「冷めた熱に焦がれて」 1275文字
青く暑い夏は秋の物涼しげな微風に微々としてだが、去り行き、紅く染まり、淡く薄くなりゆく植物のほのかな青の匂いが涼しい秋の微風と共に街中に流れていく。
まだコートやマフラー、手袋の防寒着は必要そうにはないが、これからどんどん寒くなる事を見越せばそろそろ衣替えの準備を進める時期。
今年の青かったあの夏は、九月になっても中々去ることをせず、夏が滞住しているのか秋がサボっているのか、いやはや。ようやく秋を感じ始めた頃には9月終旬という時がすぎた。
青くて、暑い、あの夏は私にとっては飛んだ邪魔者で、夏が始まってクラスの皆が浮かれ立っている中私1人がきっと早く早く夏の過ぎ去れと願っていた。熱くて、鬱陶しい服のベタつきも、髪の毛の乱れも、汗と制汗剤などの香料でとんでもない臭いの更衣室。青く眩しく映る窓から見たグラウンドと空。夏休みの予定を立てる民衆たち。どれも彼もが鬱陶しくて煩わしかった。
青く輝き暑い空と同じくらい周りの人間も青くて、私はどうしようもなく気に食わなかった。
なるべく涼しいところ、夏をあまり感じさせない室内に篭って時を越し、秋の涼しさをまっていた。
そんな事を日も忘れる様に過ごしていればあっという間に夏はすぎゆくもの。待ち望んだ秋がどんなに遅くても早くても、必ずきてくれればそれでよかった。
涼しい風と紅く染まりつつある景色、ふんわりと揺れる髪、過ごしやすい天気、秋を知らせる合図が鳴った。
待ち望んだ秋。
のはずなのに、何故だか秋の涼しい微風と同じ様に私の心も冷たくなっていた。
秋を待ち望んで、夏を忌々しく思っていた私が、
夏に焦がれている。思わず口から出た「なんで」の言葉が風によって流され、冷たい風が頭を冷静にさせる。紅く染まった並木通りを歩きながら考える。そのゆく先は足に任せて考えれば段々と明白になっていく記憶。
全部気づいた頃には夏の間お世話になった図書館の前に辿り着いていた。
あの図書館で偶々出会った男子高校生。夏の間だけ、私といてくれた男の子。勉強を教えて貰ったり、教えたり、自分の学校の事や漫画や本のくだらない事を話した思い出。忘れちゃうくらい小さな事で繋がって、あの一カ月間だけ仲良くなった。どうせもう関わらないと思っていたからこそ、名前も下の名前しか知らなくて、どこの学校かも、何歳かも、連絡先も、何にも知らないあの男の子。
あの人と過ごしている間、確かに楽しかった。でも、夏限定だと決めていた私はあの人との心の繋がりを断ち切ってしまった。
そんな夏が過ぎ去り秋になった今、秋の寂しさが私の心を満たしていく。
あんなにも煩わしかった夏の青さが、熱が、私もあの時、確かに感じていた。
それに気づいたのは今さっきで、あの男の子と好きだった秋を共にしたかったという思いは後の祭り。
初めて感じた青さと熱に、秋の冷めた空気の中、私は焦がれていく。
青くて暑い過ぎた日々を想う。
薄手一枚では足りないくらいに寒い。
🔚
「過ぎた日を想う」
きっとまたその男の子とは会えるかもしれないけど、自分から夏限定と切っておいて、また繋がろうなんてことはできない。そんな事を思う女の子のお話。
10/6/2024, 9:25:27 PM