君に会いたくて
朧気ではあるが、ずっと脳裏に焼きついている記憶がある。
幼い自分が夕方の公園でブランコを漕いでいる。
遠くから白い麦わら帽子が近づいてくる。
肩まで伸びたふわふわの髪の毛をなびかせながら少々が駆け寄ってきて、手を差し出しおかえりなさい!と言う。
少女の顔は光が反射してうまく見えない。
仲直りのみかん
「真奈?宿題やったの?もう年明けちゃうわよ?」
こたつに入りながら最近買ったばかりのゲームで遊んでいると、母親がそう尋ねてきた。
「うん…終わらせるからー!」
ゲームをしながらとりあえず答える
「またそれ!それで去年もみんな集まってる時にほとんど宿題しかしてなかったじゃない!少しは学習し…」
また始まった、そんなことを考えながらイヤホンを耳にはめる。
あと少しでレベル上がりそう…。
肩をポンポンとたたかれる。
「しつこいし!分かったってば…」
イヤホンを外し、キッと睨みながら振り返ると従兄弟であり、私の初恋の人、涼くんが立っていた。
「ご、ごめんなさい!またお母さんかと思って…」
すぐに謝ったけれど
「ごめんね、邪魔しちゃったね。」
そう言って涼くんは部屋を出て行ってしまった。
どうしたらいいのか分からず、嫌われてしまったかもと涙が溢れてきて机に伏せていると幼い頃の光景がふと思い浮かんだ。
「もうりょうくんなんてきらい!」
そう叫び、泣きながら母親のもとへと走る。
もしかしたら好きな子ほどいじめたくなるってやつだったかもしれないけれど、私も幼かったからそんなことは分からず、会うたびに意地悪してくる涼くんがかっこいいとは思っていたけれどあまり好きではなかった。
母親の胸にしがみつきわんわん泣きじゃくっていると、涼くんが後ろに何かを隠しながら現れて私の手に何かを握らせた。
びっくりしてしゃくり上げながら見てみるとこたつの上にあったみかんと、くしゃくしゃの紙にさっきはごめんね、みかんいっこぶんだけおはなししようと書かれた紙を握っていた。
その後、涼くんがみかんを剥いてくれて2人で食べて仲直りをした。
この一件がきっかけで涼くんと仲直りする時はみかんがお決まりになった。
涼くんが大学院へと進学し、一人暮らしを始めたためなかなか会えなかったが、覚えているだろうか?
涙を拭い、こたつの上のみかんを手に取ると、私は彼の肩に手をかけ、伝えたのだった。
「さっきはごめんなさい、みかん一個分だけ付き合って」と。
―あとがき―
初めまして!星月夜と申します。
作中に登場した名前は架空のものです。
ご了承くださいませ。
今回は作者の子供時代の出来事をもとにアレンジをしながら書いてみました!
ここまで読んでいただきありがとうございました!
またご縁がありましたら読みにいらしてくださいね!
手袋の思い出
幼い頃、雪がちらちらと舞いだすと母親がいつも私のお気に入りの手袋をそっとはめてくれた。
雪にはしゃぎ駆け回る私が、手をついてしもやけにならないように。
昔に思いを馳せ外を見やる。
窓の外には、あの頃の私のように雪にはしゃぎ駆け回るふわふわの手袋をした幼い女の子と、微笑ましそうに寒い手を擦り合わせながら見守る母親の姿が見えた。
「おとうさん!わたしもゆきあそびしたい!」
幼い娘に服の袖を引かれ、振り返る。
「寒いからしっかり温かくしなきゃな?」
私ももう、はめてあげる側になったようだ。
目をキラキラと輝かせながらあれしたいこれもしたいと興奮気味に語る娘を落ち着かせながら、小さな手袋をはめてやる。
手袋をはめてもらい、マフラーをくるりと巻いてもらって「あったかい!」と喜ぶ娘はより一層愛おしく、これからも守っていこうと強く心に刻んだ。
あの日の母親も同じような気持ちだったのかもしれない。
母に思いを馳せながら、私は娘の小さな手を握り、玄関を後にした。