生徒が一足先に冬休みを満喫してるであろうが、教員はそうはいかない。
だって生徒と違って大人だし。社会人。労働者。
あぁ、大人ってとってもとっても嫌な響き。
なりたくも無いのに勝手に大人のバッチをつけられちゃうんだから。
出来ることなら、もう一度あの教室の隅で勉強ばかりしていたつまらない学生時代に戻りたい。
あの頃は俺のいた学校でも、やけに手編みの手ぶくろなんかが流行っていた。
もちろん俺が貰ったわけではなく、爆モテな友人が奇妙なほどたくさん持っていたから俺も見たことがあったまで。
あの頃は手編みの手ぶくろに魅力を感じたことなど無かったが、大人になるとどうだ。
ちょっとそのチープな学生ぽさが変に魅力的だ。
それに手作りって所が萌える。
昔から重い所があるのは自覚してるつもりだが、その手編みという所に妙にグッときてしまった。
時間と労力をかけて作ったもの、その人を思って作ったなら尚更愛の結晶のようでいい。
そこまで考えてやっぱりキモイな、と自己解決。
「手編みって……もう高校生じゃあるまいし、」
はは、っと笑い飛ばした後にちょっぴり考えて、あの子と俺が同級生だったらどんなに良かったか、叶いもしないことを本気で密かに願った。
2023.12.27『手ぶくろ』
「変わらないものは無いってよく言うけどさ、俺はあると思うんだよね。変わらないもの、」
どこかぼんやりした様子で口にした先生の言葉をふと思い出した。
丁度先生に貸してもらっていた近代文学の本を読んでいたせいだろうか。
そうだったらちょっと嬉しい。
私の生活の一部に先生が入り込んでいることが。
「変わらないもの、…」
先生はああ言っていたけどどうだろう。
あ、でもわたしがにんじんを食べられない事は世界がひっくり返っても変わらなそう。
あと先生を好いている気持ち、とか。
「……意外とあるもんだ。世界は案外ロマンチックじゃないなぁ、」
だから言ったじゃないの、と先生の国宝級のドヤ顔が目に浮かんだ。
先生のドヤ顔はやっぱり可愛いけど、会えないと思うとこんな想像ばかりして余計に会いたくなる。
会えない日まで私の心を甘く蝕んできゅーっと苦しくなる。
はやく逢いたい、それも私の一方通行な想いだけど。
少しは先生だって寂しく思ってくれてるといいな、なんて甘い妄想をしながら布団に包まる。
もし、世界がひっくり返って私が他のどんなことを忘れてしまっても、先生を好きな気持ちだけは覚えていたいと頭の片隅でぼんやりと考えた。
2023.12.26『変わらないものはない』
彼女と過ごしたと言ってしまったら語弊が生まれてしまうだろうか。
一緒にケーキを買いに行って準備室でそれはそれは楽しく食べて過ごしたクリスマスイブ。
そんな前日とうって変わってクリスマス当日は当然のように仕事に追われていた。
いくらやっても減らない資料の山に小さくため息をつく。
本当にこれ今年中におわるのかな。無理じゃない?
「んふ、お前大変そうだね珍しく、」
頭の中でグルグルとネガティブなことばかり考えて居たら目の前に紙パックのミルクティーがふってきた。
正確には嫌味とともにだが。(彼はこういう言い方でしか励ませないのを知っているから特段気にもしないが)
「びっくりした……貴方っていつも突然よね」
「俺が突然なんじゃなくてお前がいつもボーッとしてるの。それで?なんでそんなに溜め込んでたのさ、珍しいじゃん」
相変わらずの暴論だ。
いつも俺に無関心な顔をしてるのに急に話しかけて来るんだから、貴方って俺の心臓に悪い。
でもその自分本位な言い方の中に心配という気持ちが含まれている事も俺は知っている。
伊達にこの人のケツを追いかけてない。
「……たまたまだよ。俺だってそういう時ぐらいあるし」
「嘘つけ、何年お前と一緒にいると思ってんの?…まぁ、言いたくないなら別にいいけどさぁ、俺はこれでもお前のこと心配してんの…分かってる?」
「うん…、ありがとう…」
ずっと尊敬していた人にいざ言葉にされるとなんだが気恥ずかしくて目が合わせられない。
恋を知ったばかりの生娘じゃあるまいし。
「じゃあさ今日、飲みに行こうよ。可愛い後輩の話聞きたいなぁ、ねえいいでしょ?」
「…ぁ、はい。もちろん……」
「へへ、やったね!じゃ、それ早く終わらせるんだぞ」
用は済んだのかぴゅーっと風の速さで自分の席に戻ってしまった。
距離を測りかねていた憧れの先輩。
一緒に酒を飲み交わす約束をする日が来るなどあの日の俺は想像もしなかっただろうなぁ。
ひとまず、クリスマス1人の寂しい成人男性の図は回避された事だし山のような資料をどうにかしよう。
積もる話は沢山あるわけだから。
2023.12.25『クリスマスの過ごし方』
「先生はサンタさん信じてますか?」
銀行に行くなどと適当な言い訳で学校を抜け出した際に買ってきた小さいケーキを美味しそうに食べながらそんなことを言った貴方。
純白の真っ白のケーキは貴方みたいで俺には少し眩しい。
だが、最初の言葉は聞き捨てならない。
もしかして俺、サンタを信じて夜な夜な夜更かししてる子供と間違われてる?
俺もう結構いい歳なんだけど。貴方絶対分かってない。
どっちかと言うとその言葉は俺の言葉だろうに。
「んー、小さい頃は信じてたよ。どんな顔してるのか一目見てみたくて朝まで起きたことがあったぐらいだしね」
結局朝まで起きたのにサンタを目撃することは叶わなかったけれど。
その後拗ねてふて寝していたら枕元にプレゼントがあったっけ。懐かしいなあ。
「ふふ、先生可愛いですね」
そういって笑う彼女の顔が妹の顔に重なって酷く懐かしい気分になる。
よくクリスマスソングを英語で歌ってみたいの!って泣きつかれたっけ。
英会話を習っていた俺は渋々妹に付き合ってよく歌ってあげたものだ。
「……There is just one thing l need…、」
「、need…?」
「ほら、All l want christmas is youってしらない?定番のクリスマスソングだよ。プレゼントは貴方がいい、って結構ロマンチックじゃない?」
「聞いたことあります!へぇ〜そういう意味なんですね。それに先生すっごい好きそう、」
ふふっと笑った彼女をジトリと見つめれば、バカにしてないですからね!?なんて焦ったように付け足してた。
別にそんなつもりじゃなかったけど貴方が楽しそうだからなんでもいいか。
「サンタさんくるかなぁ、」
「はい!きっと来ますよ。先生とってもいい子ですから」
はにかむ彼女を見ていたら、布団にくるまって聖なる夜を待ち望んで眠りにつくのが楽しみになった。
サンタさん、クリスマスに多くは望まないから。
俺が欲しいものはたった一つ……
2023.12.24『イブの夜』
「先生っ!めりーくりすますです!」
両手に大荷物を抱えた私を見た先生は驚いたように目をギョッと大きくしたあと、直ぐに重いでしょって特段と重かったバックを持ってくれた。
そういう気遣いができる大人なところがすきだ、とまた好きなところが増えてしまう。
あぁ、先生ってば罪な人。
そんな仕草で私の心を無意識にも乱して堪らなくさせる。
「……Merry Xmas。貴方にプレゼント、」
突然そういった先生は私の前に小さい箱を見せてくれた。
ベロアの生地でできた箱は指輪なんか入ってそうなやつで、先生にプロポーズされる女性は羨ましいなぁなんて頭の片隅でぼんやり考えていた。
やけに冷静になってしまうほどこの状況が信じられない。
「あ、え……私に、…?」
「うん、女の子はこういうの好きかなって。あぁ、でも気に入らなかったら全然……ぇ、泣いてる!?」
ポロポロなんて可愛い表現で足りないほど涙が溢れて止まらない。
だって、だって先生が私のために時間とお金をかけてくれたのがうれしくて。
こんな素敵なプレゼントしてくれるってことは少なくとも嫌われてはないってことでいいのかな。
先生にこんなにも大事にされて自惚れてしまいそう。
「だ、だって…嬉しくて…っ、先生ありがとう…。家宝にする……。」
「もう、やっぱり大袈裟なんだから。」
くすっと笑った先生は私の手からネックレスをとって、後ろへ回った。
先生の手の中で黒が揺れる。
「つけてあげる。きっと貴方によく似合うよ」
先生の柔らかい指先に髪の毛をすくわれる。
細い腕が首にまわって胸元に落ちた黒が陽の光をうけて眩く光る。
「ほら、やっぱり似合う。綺麗、」
「ありがとう、…ございます……。」
ニコニコとそれは嬉しそうに笑う先生が可愛くて好きが溢れてしまいそうでぎゅっと口を噤む。
いま口を開いたら余計なことまで口走ってしまいそうだったから。
「その宝石には厄除けの効果があるからきっといい方向に導いてくれるはずだよ。」
お願いね、と私の胸元の黒に小声で話す先生に言葉に言い表せないほどの愛しさが込み上げた。
ばくばくと心臓が嫌な音を立ててこの空間が落ち着かない
どうしよう、この人のことがどうしようも無いぐらい好きだ。
「じゃあ、貴方も来たことだしケーキでも買いにいく?」
「…はいっ!私ショートケーキがいいです!」
純白の生クリームは苦手だけど、醜い私の気持ちを隠す白いクリームが今無性に食べたい。
汚い想いを隠して先生の隣に並ぶ私を許して先生、
2023.12.23『プレゼント』