星月夜

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9/6/2024, 3:00:05 AM

ザザーン…
潮風が力強く耳元を撫で、日差しが痛いほど突き刺さる昼下がり。
真っ白なワンピースに身を包んだ僕の天使は、先程から砂浜を眺めたり、海水に足をそっとつけてみたり、押し寄せる波から逃げたりと小さな子供のようにはしゃいでいる。
僕は一緒にはしゃげるような無邪気さは持ち合わせていなかったから、彼女の背中を追いかけながら彼女の姿を目で追っているだけで楽しかった。
刹那、彼女がこちらをクルッと振り返る。
小走りに駆け寄ってきた彼女から、そっと手のひらに何かを押し付けられた。
それは彼女のように真っ白で、可愛らしい見た目をした小さな貝殻だった。

5/6/2024, 11:02:16 PM

いつも通り講義を受けて、前の講義の復習を終わらせて学食に向かい日替わり定食を頼む。
陽のあまり当たらない隅のテーブルにコト、と日替わり定食を置き、座る。
まだほのかに温かいフライをサクッと齧った時。
「ねぇ、もしも明日世界が終わるとしたらどうする?何したい?」
目の前からそんな声が降ってきた。
まさか自分が声をかけられているとは思わず、味噌汁に手を伸ばしズズっと啜った時。
「ねぇ!聞いてます?」
いきなり顔を覗き込まれて、思わず味噌汁を吹き出しそうになった。
だって、いきなり初対面の相手からそんな話題を振られるなんて思わないでしょう?
「僕に何か…?」
誰かと話すこと自体苦手なのに、どうしていきなりそんな訳の分からない質問をぶつけてくるんだと苛立ちを滲ませながらそう尋ねた。
自分でもすごい感じの悪い嫌な奴だと思う。
しかしキミはそんなことを気にするようなそぶりも無くにぃっと笑うと
「だって、気になるんだもん!」
と瞳をキラキラ輝かせた子どものような笑顔を見せた。
あぁ、愛おしいな…。
恋とはするものじゃなく落ちるものだと聞いたことがあるけれど、本当にその通りだと思った。
あの日、あの笑顔を見た瞬間に、僕はキミを守りたいと心からそう思ったのだから。

結局、キミの痛みを僕は受け止めて支えてあげることは出来なかった。
キミを守ることさえ、出来なかったけれど。
あの日の問いに、今なら答えることができる。
「明日世界が終わるとしたらどうする?何をしたい?」
ただ、その時が来るまでずっとキミのそばにいさせて欲しいと。

3/19/2024, 2:19:41 PM

朝起きて学校に向かう。
靴箱に向かうと、上履きを取り出す後ろ姿が見えた。
声を掛けようか迷いながら、そっと自分の上履きを取り履き替える。
不意にポンっと肩を叩かれて振り返ると、朝日に負けないくらいの眩しい笑顔があった。
「おはよっ!」
たった三文字の会話なのに、胸が高鳴るのはどうしてだろうか?

3/16/2024, 3:15:14 PM

「おにいちゃぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁぁぁん!」
幼いころ、近所の先輩たちにからかわれよく泣いて帰っていた。
真っ先に走っていくのは、5つ離れた近所の流唯さんのところ。
「よし!にぃにが守ってあげるからな!」
そう言っていつも先輩たちと喧嘩しに行っては、ぼろぼろになりながら帰って来ていた。
両親に叱られた時も優しく慰めてくれたし、忘れ物をすれば自分の分を貸してくれていつも怒られていた。どこに行くにも着いて来てくれて、私の代わりに怒って怒られてくれて、だいすきだった。
そんな彼が星になってしまったことを電話で聞いた。

3/1/2024, 7:05:43 PM

「お疲れ様です。先週頼まれてた資料、ここ置いときますね!」
軽く茶色がかったふわふわの天然パーマが近づいてきて、カサリと音を立てて紙の束を置くとまた遠ざかっていった。
本当はもう少し気の利いた返事を返すのが正解なのだろうが、この口はいつも気持ちとは正反対のことを言う。
「ああ。」
ありがとうさえも言うことができた試しはない。
もっと、君と話がしたいのに。

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