工的で冷たかった。
「私を見て!」と言わんばかりの光より、夜の空にひっそりと輝く星や月の方が好きだ。小さくても、見えなくても、確かにそこに存在している。自然はささやかな温かさで心を包んでくれる。
目の前のことに追われて急かされて、下ばかり見ていては美しいものは見えないから、空を眺める余裕くらいはいつも持っておきたい。

部屋に戻ると、ラックからコートを取り出した。
今年新調したベージュのロングコート。足元まですっぽりとカバーしてくれるから寒さ対策にもなる。
それに、SNSや街で見かける女の子たちの、華麗にコートの裾を靡かせて歩く姿が大人っぽくて可愛くて、あんな風になりたいと願ったものだったから。
少し背伸びしたロングコートの自分。まだコートに着せられてる感があるけど、きっとあの人たちみたいに着こなせるようになれる。鏡の自分にそう言い聞かせた。

夜の街は静かだ。
余計な音がない。夜も深まって人々は眠りにつき始めている中、出歩いていることに変な緊張を感じた。
夜だからって外に出ていけないなんてことはないけど、なんとなく、憚れるものがあった。夜中に出歩くのは危ないとか、変な人だも思われるとか、そういう類の話か。
長年言い聞かせられた言葉は心に染み付いて剥がれないものだけど、子どもの頃の話だ。今はもう自分で判断して行動できる。
思い込みの縛りから解放された夜の散歩が、もう日課になりつつあった。
風が吹く。冷たい夜風が頬を切りつかせた。
深く深呼吸をすると、冷えた空気が気管を通って肺に流れていった。
この冷たさが、心地いい。冬の匂い。
洗練された刃物みたいな風が体を切り裂いていく感覚にさえ、自然の温かさを感じる。風の冷たさはこの身を傷つけてたりはしない。
澄んだ空気は気高く透き通っていて、汚れのない綺麗な世界をこの目に映してくれるフィルターだ。
近年、濁りが混じりつつあるけれど、いつまでも綺麗なまま残していきたい。

ひとり、夜の街を歩く。
寒さは寂しさを感じさせる。冬は人恋しい季節だ。
でも、この孤独も悪くない。
誰にも干渉されることのない、自分だけの時間。
どんなおかしなことも、夢みがちなことも、ありえないことも、恥ずかしいことも、全部が許させる。
たとえば、こんな妄想話さえ。

白い息が宙に舞う。
まだまだ冬のはじまりに過ぎない。
寒さもこれから深まっていくんだろう。
それもいい。
暖かさだけが、心を癒すわけでもない。
この冷たさが、人を自然に帰らせてくれるんだ。

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