キス、…接吻というと菊池寛を思い出してしまう俺はやはり文学少年すぎるのだろうか。
高校時代いくら教室の隅で勉強ばかりして本を読んでいたとしてもこの歳になって思い出す女性が一人もいないのは如何なものか。
「……キス、してくれないんですか?」
こんな状況になっても文豪に思いを馳せてしまうのだから俺はとうとうダメなのかもしれない。
身長差で必然的に上目遣いになる彼女の瞳がゆらゆらと不安定に揺らぐ。
頬に触れた指先からじんわりと熱が伝わる。
心臓がうるさいぐらいに音を立てて、たかがキスぐらいで……でも、俺にとってはされどキスなのだ。
「、……」
目をつぶったまま、そっと唇に触れた。
ただ肉をぶつけるだけの行為のはずなのにひどく胸が苦しい。
触れ合った唇からお互いの熱を慈しむように分け合う。
生徒も教師も関係ない恋人としての接吻。
この接吻が何かの誤りでなければいい。
俺は漠然と誰かに従うのも自由に生きられないのも嫌だ
勘違いされるのもするのも臆病な俺には向いていないから
2024.1.4『Kiss』
2/4/2024, 2:33:06 PM