『半袖』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
半袖というと思い出す、俺・正宏とアイツ・卓弥の夏。
梅雨に入る前にもう夏かよ、ってな暑い日が続いて、さすがに学校も個人の判断に任せると言い出したある日、俺達は半袖のお供、シーブリーズを買いにきた。
その頃、付き合ってる者同士はシーブリーズのキャップを取り替えるってのが流行りだしてて、クラスでもクラブでもキャップの色が違うのを持っているのがステータスだったんだ。
でも悲しいかな。
俺達は付き合ってる、なんて堂々とは言えない訳で。
2年後、お互い志望の大学に入れたらシェアリングと言う名の同棲をしような、なんて約束していて。
(それまでは、こういったイチャイチャはお預けたよなぁ)
なんて俺は、シーブリーズをぼんやり眺めていた。
「ヒロ、どれにするか決めたん?」
親に頼まれた歯みがき粉を取りに行ってた卓弥が、後ろから声をかける。
「あ、うん。俺、これにしよかな。シトラスシャーベット」
「それ、めっちゃ冷たくなるヤツやろ。俺もそうしよ」
卓弥はふたつそれを持つと、全部まとめて会計をしてくれて。
「ええって。自分で買うって」
「かめへん、かめへん。オカンかお釣りで茶でもシバいてこいって余分にくれてるねん。マクドもおごれるで、今日は」
あ、イケメンのドヤ顔。
ちょっと笑ってまう。
「はい、コレ」
キュッとキャップを回して、外したものを取り替える。
それを1本、俺に手渡してくれた。
「エッ?」
「流行ってんねんやろ? 付き合ってる者同士でキャップ交換するの。同じのやけど、俺らが知ってればそれでエエやん」
何やねん、お前!
もう、ホンマ好き!
「なに、シーブリーズ見ながらニヤニヤしてんねん。怪しいヤツ」
シーブリーズの売場で思い出し笑いしてた俺に、卓弥が声をかける。
「柔軟剤、取ってきたで」
そう。
あれから2年。
俺達は晴れて、一緒に暮らす初めての夏を迎える。
5/29/2023, 5:18:36 AM