大地に寝転び雲が流れる からのストーリーとして~
『行雲流水』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
「おや、珍しい。今年は随分と早いお出ましで」
そう言うと彼は、ふわりと空中に浮いた相手に両手を伸ばした。
「ぬしの顔が見とうて、つい気が急いたわ」
その腕を肩に乗せ、音も無く地に舞い降りたは、先の者よりも幾らか大きい身体。
それを折るようにして、腰に回した手に力を入れ、ぐいと己れに引き寄せる。
どちらも人ならぬ身。
そう、何時しか『神』と崇められるようになった者。
古来より、一年は四つの季節・春夏秋冬とそれを緩やかに繋ぐ土用とで成り立っていた。
現代では夏の土用だけが特化しているが、本来、どの季節の間にも土用は存在している。
今は春の土用。
今年は四月十七日より、立夏までの五月五日がそれに当たる。
そして五月六日の立夏をもって、季節は夏に入る。
迎え入れたは、土用の神。
舞い降りたは、夏の神。
土を司る土用は、それを表す色、黄よりも黄金に近い輝きを持つ。
恵みの大地の如く豊穣の金。
緩やかに結った長き髪も、柔らかい笑みを見せる瞳も、身に纏う(夏に言わせれば、脱がすのに手間のかかる)衣も、輝きを抑えた金。
一方、夏はその季節を表す朱(あか)らしく。
高い位置で結い上げた髪も、朱。
その身に太陽の輝きを持つかのような瞳も朱。
逞しい、鍛えられた身体を僅かに隠す衣も朱である。
数えきれぬ程の引き継ぎの日々を経て、二人は互いにかけがえの無い存在になった。
夏の肩に乗せた手でそのまま頭を抱き、顔を近付ける土用。
「本来ならば引き継ぎは一時(2時間)も有れば済むものを。相変わらず、自由なお人よ」
言葉とは裏腹。
夏の返事を待たずに、その唇で塞ぐ。
今日はまだ、五月四日。
五月六日までは二人の時ーーー
一方、その頃の人間は…
「今年、暑くなるの早くない?」
「5月で真夏日って、意味わかんない」
「GWなのに、海が賑わってるって」
5/4/2023, 3:46:33 PM