不特定多数

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8/5/2024, 5:37:46 PM

鐘の音

君に指輪を嵌めている彼の瞳を見て、この間のことを思い出したんだ。幸せにしてやれよって言うと彼はいつになく嬉しそうに笑っていて、本当に本当に、せいせいしたものだ。
私はもう、君で悩むこともない。彼に羨望感を抱くことも、君の目線の先を追うこともない。
彼と彼女の、私の親友と想い人の、結婚式は順調に進んでいる。
二人が永遠の愛を誓うと鐘が鳴り始める。その音はどこか無機質に思えたが、妙に心臓に響く。つい目頭が熱くなったが、隠すこともないだろう。これはきっと、祝福のための涙だから。
桜舞い散る中で見たドレス姿の君は何よりも綺麗だった。

8/2/2024, 6:21:21 PM

病室

隣の部屋の唸り声と絶叫が夜10時を知らせる。何を言っているかまでは分からないが、とにかく哀れだと思った。
隣人も、叫びたくはないだろう。ただやるせなくて、どうしようもなくなってしまうのだ。きっと。
そのまま叫び声をバックグラウンドにして、目を瞑る。夜は心が蝕まれるような感じがして早く寝てしまおうと思うのだけれど、妙に目が冴えて、天井と瞼の裏を交互に見ている。
ここに来てから、寝付けないとき祖父を思い出す。病室で寝たきりになっていて、最後の方は意識があるところさえ見れなかった祖父を。
私が思い出すのは決まってその最後の方で、暗くて、静かで、沈痛としている病室。そこで祖母や父母が先生と何か話していて、私は気まずくって端っこで黙っていたところ。
それと、棺の中の祖父と別れたところ。悲しかったはずなのに泣けなかった自分に、子供心ながら引いていたこと。
白い部屋で一人で寝ていると自分が異物になったようで、そんなことを思い出す。
自分のことばかり、と自嘲しても虚しくて、私も叫んでしまおうか、なんて。

8/2/2024, 7:55:05 AM

明日、もし晴れたら

明日、もし晴れたら君に会いに行こう。
そして、一緒に出かけよう。
手を繋いで、広場にいるキッチンカーでバゲットサンドでも買って、ベンチでのんびりしよう、詩なんて詠んじゃったり。
商店街の古本屋で出会いを期待して本を見たり、あてもなく歩いたりしよう。
そして、君にさようなら、って伝えよう。
もし、明日には晴れていたら。
カーテンの隙間から空を見た。鈍く沈んだ空に、戦闘機が飛んでいる。遠く離れていてどこの国のものかは分からなかったが、私は、死にたくないと思った。
生き延びたところで、元のような日常は戻らないと知っていたが、本当は、君と抱き合って、また会えたねって笑いたかった。
祈りのために組んだ手が震えている。

8/1/2024, 7:57:51 AM

だから、一人でいたい。

友達と話すあなたを目で追う。笑っている。私を壊した張本人だっていうのに、それはそれは楽しそうに笑っている。

彼女はいつも輪の中心で、一人でいるところを見たことがない。いつ見ても友達と一緒で、色々なグループと遊んでいるのかそこかしこから噂を聞く、ような気がする。
私は外からそれを見ていた。関わることもなかった。例えるならば、光の彼女と、蛾の私。私は光に背を向けて、いつも一人でいた。
別に寂しくはなかった。それは平穏で、平静で。そのままでよかった。
だというのに、あなたは私を照らした。照らしてしまった。
私に笑いかけて、私の手を引いて、私を見ていた。そしてまた離れていく。普段だったら、そんなのとっくに切り捨てている。
だのに目が合うから。そんな目で見るから。
もう、訳が分からなかった。
それからふとしたことにあなたを思い出す。目で追いかけてしまうし、前より噂が頭に入ってくる。
本当に、嫌だった。こんな情けない自分も、私をめちゃくちゃに壊してしまったあなたも。
こんな思いをするくらいならいっそ初めから、一人のまま。
だから、一人でいたかったのに。

7/30/2024, 11:08:50 AM

澄んだ瞳

開いたままの窓から心地よい風が吹いて髪を揺らす。僕と君は教室に二人きり。
ふと、君は課題から視線を上げる。目が合って、ずっと見ていたことがバレてしまうかと思った。でも君は何も言わずに、頭のヒマワリの髪飾りを指す。
「ヒマワリの花言葉って、知ってる?」
僕へと目を据えそんなことを聞く。たしか、あなただけを見つめるとか、そんなのだったっけ。
「それね、私なの」
いつも通りの表情のままさらっと言う。
けど、それって。
「もしかして、告白してる?」
海みたいに澄んだ、
「ふふ」
君の瞳に焦がされそう。

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