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寝ている脳がいきなり覚めた。変な胸騒ぎがした。
変に胸の奥がザワザワと騒ぎ立てる。
本当ならこのままもう一度寝に入るのに、体は勝手に上半身を叩き起こした。
今の今まで寝ていた頭は思く、ずっしりと感じる。
小さい頃から真っ暗では寝れず、常夜灯でしか寝れない自分は大人になった今もこの温かみを帯びるオレンジ色の落ち着いた空間の下眠る。
そう言えば彼女は真っ暗で寝るから、自分とは一緒に寝れないって言ってた。
部屋を見渡せばいつもと変わらない殺風景な空間。一つ言えるとすれば部屋の隅の棚の上に、オレンジ色の毛並みがふわふわしたテディベアのぬいぐるみがかざられている。負けず嫌いな彼女が一生懸命クレーンゲームで取ってくれた。僕は大きすぎる、とか、僕の部屋には合わないからって言って断ったのに頑なに僕にあげると譲らなかった。最終的には『あたしが一生懸命〇〇の為に取ったのに…』なんて拗ねた顔で言うもんで、僕がこの顔に弱いってこと知っててやってきたからやっぱり負けて仕方なく貰った。
でも、ぬいぐるみが好きなのは彼女で、僕の部屋よりも大きな寝室で、僕よりも大きなベッドいっぱいにぬいぐるみを詰めてる彼女。しかもあの時目を輝かせてるから取ってあげようか?なんて言ったらより大きな目をキラキラと輝かせてたくせに、彼女は優しいからハッとした顔をして別に欲しく無いよ。なんて意味のない嘘をついた。本当は欲しいくせに意地を張る彼女が可愛くて、じゃあ僕のために取ってよ。って言ったら『うん!』と花の咲く様な笑顔でゲームをプレイし続けた。苦戦し続けていたが負けず嫌いな彼女の性分、奮闘し続ければいつかは取れるもので、取れた時はぬいぐるみを抱いて『あげる!』って言われて嬉しかった。けど欲しいのは君でしょなんて言えば図星を突かれた様な顔をしたけど頑なに彼女の主張は譲らなかった。
僕はその大きなぬいぐるみを抱く君の笑顔を見たかったけど、その自慢げな表情もいいかも。って思ったのは内緒。
思い出に浸っていればザワザワとした胸騒ぎも落ち着いてきて、もう一度寝ようかとした時、「ピンポーン」と夜に合わない軽快な音が聞こえた。
こんな時間に…って思ったけどもしかしてなんて言う淡い期待を抱いて。
カメラなんて見ずにすぐさまぼーっとしていた頭を起こして座り込んだ体を立ち上がりベッドから離して早足で玄関に向かった。
ドキドキしながら玄関の扉を開ければ、君がいた。
突然の君の訪問。
何だろうと心配の気持ちと、嬉しい気持ち。
君は俯いて顔が見えない。服は可愛いパジャマのままで、何かあったのかと心配になる。
優しくどうしたの?と問い掛けても反応はない。その分もっと深く頭を下げてしまった。
困ったなと思いつつももう一度どうしたの、?と問い掛けようと、どうし、まで言った辺りで急に彼女が抱きついてきた。
僕はもっと困惑。彼女は僕の胸に頭をぐりぐりと押し付ける。可愛いけど心配で、優しく包み込む様に彼女の頭と背中を撫でる。そうすれば彼女の体が微かに動き、泣いているのだと察する。
彼女が泣いている時に独りにさせなくてよかったと言う思いと、どうしたのか心配のおもい。暫く撫でていると彼女が急に顔を上げた。その顔は泣き腫らした目に、不安と申し訳ないと言う顔。そして彼女は言った。『一緒に寝よう。』と。驚きながらも彼女のために何でもしてあげたい。その抱えている苦しみから解放してあげたい。だから『いいよ。』と彼女の耳に優しく囁いた。
そのまま彼女の靴を脱がして抱き上げて僕の寝室に向かう。
ついたら彼女を先に寝転がらせて布団をかける。そしてその隣に僕が入り、まだ寂しそうな顔をする彼女を抱き寄せる。すると安心したのか緩い顔つきになった。
『どうしたの。』
『別に』
『僕は常夜灯でしか寝れないよ。』
『別にいい。』
『僕のベッド狭いよ』
『〇〇を抱き枕にするから気にならない』
『僕の部屋、殺風景だよ。』
『…〇〇が居るから寂しくない。』
いつもそんなこと言わない彼女が、甘い言葉を呟いて、甘い寝顔で微笑んだ。
僕の部屋は彼女には合わないけど、でも、君が大好きな僕だから。
🔚
『寂しい夜は大好きな貴方に囲まれて』
8/28/2024, 11:15:40 PM