『ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「ジャスティスセブン! 今日はコレぐらいにしといてやる! 覚えていろ!」
某特撮番組の撮影。
悪の怪人アクマイダーの中の人こと、俺・市村大和は、正義の味方ジャスティスセブンに捨て台詞を残すと逃げ出した。
「カーット!」
撮影監督のカットの声に、今日の撮影も無事終わったと振り向いたら…
「エッ? なに?」
カットがかかったのに、何故かジャスティスセブンが追っかけてくる。
「どういうこと?」
訳はわからないけど、追いかけられれば逃げたくなるのが人間のサガと言うもので。
全身着ぐるみ状態の俺は、ドタドタと走り出す。
それを更に追いかけてくるジャスティスセブン。
「おーお、元気だなぁ。まだチカラ余ってんのかぁ」
なんて監督の呆れた声。
そりゃそうだ。
さっきまで結構派手な立ち回りしてたのに。
つか、フルフェイスでピタッとしたアクションスーツのジャスティスセブンは身軽でいいけど、俺は全身色々着いた着ぐるみな訳で。
どんどん、その差は縮まってくる。
と思ったら、俺はそのまま!
お姫様だっこ~?
どこの世界に、正義の味方にお姫様抱っこされた、悪の怪人がいるんだよ~!
「地球の平和のため、無駄な争いは止めて、俺達付き合います!」
ジャスティスセブンの宣言。
いや、確かに昨日、冗談で地球の平和の為には、正義の味方と怪人が付き合えば良いって話をしたけど…
マジでなに言ってんだか。
確かにジャスティスセブンのスーツアクター・中臣光希と俺は、付き合ってる。
って言うか、絶賛同棲中だけど。
「コラー。勝手にストーリー変えてんじゃないぞ。てか、まだフィルム回したままだから、DVDの特典映像にいれるからな、お前ら」
え、ちょっと監督!
悪乗りし過ぎ!
「ミッちゃん、おろして! マジでおろして!」
ジタバタ暴れる怪人を抱いたまま、正義の味方ジャスティスセブンは夕陽を背に立ちポーズを決めているのであった。
「いや、マジでおろして。ホントに」
『ごめんね』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「怪人アクマイダー! お前の好きにはさせない! 正義に呼ばれてジャスティスセブン只今参上!」
「来たなジャスティスセブン! 今日こそ返り討ちにしてやる!」
ビシッと決めポーズを決める正義の味方・ジャスティスセブン。
対するはグロテスクな怪人・アクマイダー。
派手な立ち回りが始まる。
さっきのテイクで迫力が足りないと監督に言われたせいか、ジャスティスキックが勢いあまって怪人の腹にモロに入った。
そのままうずくまりたい衝動を抑え、怪人アクマイダーはグッとこらえると捨て台詞と共に姿を消した。
「なかなかやるな、ジャスティスセブン! 今日はこの辺で許してやる!」
「ミッちゃん、ごめんごめん。」
小走りに近づいた俺は、「お待たせ~」と言いながら車に乗り込む。
待っててくれたのは、正義の味方・ジャスティスセブンの中の人こと、中臣光希。
「走ってこなくてもいいのに。怪人はメイク落とすの大変だってわかってるんだから」
変身後の姿がフルフェイス仕様のジャスティスセブンと違って、俺の怪人アクマイダーは、実際の顔との繋ぎ目が特殊メイクで落とすのがなかなか大変だったりする。
勿論最初のメイクも、時間がかかるし。
でもいつもミッちゃんは、俺と同じ時間に出てくれるし、終わったら待っててくれる。
愛されてるなぁ、俺。
なんちゃって、反対の場合は勿論俺もそうするけど。
「それよりさぁ」
まだ車を出さずに、ミッちゃんが俺の方を向く。
「ごめん、大和! モロに腹に入っちゃって。本当にごめんね!」
両手を合わせての必死の謝罪。
「え、そんな大袈裟な。大丈夫だって」
「いやいやいや。あれは俺の完全なミス! 大和だからとっさに引いてくれたけど、普通ならシャレになんない。マジごめん!」
「ホント大丈夫だから。監督、俺がメイク落としてる所にわざわざ来て言ってたよ。さすがミッちゃんだし、さすが大和だって。良いシーンになって良かったじゃん」
「ごめんな。次からホント気をつけるから!」
真剣に怪人のことを心配してくれる正義の味方。
ちょっと可笑しくなってしまう。
「本当にジャスティスセブンとアクマイダーもこんな感じだったら地球は平和なのにな」
笑う俺に、ミッちゃんも大事無いと安心したのか、笑顔を返す。
「ジャスティスセブンとアクマイダーがラブラブになっちゃうの?」
「そ。そしたら、争いなんかなくって皆が幸せになれるじゃん」
「いいけど、そしたら第1話でめでたしめでたしで終わっちゃうよ。」
「良いじゃん。1年間、ジャスティスセブンとアクマイダーのラブラブ生活見せるとか」
「何だ、それ。ニチ朝の歴史が変わる」
そう。
そんな日曜の朝も良いかもね。
なんて笑いながら、正義の味方ジャスティスセブンと怪人アクマイダーは、2人の愛の巣に帰って行くのであった。
『半袖』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
半袖というと思い出す、俺・正宏とアイツ・卓弥の夏。
梅雨に入る前にもう夏かよ、ってな暑い日が続いて、さすがに学校も個人の判断に任せると言い出したある日、俺達は半袖のお供、シーブリーズを買いにきた。
その頃、付き合ってる者同士はシーブリーズのキャップを取り替えるってのが流行りだしてて、クラスでもクラブでもキャップの色が違うのを持っているのがステータスだったんだ。
でも悲しいかな。
俺達は付き合ってる、なんて堂々とは言えない訳で。
2年後、お互い志望の大学に入れたらシェアリングと言う名の同棲をしような、なんて約束していて。
(それまでは、こういったイチャイチャはお預けたよなぁ)
なんて俺は、シーブリーズをぼんやり眺めていた。
「ヒロ、どれにするか決めたん?」
親に頼まれた歯みがき粉を取りに行ってた卓弥が、後ろから声をかける。
「あ、うん。俺、これにしよかな。シトラスシャーベット」
「それ、めっちゃ冷たくなるヤツやろ。俺もそうしよ」
卓弥はふたつそれを持つと、全部まとめて会計をしてくれて。
「ええって。自分で買うって」
「かめへん、かめへん。オカンかお釣りで茶でもシバいてこいって余分にくれてるねん。マクドもおごれるで、今日は」
あ、イケメンのドヤ顔。
ちょっと笑ってまう。
「はい、コレ」
キュッとキャップを回して、外したものを取り替える。
それを1本、俺に手渡してくれた。
「エッ?」
「流行ってんねんやろ? 付き合ってる者同士でキャップ交換するの。同じのやけど、俺らが知ってればそれでエエやん」
何やねん、お前!
もう、ホンマ好き!
「なに、シーブリーズ見ながらニヤニヤしてんねん。怪しいヤツ」
シーブリーズの売場で思い出し笑いしてた俺に、卓弥が声をかける。
「柔軟剤、取ってきたで」
そう。
あれから2年。
俺達は晴れて、一緒に暮らす初めての夏を迎える。
『突然の別れ』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「おかしいなぁ、この辺や思てんけどなぁ」
「もうエエやん。みうちゃん、諦めぇや」
這いつくばるようにして探す俺に、漣はのんびりした声をかける。
俺は、榊原美優人(みうと)
そして、蓮のフルネームは古澤漣。
漣のおばあちゃんはスイス人とかで、漣も『染めてません』って文書を学校に提出するぐらいの天パな茶髪なので、女子達は陰では『ふわふわ王子』なんて呼んでいる。
ふわふわは髪の毛のこともあるけど、性格もふわふわでポヤ~としてる。
なので、小学校からの付き合いの俺は、ちょっとした保護者気分?
と言いながら、漣に近づくヤツを威嚇してるだけだけど。
で、さっきから何をしてるかっていうと、一時間程前、学校が終わって2人でチャリで遊びに行く途中、俺がトラックの左折に巻き込まれた。
とはいえ、いなか道だから、横はちょっと広めの用水路だし、トラックも軽トラに毛のはえた位の大したこと無い大きさだけど。
結局、バランスを崩して用水路に落ちただけで、怪我のひとつも無く、トラックの運チャンは何度も謝りながら行ってしまって無地終了と思ったら、漣から貰ったアイスのアタリ棒が無い!
漣は諦めろって言うけど、折角、漣がくれたのに!
使わずに俺の宝物にしようと思ってたのに!
なんて俺は諦めきれず。
「もうエエやん。また当てたらあげるし」
「ちゃうねん!漣に貰ったいうのが大事やねん。折角くれたのに」
「アタリや思てあげたけど、みうちゃんがトラックに当たりそうになるなんてなぁ。なんか、縁起悪いからもうエエて。ホンマ、みうちゃんが無事で良かったわ。なんかあったらと思うと」
確かに、無事やったから良かったと思ったほうが良いのかな。
俺もちょっとそう考え直した。
うん。
なんかあるより、漣と一緒が一番やもんなぁ。
『後悔』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
駿斗ver.
あんなこと、言うんじゃなかった。
「俺…お前のことが好き。春飛のことが好きだ!」
「えっ…!?」
驚いた顔のまま、固まってしまったアイツ。
小2の時に出会って10年。
知り合ってからのほうが長くなった。
いつの間にか、俺の気持ちは友情から恋に変わっていて。
でも、何とはなくだけど…
アイツも、俺のこと?
なんていうことがあったから、大学で遠くへ行くアイツに思い切って打ち明けた。
俺の本当の気持ち。
アイツが好きだっていう気持ち。
でも、アイツは固まってしまって、俺は怖くてその場を逃げ出したんだ。
言わなきゃ良かった。
あんなこと、言わなきゃ良かった。
そしたら、気持ちを隠したままでも、親友ではいられたのに。
もう、顔も会わせられない…
なに、やってんだろ俺。
春飛ver.
ウワッ!
ビビった、突然の告白って。
思わず頭が真っ白になって、固まってしまった。
てか、言うだけ言ってそのまま走り去るって。
なんか、駿斗らしい。
返事聞けって。
にしても、本当は俺も今日、告ろうって思ってたのが、先を越されて一瞬反応しそこねちまった。
ちょっと悔しい。
コクってくれた時のアイツの顔、真っ赤で可愛かったな。
さて、追いかけて、今度は俺からちゃんと話をしよう。
俺からじゃなかったのが残念だけど。
うん、まあ、仕切り直し。
晴れて両想いになるように、今度は俺から告白しよう。
アイツ、どんな顔するだろな。