若干官能注意。凍結だけは勘弁してください。
871文字
「映らぬ彼女」
目と鼻の先の距離のオマエは赤子のように頬を紅潮させ、目尻から宝石のような涙を流し、赤く熟れた唇の隙間からは消化液が砂糖水に感じるほどの甘く煮詰めた透明な液体が唇と顎の輪郭をなぞりながら首下に流れてゆく。空いた口からは止まることなく発情した猫のようににゃんにゃんと甲高い鳴き声が僕の脳を刺激する。
婀娜なオマエを見れば見るほどに消耗しない僕の中の劣情が熱を増す。
それに気づくオマエは僕を見つめる。そんなオマエの瞳には僕が映るけど、僕の瞳にはちゃんとオマエが映っているのだろうか。
「そっかぁ、じゃあそろそろお開きだね」
「会計は僕が持つから安心しろ」
「いつもありがとぅ~。すきだよぉ。」
「僕もだよ」
ピーロートークも程々に、愛情あふれる彼女の瞳を逃しはしない。こうして僕のことを心から愛してくれて、信頼してくれる目が堪らなく好きだ。
宵の内に解散するように提案したのは彼女。理由なんてどうでも良くて、浮気していても、僕のことをどうしようもなく信頼と愛情の眼差しをむけてくれるから満足だ。
さぁ、僕も、家族の待つ家に帰ろう。
彼女のいる部屋の扉を閉めたら鞄から銀色のリングを薬指に嵌め込みその場を後にする。
「おかえりなさい。今日もお疲れ様」
「ただいまぁ、疲れたよ。」
笑顔で迎えてくれるオマエが居る。
「ご飯とお風呂、どっちも準備できてるよ」
「ありがとう」
また彼女は頬をりんごのように染め上げる
「最後は私も頂いてね」
愛の籠った眼差しと期待と欲情した目に射止められる。
「いいデザートだ」
腰に手を回していやらしく撫でれば喜ぶように体が反応した。
彼女達の信頼と愛の籠った純粋な眼に背中がゾクゾクする。こんなにも愛してやまない想い人は嘘を重ねて、そいつ自身には微塵も愛なんてないのに。
それでも知らないところで裏切っているという概念が、真実を知った瞬間に輝く瞳が一気に真っ黒に染まる。そうなるかもしれないというスリルが堪らなく愛おしい。
僕はスリルというモノに恋をして愛してる。
お題
スリル
駄文で申し訳ないです。
「冷めた熱に焦がれて」 1275文字
青く暑い夏は秋の物涼しげな微風に微々としてだが、去り行き、紅く染まり、淡く薄くなりゆく植物のほのかな青の匂いが涼しい秋の微風と共に街中に流れていく。
まだコートやマフラー、手袋の防寒着は必要そうにはないが、これからどんどん寒くなる事を見越せばそろそろ衣替えの準備を進める時期。
今年の青かったあの夏は、九月になっても中々去ることをせず、夏が滞住しているのか秋がサボっているのか、いやはや。ようやく秋を感じ始めた頃には9月終旬という時がすぎた。
青くて、暑い、あの夏は私にとっては飛んだ邪魔者で、夏が始まってクラスの皆が浮かれ立っている中私1人がきっと早く早く夏の過ぎ去れと願っていた。熱くて、鬱陶しい服のベタつきも、髪の毛の乱れも、汗と制汗剤などの香料でとんでもない臭いの更衣室。青く眩しく映る窓から見たグラウンドと空。夏休みの予定を立てる民衆たち。どれも彼もが鬱陶しくて煩わしかった。
青く輝き暑い空と同じくらい周りの人間も青くて、私はどうしようもなく気に食わなかった。
なるべく涼しいところ、夏をあまり感じさせない室内に篭って時を越し、秋の涼しさをまっていた。
そんな事を日も忘れる様に過ごしていればあっという間に夏はすぎゆくもの。待ち望んだ秋がどんなに遅くても早くても、必ずきてくれればそれでよかった。
涼しい風と紅く染まりつつある景色、ふんわりと揺れる髪、過ごしやすい天気、秋を知らせる合図が鳴った。
待ち望んだ秋。
のはずなのに、何故だか秋の涼しい微風と同じ様に私の心も冷たくなっていた。
秋を待ち望んで、夏を忌々しく思っていた私が、
夏に焦がれている。思わず口から出た「なんで」の言葉が風によって流され、冷たい風が頭を冷静にさせる。紅く染まった並木通りを歩きながら考える。そのゆく先は足に任せて考えれば段々と明白になっていく記憶。
全部気づいた頃には夏の間お世話になった図書館の前に辿り着いていた。
あの図書館で偶々出会った男子高校生。夏の間だけ、私といてくれた男の子。勉強を教えて貰ったり、教えたり、自分の学校の事や漫画や本のくだらない事を話した思い出。忘れちゃうくらい小さな事で繋がって、あの一カ月間だけ仲良くなった。どうせもう関わらないと思っていたからこそ、名前も下の名前しか知らなくて、どこの学校かも、何歳かも、連絡先も、何にも知らないあの男の子。
あの人と過ごしている間、確かに楽しかった。でも、夏限定だと決めていた私はあの人との心の繋がりを断ち切ってしまった。
そんな夏が過ぎ去り秋になった今、秋の寂しさが私の心を満たしていく。
あんなにも煩わしかった夏の青さが、熱が、私もあの時、確かに感じていた。
それに気づいたのは今さっきで、あの男の子と好きだった秋を共にしたかったという思いは後の祭り。
初めて感じた青さと熱に、秋の冷めた空気の中、私は焦がれていく。
青くて暑い過ぎた日々を想う。
薄手一枚では足りないくらいに寒い。
🔚
「過ぎた日を想う」
きっとまたその男の子とは会えるかもしれないけど、自分から夏限定と切っておいて、また繋がろうなんてことはできない。そんな事を思う女の子のお話。
1727文字
寝ている脳がいきなり覚めた。変な胸騒ぎがした。
変に胸の奥がザワザワと騒ぎ立てる。
本当ならこのままもう一度寝に入るのに、体は勝手に上半身を叩き起こした。
今の今まで寝ていた頭は思く、ずっしりと感じる。
小さい頃から真っ暗では寝れず、常夜灯でしか寝れない自分は大人になった今もこの温かみを帯びるオレンジ色の落ち着いた空間の下眠る。
そう言えば彼女は真っ暗で寝るから、自分とは一緒に寝れないって言ってた。
部屋を見渡せばいつもと変わらない殺風景な空間。一つ言えるとすれば部屋の隅の棚の上に、オレンジ色の毛並みがふわふわしたテディベアのぬいぐるみがかざられている。負けず嫌いな彼女が一生懸命クレーンゲームで取ってくれた。僕は大きすぎる、とか、僕の部屋には合わないからって言って断ったのに頑なに僕にあげると譲らなかった。最終的には『あたしが一生懸命〇〇の為に取ったのに…』なんて拗ねた顔で言うもんで、僕がこの顔に弱いってこと知っててやってきたからやっぱり負けて仕方なく貰った。
でも、ぬいぐるみが好きなのは彼女で、僕の部屋よりも大きな寝室で、僕よりも大きなベッドいっぱいにぬいぐるみを詰めてる彼女。しかもあの時目を輝かせてるから取ってあげようか?なんて言ったらより大きな目をキラキラと輝かせてたくせに、彼女は優しいからハッとした顔をして別に欲しく無いよ。なんて意味のない嘘をついた。本当は欲しいくせに意地を張る彼女が可愛くて、じゃあ僕のために取ってよ。って言ったら『うん!』と花の咲く様な笑顔でゲームをプレイし続けた。苦戦し続けていたが負けず嫌いな彼女の性分、奮闘し続ければいつかは取れるもので、取れた時はぬいぐるみを抱いて『あげる!』って言われて嬉しかった。けど欲しいのは君でしょなんて言えば図星を突かれた様な顔をしたけど頑なに彼女の主張は譲らなかった。
僕はその大きなぬいぐるみを抱く君の笑顔を見たかったけど、その自慢げな表情もいいかも。って思ったのは内緒。
思い出に浸っていればザワザワとした胸騒ぎも落ち着いてきて、もう一度寝ようかとした時、「ピンポーン」と夜に合わない軽快な音が聞こえた。
こんな時間に…って思ったけどもしかしてなんて言う淡い期待を抱いて。
カメラなんて見ずにすぐさまぼーっとしていた頭を起こして座り込んだ体を立ち上がりベッドから離して早足で玄関に向かった。
ドキドキしながら玄関の扉を開ければ、君がいた。
突然の君の訪問。
何だろうと心配の気持ちと、嬉しい気持ち。
君は俯いて顔が見えない。服は可愛いパジャマのままで、何かあったのかと心配になる。
優しくどうしたの?と問い掛けても反応はない。その分もっと深く頭を下げてしまった。
困ったなと思いつつももう一度どうしたの、?と問い掛けようと、どうし、まで言った辺りで急に彼女が抱きついてきた。
僕はもっと困惑。彼女は僕の胸に頭をぐりぐりと押し付ける。可愛いけど心配で、優しく包み込む様に彼女の頭と背中を撫でる。そうすれば彼女の体が微かに動き、泣いているのだと察する。
彼女が泣いている時に独りにさせなくてよかったと言う思いと、どうしたのか心配のおもい。暫く撫でていると彼女が急に顔を上げた。その顔は泣き腫らした目に、不安と申し訳ないと言う顔。そして彼女は言った。『一緒に寝よう。』と。驚きながらも彼女のために何でもしてあげたい。その抱えている苦しみから解放してあげたい。だから『いいよ。』と彼女の耳に優しく囁いた。
そのまま彼女の靴を脱がして抱き上げて僕の寝室に向かう。
ついたら彼女を先に寝転がらせて布団をかける。そしてその隣に僕が入り、まだ寂しそうな顔をする彼女を抱き寄せる。すると安心したのか緩い顔つきになった。
『どうしたの。』
『別に』
『僕は常夜灯でしか寝れないよ。』
『別にいい。』
『僕のベッド狭いよ』
『〇〇を抱き枕にするから気にならない』
『僕の部屋、殺風景だよ。』
『…〇〇が居るから寂しくない。』
いつもそんなこと言わない彼女が、甘い言葉を呟いて、甘い寝顔で微笑んだ。
僕の部屋は彼女には合わないけど、でも、君が大好きな僕だから。
🔚
『寂しい夜は大好きな貴方に囲まれて』
なにもかもうまくいかない
そんな時もあると思う。
そんな時はお家の自室の部屋のベッドに転がり毛布に包まって寝るのに限る。
うまくいかないことが続く。
そんな時もあると思う。
そんな時も同じ様に自室の部屋のベッドに転がり毛布に包まって寝る。
でも、寝れない日もあると思う。
そんな時はベッドで暖かい毛布に包まって大好きな音楽を聴いて目を瞑る。
そうしたらいつかは寝れる時が来る。
何にもうまくいかなかった。
梅雨みたいにそんなうまくいかない日々は続く。
人生100年分を1年間の四季で例えたらこの梅雨の時期は人生の何年分なんだろう。
いつこの梅雨は明けるのだろう。
勉強したのに赤点を取った。
先生に叱られた。
僕はちゃんと係の仕事をしたのに、サボった先輩の身代わりにされた。
先輩と先生に叱られた。
部活動で一生懸命絵を描いたけどこの前と比べると何も変わってなかった。
先生と多学年に笑われた。
バイトに5分前に着いたら遅いって言われた。
5分遅刻したイケメンの同い年の人には何にも言わなかった。
お客さんがグラスを倒したのに僕のせいにされた。
色んな人に叱られた。
色んな人に笑われた。
家に帰ったらまた赤点取ったの?って親に怒られる。
全然勉強しない地頭のいい弟には笑われる。
ずっとうまくいかない。ずっと僕の人生は雨が降り続けてる。
晴れる日は来るのだろうか。
バイト帰り、雨が降っていた。今日に限って折り畳み傘を忘れた。雨は土砂降り。病む気配もおさまる気配もない。仕方く濡れて帰るしか無い。
何にもうまくいかない日々。
何もうまくいかないなら早く家に帰って部屋に篭って大好きな曲を聴きながら寝よう。
そうは思うけど足取りは重い。もっと早く帰りたいのに、体もうまく機能しない。
帰り道、僕は道端でブレーキを踏んだ。
もう,これ以上足は動かない。体が本能的に拒んでいる。こんな現実が理不尽で、辛くて、苦しい。泣きたいのに雨で泣いてもわからない。泣いてもきっとこの雨じゃ気にも止めてくれない。
逆にこの土砂降りの中傘も刺さずに立ち止まる僕を変な目で見て嘲笑っていく。
雨かも知れない汚い涙を濡れた裾で拭った。
誰も傘をさしてはくれない。
でも足は動かない。
家にすら帰れない日は、
誰かに傘を刺してもらうまでずっと雨に佇むしかない。
『傘をください。』
「海へ行こう」
ふいにそう思った。
丑三つ時。
それでも変な時間に目を覚まして、髪はボサボサの儘、服も今から私服を着るのは怠いから部屋着のまま。
まだバスも電車も運転していない。
どう行こうかと考えた末、歩いて行こうと決意。
道走っている。いつか行きたいと思っていたから。
何度も地図アプリで見て、記憶して、いつかいつかと先延ばしにした。
だから、自分の足ならいける。
こんな時間には海なんてさほど良くは見えないだろうけど、お化けなんかが出てきそうで怖がりの僕には刺激が強いけど、あの大きな海水を、生き物を、美しい海を独り占めできるのは今この時間、海に憧れを持つ僕だけなんだ。