『初恋の日』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「初恋?」
口元まで持っていってた、ビールのグラスを思わず止めて、俺は聞き返した。
「そう、初恋。マモの初恋っていつ?」
邪気の無い笑顔で聞いてくる、それが一番最悪。
キラキラした目で俺を見んなって。
「だって、俺達ずっと一緒に遊んでるけど、マモって恋愛関係は割りと秘密主義やん」
クソうるさい居酒屋やのに、一瞬どのテーブルも会話が途切れたのか静かになって、BGMがその隙をついた。
そのたまたま聞こえた歌詞の初恋という言葉に、単純なコイツは食いついたらしい。
それって本当に興味あって聞いてる?
スゴく雑な気がするのは俺だけ?
そんな俺の気持ちに気づくこと無く、さらに続ける。
「俺は結構、恋ばなマモにしてるのに、俺は全然知らんな思て」
確かに。
お前の初恋が、桃組さんの更紗ちゃんってことも、その後の好きや告白したや、別れたや、そんなん全部ご丁寧に俺に教えてくれてるわな。
そのたんびに俺は、自分の心に蓋をして、背中押したり、慰めたり。
思えば同じようなデザインで作られた建て売りに、お前とこ一家が、俺ん所よりちょっと遅れて引っ越ししてきた日が俺の初恋の日。
女の子やと思った、パッチリな目に長い睫毛。
ちょっと天パはいってる、日の光りに茶色にきらめく髪の毛。
プクッとした頬っぺたはピンク色で。
それから、ずっと一緒。
幼稚園も。
小学校も。
中学も。
高校も。
さすがに大学は別れるかと思ったけど、専攻こそ違えキャンパスは同じ敷地。
社会人になれば、お互いの会社が取引先。
なあ、そろそろ気付かん?
これだけ縁が有るねん。
これからかって、きっとそう。
そやから、俺にしときーや。
俺やったら、絶対に別れへん。
絶対にお前を泣かさへん。
なんて言うたら、コイツどんな顔すんねんやろ?
「俺の初恋、聞いたらビビんでお前」
「えっ、何で何で。そんなスゴいん?」
更にキラキラと瞳が輝やいてるやん、お前。
「しゃーないな、今夜は特別やで」
3分後、「聞くんじゃなかった」なんて後悔すんなや。
5/7/2023, 4:26:42 PM