恋って聞こえはいいけれど実際は苦しい。
もっと楽しくて、綺麗で、清純なものだと思っていた。
夢を見すぎだという意見も分からなくは無いけれど。
私の恋は綺麗とは言えそうにもない。
醜い嫉妬も汚いモヤモヤした感情も私の夢見ていた恋とは程遠い。
先生が可愛い女の子と楽しそうに話しているだけで、話の内容関係なくずるいと思ってしまうし、私は放課後はなせるもんね!なんて子供じみたマウントを心の中でこっそりとったり。
そんな私の態度に目ざとく気づく先生は決まって本を貸してくれる。
先生の私物を借りれる優越感でいっぱいの私はすぐ機嫌をなおしちゃうんだけど。
ちょうど今、ごめんねと少しの甘い言葉をくれた先生は三島由紀夫の愛の渇きという本を貸してくれた。
「三島由紀夫がね、嫉妬こそ生きる力だ、っていってたの。嫉妬こそ生きるエネルギーになるって、……でも、貴方がこの本の悦子のようになってしまうのは嫌だからね。俺は貴方だけをみているよ、だからそんな顔しないで、」
先生の言葉は時々難しい。
でも、先生がすっごく恥ずかしいことを言ってのけたってことはわかる。
嬉しいのに、こんなの誰にも言えない、どこにだってかけやしない。
この本を読んだら先生の言葉の意味がわかるのかな。
三島由紀夫の『愛の渇き』『盗賊』ぜひ読んで欲しいです
2024.1.7『どこにも書けないこと』
気温の上がり下がりが厳しくて体調を崩した。
毎日の日課だった先生との朝の登校も今日はお預け。
今日はおやすみしますね、なんて事務的な文面になってしまって関係のない絵文字を3つほどつけた。
直ぐに既読がついた安堵したからか酷く頭がぼーっとするようになった。
先生が寒い中待っている状況は防げそうだと。
そのまま返信もせずに寝てしまったのが悪かったのか。
目が覚めてスマホをみると信じられないほどの追いLINE。
途中で会話が止まって先生は心配してくれたみたい。
先生がこの数時間私事で頭を悩ませてくれたのだという事実が嬉しくて熱が上がりそうだ。
LINE…よりも電話のほうがいいかな。
「……もしもし、せんせ?」
「ぁ、え……た、体調大丈夫?倒れたりしてない?貴方、急にLINE来なくなるから、心配したじゃないの、!」
「先生の既読に安心しちゃって寝ちゃって…心配してくれたんですか?」
「当たり前じゃないの。家まで行こうか悩んだぐらいには貴方のこと心配してたのよ」
こんなこと言ったらきっと不謹慎だ。
先生にそう思って貰えるなら熱を出すのも悪くないかってちょっと、いやかなり思ってしまった。
「明日はこれそう?無理はダメだよ」
「……先生に早く会いたいです、」
「…俺も、早く貴方に会いたいよ。だから早く治して」
終わり際にそんなこと言うなんて狡い。
毎日先生への思いが募って苦しい。
私が先生のことを考えるように、先生も私のことを沢山考えてくれたらなぁ、と願った22時32分。
2024.1.5『溢れる気持ち』
キス、…接吻というと菊池寛を思い出してしまう俺はやはり文学少年すぎるのだろうか。
高校時代いくら教室の隅で勉強ばかりして本を読んでいたとしてもこの歳になって思い出す女性が一人もいないのは如何なものか。
「……キス、してくれないんですか?」
こんな状況になっても文豪に思いを馳せてしまうのだから俺はとうとうダメなのかもしれない。
身長差で必然的に上目遣いになる彼女の瞳がゆらゆらと不安定に揺らぐ。
頬に触れた指先からじんわりと熱が伝わる。
心臓がうるさいぐらいに音を立てて、たかがキスぐらいで……でも、俺にとってはされどキスなのだ。
「、……」
目をつぶったまま、そっと唇に触れた。
ただ肉をぶつけるだけの行為のはずなのにひどく胸が苦しい。
触れ合った唇からお互いの熱を慈しむように分け合う。
生徒も教師も関係ない恋人としての接吻。
この接吻が何かの誤りでなければいい。
俺は漠然と誰かに従うのも自由に生きられないのも嫌だ
勘違いされるのもするのも臆病な俺には向いていないから
2024.1.4『Kiss』
「今から大体1000年前に書かれたのが源氏物語、皆は知ってる?紫式部の書いた…」
月曜の5限。
ふぁ、とぽかぽかの日差しが差し込む中教科書を捲った。
いくら大好きな先生の授業だからといって絶対に寝ない保証などできない。不可能だ。
だって、先生の声睡眠に最適な心地いい声だし。
「眠そうだねぇ、じゃあ!11番!ここ答えて、」
くすりと笑った先生は声を張り上げてそういった。
11番、私じゃないみたい。てっきり指されるかと。
戸惑ったような声を上げたその11番の生徒は案の定答えることが出来ずにちょっぴり先生に怒られて。
こんな時間が永遠に続けばいいのに。
難しいことはよく分からないけれど、1000年先もこうして先生の授業を受けることが出来たらいいなぁ、なんて考えた昼下がり。
2024.1.3『1000年先も』
「俺は死んでも好きな人に忘れて欲しくないんだ」
我儘かな?なんてちょっぴり可笑しそうに言った先生だったけれど、瞳は本気の色をしていた。
これは嘘じゃない。稀にある先生の本心の話、だ。
私と先生とていつもこんな生き死にの話をしている訳では無い。
好きなお菓子とかハマっているドラマとか、日常のなんて事ないたわいのない話をしている時もある。
だけれど、先生は国語の先生であって、文学の影響もあるか他の大人より何倍も生きる事と死ぬ事を考えているような気がする。
これは私が勝手に思っていることであって、もしかすると先生がただのメンヘラな夢見がち少年を抜け出せずにいるという可能性も無くはない。
「死んでも?」
「人は2度死ぬというでしょう?物理的に死んだ時と人の記憶から忘れ去られた時。…でも、臆病なだけかもね、」
「そんなことないです、!素敵、だと思いますよ」
「、ありがとう」
出来ることなら、私が先生を永遠に覚えていたい。
私だけが先生を覚えていたいのに。
私の知らない先生を知っている人が他にいるなんて許せない。
先生のせいで私は最近やけにロマンチックになってしまった気がする。
先生を永遠に覚えていたら、先生の一番になれるのかな。
2024.2.2『勿忘草』