「今から大体1000年前に書かれたのが源氏物語、皆は知ってる?紫式部の書いた…」
月曜の5限。
ふぁ、とぽかぽかの日差しが差し込む中教科書を捲った。
いくら大好きな先生の授業だからといって絶対に寝ない保証などできない。不可能だ。
だって、先生の声睡眠に最適な心地いい声だし。
「眠そうだねぇ、じゃあ!11番!ここ答えて、」
くすりと笑った先生は声を張り上げてそういった。
11番、私じゃないみたい。てっきり指されるかと。
戸惑ったような声を上げたその11番の生徒は案の定答えることが出来ずにちょっぴり先生に怒られて。
こんな時間が永遠に続けばいいのに。
難しいことはよく分からないけれど、1000年先もこうして先生の授業を受けることが出来たらいいなぁ、なんて考えた昼下がり。
2024.1.3『1000年先も』
「俺は死んでも好きな人に忘れて欲しくないんだ」
我儘かな?なんてちょっぴり可笑しそうに言った先生だったけれど、瞳は本気の色をしていた。
これは嘘じゃない。稀にある先生の本心の話、だ。
私と先生とていつもこんな生き死にの話をしている訳では無い。
好きなお菓子とかハマっているドラマとか、日常のなんて事ないたわいのない話をしている時もある。
だけれど、先生は国語の先生であって、文学の影響もあるか他の大人より何倍も生きる事と死ぬ事を考えているような気がする。
これは私が勝手に思っていることであって、もしかすると先生がただのメンヘラな夢見がち少年を抜け出せずにいるという可能性も無くはない。
「死んでも?」
「人は2度死ぬというでしょう?物理的に死んだ時と人の記憶から忘れ去られた時。…でも、臆病なだけかもね、」
「そんなことないです、!素敵、だと思いますよ」
「、ありがとう」
出来ることなら、私が先生を永遠に覚えていたい。
私だけが先生を覚えていたいのに。
私の知らない先生を知っている人が他にいるなんて許せない。
先生のせいで私は最近やけにロマンチックになってしまった気がする。
先生を永遠に覚えていたら、先生の一番になれるのかな。
2024.2.2『勿忘草』
かの有名な夏目漱石は「I LOVE YOU」を月が綺麗ですね、と訳したことで有名だろう。
これについては様々な見解があって諸説はあるようだけど
単純に好き、と言葉にしない所が日本人らしい奥ゆかさを含んでいて美しい。
ベタではあるけれど、こんなふうに愛を囁かれてしまったら俺はコロッと、好きになってしまうかもしれない。
これについての返し、というのも色々あるらしい。
その中でもおれのお気に入りは「死んでもいいわ」だ。
まぁ、俺が二葉亭四迷贔屓ということを差し置いてもこの言葉にはほかの言葉には無い奥ゆかさがある。
これは、二葉亭四迷がロシア文学の片恋を訳した際に「ваша(=yours)」を「死んでもいいわ」と訳した事が由来らしい。
日本語の観点からみても、自分の命さえも惜しくないほど貴方を愛してるなんてやっぱりロマンチックだ。
いつか、俺もそんな風に思える女性に出会えますように。
あの子に教えたら先生重い!なんて言われちゃいそうだからこの話はしないけどね。
2024.1.29『I LOVE …』
今日は先生にお勧めして貰ってから好きになった作家さんの新作の発売日でショッピングモールの一角にある本屋さんにやってきた。
この日のために私がどれだけ頑張ったことか。
「あ!…あったぁ、!」
わたしの涙ぐましい努力を祝福するように新刊は私の手元へとやってきた。
先生も買ったりしてるかな?なんて考えてまたひとつ先生との共通の話題が増えたようで嬉しくなる。
そうとなれば明日の学校までに読まなくては。
るんるんで、スキップまでしちゃいそうになりながらなんとか家へと帰った。
スマホを開くと先生からメールが入っていた。
”今日新刊の発売日なのしってた?
貴方も買ってたら明日話せるなぁって思ってLINEを。”
先生からのメッセージに心が踊る。
この本を買った時に先生もわたしを思い浮かべてくれたんだろうか。
こうやって先生の日常に私が入り込めてしまったようで妙にソワソワした。
「…もちろん、買いました、っと」
その返信に明日感想をはなそうね、なんて書いてあって急いでその本を捲りはじめた。
早く明日になればいいのになぁ、なんてぼんやり考えた。
2024.1.28『街へ』
「貴方は優しいね、」
お昼一緒に食べたいと散々駄々をこねた後。
観念したような先生が貴方ならいいっか、なんて軽く微笑んで準備室まで並んで歩いた。
先生が、職員室に戻らず準備室でお昼を食べているのを知っていたから。
「別に優しくないです、…先生とこうしてお喋りしたかっただけですし、!」
「…前から思ってたけど貴方ってやっぱり変わってるのね。俺なんかと一緒でたのしい?」
大好きな先生をそんなふうに言われてしまうのはそれを言ったのが先生であってもちょっぴり悲しい。
先生は一緒にいるだけで私の世界に色をつけてくれる人
先生以上の人なんて探したって見つかりっこない。
「先生のおかげで毎日しあわせです。…だから、そんなふうにいわないでください、っ」
「あ〜もう分かったってば。あなたのその顔俺、結構弱いから」
自分がどんな顔をしてるかなんて想像できない。
でも、多分先生のことがさぞかし好きだ、って恥ずかしい顔、してるんだろう。
私の気持ちをするりとかわすのも一種の優しさかもしれない。
2024.1.27『優しさ』