『モンシロチョウ』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「えっ、蝶?」
次の体育の授業前の休み時間。
何気に見たアイツの肩に、モンシロチョウが見えた。
思わず声に出していたらしい。
アイツが振り返る。
「俺?」
蝶はアイツの肩から動かない。
肩というより、肩甲骨の真ん中辺り。
左の。
水泳部のアイツの身体は、まだ水に入るのには寒いこの時期にも、既に焦げたトーストみたいにいい色で。
そこにふうわりと止まっていた。
「違う、違う。コイツのこれ、アザ?
シミ?」
同じ水泳部のヤツが笑いながら俺に教えてくれる。
アザ?
シミ?
確かに。
なんでモンシロチョウと思ったのか。
焼けた肌の上に有るのは、他の肌よりもいっそうくっきりした色だったのに。
「コイツのこれ、モンシロチョウみたいだよな。アゲハチョウみたいなシャープな感じじゃなくて
丸くて可愛い感じ?」
「知らねーよ。自分で見える位置じゃないし」
いつもと同じぶっきらぼうな口調。
でもちょっと照れてるのがわかる。
「うん、可愛い」
「うっせーよ。見んなって」
答える俺に、反応して赤面のアイツ。
ビックリするほど整った顔で、入学式の日から目が離せなかった。
同じクラスになって、まだ1ヶ月余り。
まだまだ知らないことのほうが多いけど、少しずつ距離が縮めたい。
出来れば、お互いに。
≪追記≫
タイの某俳優さんが、肩甲骨にタトゥーを彫っていたり、香港の某俳優さんの肩甲骨にシミのような痣が有ったりと、この部位はなかなかにエッチィ気がします。
普段は見えないし、更にいうと自分では見えないし、脱いだ時だけ現れるというのもなんか良いなぁと思っております。
『初恋の日』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「初恋?」
口元まで持っていってた、ビールのグラスを思わず止めて、俺は聞き返した。
「そう、初恋。マモの初恋っていつ?」
邪気の無い笑顔で聞いてくる、それが一番最悪。
キラキラした目で俺を見んなって。
「だって、俺達ずっと一緒に遊んでるけど、マモって恋愛関係は割りと秘密主義やん」
クソうるさい居酒屋やのに、一瞬どのテーブルも会話が途切れたのか静かになって、BGMがその隙をついた。
そのたまたま聞こえた歌詞の初恋という言葉に、単純なコイツは食いついたらしい。
それって本当に興味あって聞いてる?
スゴく雑な気がするのは俺だけ?
そんな俺の気持ちに気づくこと無く、さらに続ける。
「俺は結構、恋ばなマモにしてるのに、俺は全然知らんな思て」
確かに。
お前の初恋が、桃組さんの更紗ちゃんってことも、その後の好きや告白したや、別れたや、そんなん全部ご丁寧に俺に教えてくれてるわな。
そのたんびに俺は、自分の心に蓋をして、背中押したり、慰めたり。
思えば同じようなデザインで作られた建て売りに、お前とこ一家が、俺ん所よりちょっと遅れて引っ越ししてきた日が俺の初恋の日。
女の子やと思った、パッチリな目に長い睫毛。
ちょっと天パはいってる、日の光りに茶色にきらめく髪の毛。
プクッとした頬っぺたはピンク色で。
それから、ずっと一緒。
幼稚園も。
小学校も。
中学も。
高校も。
さすがに大学は別れるかと思ったけど、専攻こそ違えキャンパスは同じ敷地。
社会人になれば、お互いの会社が取引先。
なあ、そろそろ気付かん?
これだけ縁が有るねん。
これからかって、きっとそう。
そやから、俺にしときーや。
俺やったら、絶対に別れへん。
絶対にお前を泣かさへん。
なんて言うたら、コイツどんな顔すんねんやろ?
「俺の初恋、聞いたらビビんでお前」
「えっ、何で何で。そんなスゴいん?」
更にキラキラと瞳が輝やいてるやん、お前。
「しゃーないな、今夜は特別やで」
3分後、「聞くんじゃなかった」なんて後悔すんなや。
『明日世界がなくなるとしたら、何を願おう』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「明日、世界が無くなるとしたら、何を願いますか?」
某番組に出すアンケート。
その質問を声に出して読みながら、俺は呟いた。
「アホくさ」
そんなもん、何を願っても終わりは終わりやんけ。
神様か仏様か知らんけど、そんなもんに願って何とかなるんやったらまだしも、今更決まってることをどうひっくり返せ言うねん。
ああ、そやな。
ほんなら明日、M-1の決勝にしてくれや。
んで、俺達が華々しく優勝してアイツが俺に抱きついたところで全てが消滅。
それやったらエエな。
もしくは実行有るのみで、アイツ押し倒して思いを遂げるか。
どうせ最後やし、無理矢理…
アカン、アカン。
想像したら、鼻血出そうや。
そう。
俺はずっと相方に恋してる。
俺のアドリブに、ツッコミ忘れて本気で笑ってる顔なんてもう、ホンマ、輝いてて見とれてしまう。
けど、やっぱり、好きやとは言われへん。
相方も好きやけど、相方とする漫才も好きやから、こんな思いを告げてギクシャクはしたないから。
「え、何?」
俺の視線を感じたんか、正面に座って同じくアンケートを書いてた相方が顔を上げた。
「何がって何?」
なんて誤魔化して、俺は続けた。
「にしても、しょーもない質問やな」
「ホンマなぁ。俺、お前とM-1優勝って書こか思たけど、マジ過ぎてやめたわ」
ヤバい。
なんや、その照れた顔!
メチャクチャ可愛いやんけ。
動揺を隠しつつ、俺は答える。
「アホか。ひねれひねれ。って言いながら、俺もちょっと思た」
「真面目か!てか、2人ともか」
なんて言いながら、お前が笑う。
つられて俺も笑ってしまう。
せやな。
お前と居れれば、どんな最期でもかまへん。
それでもやっぱり、それまでに絶対にM-1取って、お前の夢叶えたる!
それが俺の夢やから。
『君と出逢ってから、私は…』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
♪君と出逢ってから~、いくつもの夜を語り明かした
はちきれるほど my dream~
トランクひとつだけで、浪漫飛行へ in the sky
飛びまわれ、この my heart~♪
仕事帰り、明日は休みと言うことで久しぶりに職場の何人かと夕飯へ。
その後、これまた久しぶりのカラオケに。
日付も変わったし、課長の『浪漫飛行』も出たことだし、そろそろお開きかな。
というか、課長の『浪漫飛行』ホント久しぶりだなぁ。
まあ、コロナが流行ってからは会社関係の飲食は一切禁止になっていたし。
けど、課長の好きなこの歌は、既にすっかり俺の耳に馴染んでいて、テレビなんかで本物の歌手が歌ってるのを見ても、課長を思い出してた。
普段は落ち着いたハスキーな声なのに、歌っている時は綺麗な高音響かせてて。
プルースト効果って、ある特定の香りがそれに結び付く記憶や感情を呼び起こす効果があるけど、俺の場合は香りじゃなくて歌。
『浪漫飛行』を聴くと課長を思い出す。
ハッキリとした二重なのに、笑うと無くなっちゃう目とか、横から見た時にくっきりと出てる喉仏とか、書類を指差す時の骨ばった長い指とその先にある形の良い爪。
課長の声で名前を呼ばれたら、聞き惚れちゃってたまに内容が入ってこないし。
課長、ご機嫌だけど酔っぱらってはいないんだろうなぁ。
いっそ3件目誘って酔い潰すか?
いや、ダメだ。
どう考えても俺のほうが、酒は弱い。
ああ、何かお持ち帰りする方法無いなぁ。
いや、俺が課長の家に行っても良いけど。
課長。
課長はご機嫌に「君と出逢ってから~、いくつもの~」なんて歌ってますけどね、俺は課長と出逢ってからずっと一途に片想いですよ。
そろそろ限界なんで、コクっても良いですか?
愛してますよ、課長。
大地に寝転び雲が流れる からのストーリーとして~
『行雲流水』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「おや、珍しい。今年は随分と早いお出ましで」
そう言うと彼は、ふわりと空中に浮いた相手に両手を伸ばした。
「ぬしの顔が見とうて、つい気が急いたわ」
その腕を肩に乗せ、音も無く地に舞い降りたは、先の者よりも幾らか大きい身体。
それを折るようにして、腰に回した手に力を入れ、ぐいと己れに引き寄せる。
どちらも人ならぬ身。
そう、何時しか『神』と崇められるようになった者。
古来より、一年は四つの季節・春夏秋冬とそれを緩やかに繋ぐ土用とで成り立っていた。
現代では夏の土用だけが特化しているが、本来、どの季節の間にも土用は存在している。
今は春の土用。
今年は四月十七日より、立夏までの五月五日がそれに当たる。
そして五月六日の立夏をもって、季節は夏に入る。
迎え入れたは、土用の神。
舞い降りたは、夏の神。
土を司る土用は、それを表す色、黄よりも黄金に近い輝きを持つ。
恵みの大地の如く豊穣の金。
緩やかに結った長き髪も、柔らかい笑みを見せる瞳も、身に纏う(夏に言わせれば、脱がすのに手間のかかる)衣も、輝きを抑えた金。
一方、夏はその季節を表す朱(あか)らしく。
高い位置で結い上げた髪も、朱。
その身に太陽の輝きを持つかのような瞳も朱。
逞しい、鍛えられた身体を僅かに隠す衣も朱である。
数えきれぬ程の引き継ぎの日々を経て、二人は互いにかけがえの無い存在になった。
夏の肩に乗せた手でそのまま頭を抱き、顔を近付ける土用。
「本来ならば引き継ぎは一時(2時間)も有れば済むものを。相変わらず、自由なお人よ」
言葉とは裏腹。
夏の返事を待たずに、その唇で塞ぐ。
今日はまだ、五月四日。
五月六日までは二人の時ーーー
一方、その頃の人間は…
「今年、暑くなるの早くない?」
「5月で真夏日って、意味わかんない」
「GWなのに、海が賑わってるって」