夢と現実
夢を見てる。
自分の脳内で完成された完璧な世界。
不安も孤独も恐怖も怒りも
心を脅かすものは何もない
楽園。
ああ、そうだったらどんなにいいか。
今日もまた目が覚める。
同じ日々を繰り返していく。
現実という圧倒的で混沌とした世界に、対面する恐怖。
理不尽で残酷で悲惨で暴力的な
『現実』の文字が心臓を貫く。
『強くなきゃ、この世界は生きていけませんよ』
淡々と感情のない声が心を抉る。
閉じた瞼の隙間から、雫が落ちた。
弱い私には生きていく自信がない。
それなら。
もうずっと眠ったまま
夢から目覚めたくないよ。
私なんか。
私なんか…。
無理だよ。
…それなのに、どうして起こそうとするの?
朝日が私を照らして
「おはよう」と誰かが私の身体を揺らして、
蹲る心を引っ張ってゆく。
お願い。もう目覚めさせないで。
『大丈夫だよ』
誰かの声が頭に響く。
こわいの。
怖くて怖くて堪らないの。
『それでも大丈夫』
嘘。根拠のない大丈夫なんかあてになんない。
『だよね。でもね、全部大丈夫になってるから』
そう言って笑った顔がとても優しくて慈愛に満ちていた。
『さあ、起きて』
貴方の声が私を連れ出したあの日から、
もう何度も季節を巡っている。
目覚めてからも、私は夢を見ている。
現実の壁に直面したとき
うまくいかないとき
悲しみに暮れるとき
それでも、もう覚めない夢は見ていない。
閉じこもった世界では見れない景色が
心あたたまる温もりが
小さな光を放った幸せが、
あちらこちらで私を見守っている。
『さあ、起きて』
今日もまた、新しい一日が始まる。
12/5/2022, 10:21:25 AM